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1321)借地非訟の決定例に見る収益地代

 平成26年改正不動産鑑定基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、地代を求める手法として、新しく一つの手法を加えた。

 その手法の名前は、「賃貸事業分析法」と云う手法である。
 その求め方の内容については、既に鑑定コラムで述べている。

 東京地裁の借地非訟の決定例で、附随処分に伴う地代の改訂として、賃貸事業分析法によって地代を求めた例がある。

 そのことについて、拙著『賃料<地代・家賃>評価の実際』p365(プログレス)で記されている。

 その決定例では、「底地残余法」という用語が使用されているが、その地代の求め方は、賃貸事業分析法の求め方である。

 関係無い部分は省略して、下記に転載する。


 「私の知る限り、借地非訟事件の決定例で、鑑定委員会の不動産鑑定士の一人の方が、賃料より地代を求めている鑑定例が平成3年に一件行われていることが、公にされている。どなたがやられたか私は知らないが、優れた感覚を持った不動産鑑定士の方と私は思う。その決定例を下記に記載する。

 借地非訟事件の決定例(『借地非訟便覧』3巻P1300-820 新日本法規)
 事例 増改築許可申立事件(400の45 東京地決平成3年8月5日)

 増改築予定建物
  木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建アパート
  床面積   73.98u(1階・2階共)

1 裁判所の決定
 一 申立人が相手方に対し、本裁判確定の日から3か月以内に金1155万円を支払うことを条件として、<本件土地>上の<現存建物>を取り壊し、<  増改築予定建物>を建築することを許可する。
 二 申立人と相手方との間の<本件土地>についての賃貸借契約の賃料を前項の許可の効力が生じた日の属する月の翌月1日から月額金4万円に改定する。

2 理由の要旨
(1) 相当の理由  省略
(2)給付額の計算 省略
(3)地代の改定については、次の二つの手法を併用して相当と認める額を求めた。
 (底地残余法)
 本件増改築では、ワンルームマンション10戸が計画されている。

 近隣等の相場から一戸当り65,000円(月額)で賃貸するものとし、契約時に権利金と敷金をそれぞれ家賃の1か月と2か月相当額を受取るものとすれば(契約期間 2年)、年間収入として家賃収入に権利金の償却額と運用益並びに敷金の運用益を加えた額8,268,000円を期待することができる。

 一方、必要諸経費としては、減価償却費1,500,000円(建物建築費を30,00 0,000円、経済的耐用年数を20年として計算)、公租公課380,000円(うち土 地について126,000円)維持修繕費、管理費損害保険料等の諸経費1,500,000 円、貸倒空室損失相当額325,000円(家賃収入の半月分)を見積り、合計3,7 05,000円とすると、年間純収益は4,563,000円となる。

 このうち建物投資に対する利潤相当額を投下資本収益率を10%として3,000,000円とすれば、残余として求められる土地帰属額は1,563,000円であり、賃貸人に帰属する部分をその40%(底地割合相当額)として、625,000円(月額52,080円)を得る。
  (注)権利金、敷金の運用利回り8%として計算

(スライド法) 省略」


 転載終わり。

 空室損失の計上には、私は異を唱えるが、家賃収入から地代を求めるやり方には、私は全面的に賛同する。

 部分的には、建物利益配分の利益収益率10%の根拠の説明が欲しい。

 借地人に帰属する利益は、借地権割合60%を採用して求めているが、ここは私は50%とする。このことについては、既に他の鑑定コラムの記事で述べた。

 先人の不動産鑑定士の働きがあって、平成26年鑑定基準に、新しく「賃貸事業分析法」という手法が取り入れられたのである。

 何の下地も無く、突然「賃貸事業分析法」という手法が作られ、取り入れられたものでは無い。

 本題とは離れるが、上記転載の地代決定例から、幾つかのことが教えられる。

 決定例は、平成3年のものである。

 その決定例の敷金に、「運用利回り8%」と記されている。

 現在の敷金の運用利回りは、1〜1.5%程度である。

 8%の運用利回りなど、夢のまた夢であろう。

 当時はその利回り前後で、私も鑑定評価していた。

 金融事情の変動が、如何に激しいか改めて実感する。

 2つ目を述べる。

 本件土地の上に、1戸当り6.5万円の賃貸ワンルーム10戸の建物が計画されている。
 この計画は実現性が高い。

 何故かと云えば、そうした建物目的による土地利用であるから、増改築を承諾して欲しいと、借地人は、建物図面を付けて裁判所に、借地非訟での解決を申し立てるのである。

 10戸の賃貸ワンルームマンションの月額収入は、

      65,000円×10戸=650,000円

である。

 決定例では、2つの地代額が記されている。
 裁判所の決定地代月額4万円と、鑑定委員の不動産鑑定士が求めた鑑定地代月額5万2080円の地代である。

 収入に対する地代の割合は、

        40,000円÷650,000円≒0.062
        52,080円÷650,000円≒0.08

である。

 家賃と地代の間には関係があるのであろうか。

 前掲の拙著『賃料<地代・家賃>評価の実際』p351(プログレス)に、家賃と地代の間には関係があると述べている。

 地代は家賃に対して、

  
      商業地    0.135
      住宅地    0.072

の関係が認められると分析されている。

 本件決定例の場合には、0.062〜0.08の割合である。
 本件は住宅地の決定例である。
 地代と家賃の間には関係が認められるというデータの一つになろう。

 3つ目を述べる。

 決定例は、長い間賃貸借関係が続いている借地である。
 その地代は、継続地代ということになる。

 継続地代の算定に収益分析法が使用されている。新鑑定基準の「賃貸事業分析法」である。

 26年の改正された鑑定基準では、「賃貸事業分析法」の手法は、新規実質賃料を求める手法としている。

 改正前の鑑定基準も「収益分析法」は、新規賃料を求める手法に分類している。

 これに対して、私は、収益分析法は新規賃料、継続賃料の分類には入らない手法である。それ故新規賃料の場合でも、継続賃料の場合でも使えると主張している。

 私のこの主張に対して、

 「田原不動産鑑定士は、鑑定基準違反の鑑定評価を行っている。
 そして鑑定基準が間違っていると主張している。
 田原不動産鑑定士の考えは、全て間違っている。
 とんでもない不動産鑑定士だ。」

と批判する人々がいる。

 鑑定基準を批判せず、鑑定基準が絶対的に正しいと信じ込み、鑑定基準べったりで生きて行く方が摩擦もなく、無難であり、楽である。

 鑑定基準が間違っていると主張している人を批判する方が楽である。

 鑑定基準が改正されたら、その改正されたものが正しいと考えを乗り換えればよいのである。

 しかし、鑑定基準が改正されると云うことは、それまで云っていたこと、行っていたことが間違っており、或いは具合悪かったために改正するのであろう。

 ではその具合が悪かったということが、どうして分かり、改正せざるを得なくなったのか。

 決定例の「底地残余法」の求め方は「賃貸事業分析法」の求め方そのものであるが、それを継続賃料の地代の評価に使用している。

 この行為は、鑑定基準が云う「収益分析法」は、新規賃料であるという定義に反するものであろう。

 現実には継続賃料に使用されて、適正地代の立証に使われている。

 つまり「収益分析法」、「賃貸事業分析法」は、新規賃料、継続賃料の区分に属さない手法であり、適正な賃料を求める為の有効な分析手法であると云えよう。


  鑑定コラム1071)
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