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1569)Evaluation60号記念論文 鑑定基準改正の重要点

 年4回発行の季刊誌である不動産鑑定評価の実務理論雑誌の『Evaluation』(プログレス社発行 発行人野々内邦夫)が、発行60号を今年(2016年)迎え、その記念式典が東京一橋の如水会館で開かれた。雑誌発刊発起人の一人として式典の最初に挨拶した。

 多くの人々の参加によって、『Evaluation』60号発行記念祝賀会は盛大に行われた。

 そのプログレス社発行の『Evaluation』60号発行記念として、60号・61号合併の記念号が発行され、私もそれに論文を寄稿した。

 その論文を転載する。

 論文の内容は、平成26年5月に改正された不動産鑑定評価基準の改正重要点について論じたものである。

 その要旨は、鑑定コラム1554)「改定増補『賃料<地代・家賃>評価の実際』のはしがき」で記した。つまり改訂増補版のはしがきの元になったものという論文である。

 論旨をより明確にするために、論文の中に、鑑定コラムに過去に発表した記事を引用転載しているが、それはご容赦していただきたい。

 下記に、『Evaluation』60号・61号合併の記念号の論文を転載する。

       

****


『平成26年改正「不動産鑑定評価基準」の重要点』


         
不動産鑑定士・桐蔭横浜大学法学部客員教授 田原拓治


 平成26年(2014年)5月に不動産鑑定評価基準が改正された。
 その中で、賃料評価に関係する変更した重要な点について述べる。


1. 更地価格の求め方が変わった

 更地の価格の求め方が変わった。

 更地価格の求め方が変わると云うことは、画期的なことであり、重大なことである。

 不動産の不動産たるものは土地であり、不動産鑑定にあっても、土地が中心に存在する。

 その価格は、不動産鑑定の中心、根本的のものである。

 その中心的、根本的なものの求め方が部分的にとはいえ、変わると云うことは、不動産鑑定全体に及ぶことになり、画期的な出来事である。

 本来ならば、中心的、根本的なものは変えるものでは無く、変えられるものでは無い。

 何度かの鑑定基準の改訂がなされたが、更地の求め方は、昭和44年(1969年)統一基準にされてから変更されていない。

 更地価格は、不動産鑑定の中心的、根本的なものと考えているから、当初基準作成時に充分議論し、検討し、理論的にも考察されて決められたものであるから、適正であり、それ故、その求め方は変えることはしないという考え方が底辺に流れている。

 変える必要がないほどしっかりした論理性のある求め方という自負があったのではなかろうか。

 しかし、今回、変更せざるを得なくなった。

 それは何故か。

 時代の流れと云う言葉で片付けられるものでは無い。

 堅牢と思われていた更地価格の求め方の論理性は、実は堅牢の論理性に守られていなく、理論的にも不備であったのである。

 それが故に変更せざるを得なくなったということである。

 旧基準の更地価格の求め方は、

 「更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする」

であった。

 改正新基準では、

 「更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする」

となった。

 「自用の建物及びその敷地の取引事例」のところが、「配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例」に改正されたのである。

 それだけの改正が、それ程重要なことかと思われるかもしれないが、非常に重要な変更である。

 旧基準では、複合不動産は「自用の建物及びその敷地」の取引事例しか、事例採用出来ず、「貸家及びその敷地」の取引事例は、更地の事例として採用することは出来なかったのである。

 銀座で更地の取引事例などまず無い。自社ビルがあっても、子会社の名義にして、賃貸している形を取っているのがほとんどである。

 それ故、自用の建物及びその敷地の取引事例も無い。

 あるのは貸家及びその敷地の取引事例ばかりである。

 その取引事例が、旧基準では事例として使えないということになる。

 私が、銀座の家賃の評価で、貸ビルの取引事例を使用して、土地価格の鑑定書を発行したところ、東京地裁の裁判の法廷で証人喚問され、代理人弁護士から「田原鑑定は基準が認めていない貸ビルの取引事例を使用して土地価格を求めており、明白な鑑定評価基準違反をしている。信用性は全く無い」とやられた。

 法廷で、鑑定評価基準違反であるいう叱責を浴びせられるという大変苦い証人喚問を味わった。

 このことについては、私のホームページの鑑定コラムに、鑑定コラム20)「ある法廷にて」として述べている。そのコラムを下記に転載する。

       


 「鑑定コラム20)「ある法廷にて」(2002年4月20日発表)
 
 高度商業地の鑑定内容についての証人尋問であった。

 「鑑定人の鑑定書記載の取引事例A,B,Cの内容についてお尋ねします。」
と代理人弁護士は云った。

 その代理人弁護士は、鑑定書添付のおよそ一万分の一程度の地図に9ミリ円で事例地のおおよその場所を示した観察地一覧の図から、かなりの登記簿を閲覧して事例を探しだし、取引当事者を探り当て契約書を見て調べ上げたらしい。

 鑑定書の記載の事例と代理人弁護士が調べ上げた事例との間に、所在、取引年月、面積、価格等が異なる個所があると指摘し、鑑定人にその説明を求めてきた。

 東京地裁の鑑定人である私は契約書を見ているわけではない。

 取材源の秘密、個人のプライバシーの保護もあることから、代理人弁護士の事例についての主張が、正しいとも間違っているとも云わず、事例等の明言は避けた。

 代理人弁護士は何故はっきりと証言しないのだと怒り、裁判官に証言内容の不当性を訴え、私を攻め立ててきた。

 双方譲らず平行線が続いた。

 代理人弁護士は、攻略方法を変えてきた。

 「No.Aについて鑑定書は土地価格を平方メートル当り580万円としてありますが、この取引事例は更地の取引ですか。」

 「いいえ、更地の取引ではありません。土地建物複合不動産の取引で、建物価格を配分して求めた土地価格です。調査で現地に行った時は、更地になっておりました。」

 「そうして求めた土地価格を事例として使ってもよいのですか。」

 「使用してよいと解釈しております。」

 「建物が建っていたとすると、そのビルは貸しビルでしたか。」

 「ええ、そうだと思います。」

 登記簿では売り主が不動産業者になっていたから、取引当時は貸ビルであろうと推定し、そのように答えた。

 何で取引事例の詳細について証人尋問するのだ。

 個人のプライバシーのこともあり、わざとボヤ化して表現しているのに。

 事例内容はおおよそ鑑定書に書いてある。

 事例の選択等は鑑定人である不動産鑑定士の一任判断事項であり、それを質問しても仕方が無かろう。

 この代理人弁護士は何を考えているのであろうかと、半分いぶかりながら代理人弁護士の質問に答えていた。

 代理人弁護士は『鑑定基準』を証拠として提出し、そのある頁を読めと言う。
 ああ、また『鑑定基準』違反を主張しようとするのか。

 私の行っている取引事例比較法のどこに『鑑定基準』違反があるのだろうか。

 自分の鑑定に自信を持っていたため、余裕を持って『鑑定基準』のある部分をぶっきら棒に読み上げた。

 読み進むにつれて、質問する代理人弁護士の真意がわかってきた。

と同時に顔が引きつってくることがわかった。

 「しまった。負けた。」

 体中から冷汗がどっと出てきた。

 そして、次はいかに反論すべきか、返答の言葉が頭を駆け巡った。

 読み上げた『鑑定基準』は以下のところだった。

 「更地の鑑定評価額は、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに・・・・・・・」

 私が『鑑定基準』を読み終えると、代理人弁護士はこう云った。

 「あなたは先程事例Aについて、貸ビルの建物の土地であったと証言した。そしてそれを事例として使用して鑑定している。しかし、あなたが読み上げた『鑑定基準』は、自用の建物及びその敷地の取引事例で比較せよと言っている。貸ビルは自用の建物及びその敷地になりますか。あなたの比較法の求め方は、明らかな『鑑定基準』違反ではないですか。事例B、Cはどうですか。これらも貸ビルの土地ではありませんか。」

 代理人弁護士は、鑑定書は明らかな『鑑定基準』違反の求め方をしており、その求め方によって得られた鑑定評価額に正当性は認められなく、不当鑑定であると主張してきた。『鑑定基準』違反の不当鑑定の鑑定書であり、証拠に足り得ないと強く主張した。

 私も大変苦境に立たされた。

 この弁護士の主張にどう答え、法廷をいかにして支えるべきか。この文章を読まれる人は、答弁をそれぞれ考えられたい。私も正解はわからない。

 結果は、私の鑑定通り判決が出され、事件は終了したが。

 銀座、新橋、虎ノ門、日本橋等の高度商業地にあっては、更地の取引などほとんどない。

 大企業の本社ビルとて、子会社の不動産会社の所有になっているのも多く、自社ビルそのものが少ない。貸ビルが大半であり、取引は貸ビルばかりである。

 更地の評価では、更地の取引もしくは自用の建物及びその敷地の取引しか事例採用出来ないとする現『鑑定基準』では、貸ビルがほとんどである高度商業地の評価は事例が無くなってしまい、取引事例比較法が実質的に出来なくなってしまう。

 一方、収益還元法では、更地の上に賃貸建物を想定し、その賃料収入から更地価格を求めている。

 取引事例として賃貸不動産の事例採用を禁じておきながら、他方では賃貸不動産を想定し、土地価格を求めるという。

 この論理の矛盾はどう理解すべきか。

 地価公示価格等、国の実施している鑑定評価で高度商業地の比較法の取引事例が、全て更地あるいは自用の建物及びその敷地の取引事例を使用して鑑定されているのであろうか。

 今後、情報公開制度により、地価公示、相続税路線価、固定資産税評価の鑑定書の公開を要求されてくる。

 その時、弁護士等よりこの点を指摘された場合、どのように対処するつもりであろうか。

 明白な『鑑定基準』違反と指摘されて、ヘラヘラ笑って済むものであろうか。

 『鑑定基準』の改訂作業が現在進行していると聞く。

 新『鑑定基準』は、この個所を改正するか否か。

 法廷で苦い経験を味わった者の一人として、改正のなり行きを静かに見守っていたい。」

       


 上記鑑定コラムは、2002年(平成14年)に発表したものである。

 文中の「『鑑定評価基準』の改訂作業が現在進行している」の鑑定評価基準は、今回の平成26年5月の改正のものでなく、平成14年の全面改正を云う。

 この時結果において更地の求め方は改正されなかった。

 2014年(平成26年)に改正された。

 2014年に鑑定評価基準の更地価格の求め方は、前記のごとく改正された。

 私の上記コラム記事が、改正に影響を与え、改正に繋がったかどうかは、私は知らないが、改正の動機にはなったであろうと、私は勝手に思っている。

 貸家及びその敷地の取引事例の土地価格が、事例として使用出来るようになったことは大変よいことである。


2.地代評価に「賃貸事業分析法」が導入された

 地代の新規実質地代の求め方に、「賃貸事業分析法」という新しい手法が加わった。

 その新しい手法については、改正鑑定評価基準は次のごとく述べている。

 「建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法」であると云う。(26年改正国交省版鑑定基準P51)

 この求め方は、従前にあっても、収益分析法の変型として行っていた手法である。改正鑑定評価基準は、今回「賃貸事業分析法」というの名称にして独立させたのである。

 土地残余法による土地利益を求め、その利益を借地人と土地所有権者で配分し、土地所有権者の配分部分が、地代の純地代となり、これに必要諸経費の公租公課を加算したものが、新規実質地代となる求め方である。

 例を挙げて説明する。

 一般住宅地にあって、土地面積250平方メートルの土地上に、150平方メートルの木造2階建て共同住宅を想定する。

 土地価格を2,000万円、建物価格を1,800万円とする。土地建物総額は3,800万円である。

 その土地上の建物の賃料収入を月額21万円、年額252万円とする。

 必要諸経費を減価償却費を含めて、収入の45%とする。

 純収入は、

       252万円×(1−0.45)=138.6万円

である。

 家賃の利回り(総合利回りとも云う)は、

       138.6万円÷3,800万円=0.03647≒0.0365

である。

 この求められた利回りは、土地建物を複合した複合不動産の利回りである。

 この利回りから土地、建物のそれぞれの利回りに区分しなければならない。

 建物の耐用年数を27年とし、償還基金率相当を加算したものを建物利回りと考えて計算すると、

       土地利回り    2.6%
       建物利回り    4.8%

である。

 この求められた土地利回り2.6%は、家賃の収入による土地価格を求める場合の土地利回りであって、地代の土地利回り(地代の期待利回り)では無い。

 家賃収入による土地の利益配分は、

       2000万円×0.026=52万円

である。

 この土地の利益配分は、土地所有者が自ら賃貸建物を建てて賃貸経営している場合の土地利益である。

 それ故、上記52万円の利益が全て土地所有者のものでなるのでは無く、かつ地代になるものでは無い。

 借地の場合は、建物の所有は借地人である。建物賃貸人は借地人である。

 借地人に利益配分する必要がある。

 地代を求めるには、上記土地利益から借地人が持つ借地権に対する利益配分を考えなければならない。

 借地人、土地所有者の利益配分を50対50とすれば

                52万円×0.5=26万円

26万円が純地代となる。

 これに土地必要諸経費である土地の公租公課を加算する。土地の公租公課を6万円とすると、

              26万円+6万円=32万円

32万円が年額の地代である。

 月額地代は、

              32万円÷12=26,667円

である。

 u当り地代は、

              26,667円÷250u≒107円

107円ということになる。

 こうして賃貸事業分析法の地代は求められる。

 地代の利回りは、

       2.6%×(1-0.5)=1.3%

ということになる。

 5%のごとくの高い利回りになぞなり得ない。

 この手法によれば、非堅固建物所有目的による契約減価の要因が的確に反映される新規実質地代が求められる。

 私は、「家賃あっての地代」という考え方より、新しく鑑定基準が認めた「賃貸事業分析法」の分析法を、30年前頃より行っていた。

 しかし、なかなかこの手法の理解が得られなかった。

 裁判においては、弁護士からは必ずと云ってよいほど、鑑定評価基準の認めていない求め方で鑑定基準違反であると批判された。

 訴訟の相手側に立つ不動産鑑定士からは、鑑定基準が認めていない田原鑑定士の独特の求め方で、一般性がない求め方であって不当鑑定であると批判された。

 鑑定基準違反だ、一般性のない求め方だ、不当鑑定だと批判され、何度も悔しい思いを味わった。

 「賃貸事業分析法」を行っていたのは私一人ではなく、行っていた他の不動産鑑定士の人もいたと思う。

 その方々も、恐らく私が味わった批判、非難を経験したことと思う。

 平成14年10月22日に東京高裁の浅生重機裁判官が、地上建物の賃料をもとに土地残余法によって地代を求めるべしという画期的な判決を出した。(平成14年10月22日 東京高裁 平成13年(ネ)第6510号  判時1800-3)

 この判決は、今回の鑑定基準に新しく取り入れられた「賃貸事業分析法」による判決である。

 この判決によって、地代は家賃から求めるものという認識が受け入れられるようになった。

 浅生重機裁判官は、上記判決以外でも、同じ考え方の地代の判決を出している。

 但し、浅生重機裁判官の「賃貸事業分析法」の求め方を全て適正であるとは、私は思っていない。

 浅生重機裁判官の求め方に多くの間違いがある。

 例えば、借地権価格の存在を認めない求め方は大きな間違いである。

 借地権価格の存在を否定することには、私は猛反発する。

 浅生重機裁判官は、貸家事業の経営配分利益等を考えているが、その経営配分利益等は考えない。

 それら利益は、土地建物の価格に転嫁していると考えるものである。

 それは、賃貸不動産の収益還元法の考え方と同じである。

 賃貸不動産の収益還元法は、経営配分利益、資本配分利益、労働配分利益を考えない。

 期待利回りは、当該土地上に想定された土地建物一体の複合不動産が産み出す収益から複合不動産の総合期待利回りが求められる。

 その総合期待利回りから、土地と建物の個別期待利回りを求めることが出来る。

 求められた土地の期待利回りは、更地の期待利回りであるから、それに借地権が附着している要因を修正すれば、地代の期待利回りが求められる。

 私は、新鑑定基準が、「賃貸事業分析法」という求め方を取り入れたのであるから、多くの不動産鑑定士は地代の新規実質地代は「賃貸事業分析法」で求めているであろうと思っていたが、まだまだである。

 今迄に訴訟で、「賃貸事業分析法」によって、地代を求めていた地代鑑定書を目にしたことは無い。

 現在、裁判で争っている地代減額訴訟の相手側鑑定書も、更地価格に根拠薄弱な投資家利回りと称する5%の利回りを乗じて地代評価しているものである。

 もう1件は、地裁の鑑定人不動産鑑定士が、基礎価格を更地価格で無く底地価格とし、期待利回りは、これまた最近の金融情勢と安全性云々という文言より3.5%前後の割合で継続地代を求めている。

 更地価格に5%の期待利回りを乗じて地代鑑定を行うと、その継続地代は無茶高な地代が求められる。

 底地価格を地代の基礎価格にするなど、話にならない。

 「賃貸事業分析法」という新しい地代分析手法の求めている収益は、更地の土地残余法による収益である。

 即ち、求められた収益は、更地の配分土地収益であって、底地の収益では無い。

 この事は何を意味するのかと云えば、地代の基礎価格は更地価格ということを意味している。

 「賃貸事業分析法」の求めている収益は、更地の収益であって、底地の収益でないことから、底地価格は地代の基礎価格にはなり得ないということになる。



3.利回り法の継続賃料利回りの「標準とし」が無くなった

 継続賃料を求める手法は、4つある。

 差額配分法、スライド法、利回り法、継続賃料の賃貸事例比較法である。

 その求め方の一つである利回り法は、従前賃料合意時点(改正鑑定評価基準では「直近合意時点」の名称になった)の土地建物の基礎価格に対する利回り(これを「継続賃料利回り」という)を標準とし、価格時点の土地建物の基礎価格に継続賃料利回りを乗じ、それに必要諸経費を加算する手法である。

 利回りを重視する求め方である。

 この利回り法の求め方が変わった。

 どう変わったのか。

 従前鑑定評価基準と改正鑑定評価基準を下記に記す。

 従前鑑定評価基準は、下記である。

 「継続賃料利回りは、現行賃料を定めた時点における基礎価格に対する純賃料の割合を標準とし、契約締結時及びその後の各賃料改訂時の利回り、基礎価格の変動状態、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。」(21年改正鑑定基準国交省版P32)

 平成26年5月改正鑑定評価基準は、下記である。

 「継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因を留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改訂時の利回り、基礎価格の変動状態、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。」(26年改正鑑定基準国交省版P35 )

 長々と利回り法の継続賃料の求め方の文章を転記した。

 読む人にとって、どこがどう変わったのかと云う疑問が生じると思う。

 変わった個所は、書き出しの「継続賃料利回りは・・・・」以降の部分である。

 旧基準(平成21年改正鑑定評価基準)では、「現行賃料を定めた時点における基礎価格に対する純賃料の割合を標準とし」の部分が、新基準(平成26年改正鑑定評価基準)では、「直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因を留意しつつ、期待利回り」に変わった。

 変更のポイントを示せば、

    「純賃料の割合を標準とし」 →  「純賃料の割合を踏まえ」

に変わったのである。

 「標準とし」が、「踏まえ」に変わることが、それ程重要かと思われる人もいるであろうが、それは大変重要なことである。

 「標準とし」という文言は、その数値を中心に考えよと云う意味合いである。
 大半の不動産鑑定士は、従前賃料合意時で求められた継続賃料利回りを、そのまま価格時点の継続賃料利回りに採用していた。

 「標準とし」という文言は、そうした意味合いを持つ。

 それで良いではないのかと思われるであろうが、それが良くないのである。

 何故か。

 それは、従前賃料合意時点以後に、地価が大巾に上昇、下落している場合には、この考えで利回り法の賃料を求めると、とんでもない賃料が求められてしまうのである。

 地価の上昇時には、地価上昇をそっくり反映する高い賃料が、地価下落時には、地価下落がそっくり反映する安い賃料が求められる。

 この賃料現象を、それで良いではないかと思われる人は、賃料変動と地価変動との関係を全く知らない人と云うことになる。

 賃料の変動と地価の変動とは、パラレルになっていない。

 地価が倍になったから、賃料も倍になるのかと云えば、その様なことはあり得ない。

 地価が半値になれば、賃料も半値になる事など無い。

 旧鑑定評価基準も今回の改正鑑定評価基準も、従前賃料合意後の「基礎価格の変動の程度」の文言を書き入れているが、ほとんどの不動産鑑定士は、「基礎価格の変動の程度」を無視して、価格時点の継続賃料利回りは、従前賃料合意時の継続賃料利回りを採用していた。

 それ故、利回り法賃料が、甚だ高い賃料であったり、安い賃料であったりした。

 これはおかしいと思った不動産鑑定士は、利回り法は使えないと云って、利回り法を行わない人も出現していた。

 利回り法を行わないと、利回りが分から無い。利回りが分からないと、利回りから見た適正な賃料水準が全く把握出来なくなり、適正な賃料評価に多大な支障を与えることになってしまう。

 利回り法を行えば行ったで、地価の変動に引きずられた頓珍漢な賃料が求められ、行わなければ行わないで、利回りが全く分からず評価に支障をきたすことになる。

 つまり、利回り法は欠陥手法であった。

 この欠陥手法であることを知ってか知らずか、地価が上がっているからと賃料増額請求の時には、甚だ高く賃料が求められる利回り法の賃料を適正な賃料であると主張する。

 地価下落しているからと賃料減額請求の時には、甚だ安く賃料が求められる利回り法の賃料を適正な賃料と主張する。

 必ずそれらには、利回り法は、鑑定評価基準に則った適正な手法に依って求められた適正な賃料であるという能書きが付けられている。

 私が「求め方が違っているょ」と云って、利回り法の欠陥手法を説明しても、逆に、「田原鑑定の主張こそ鑑定評価基準違反の考え方である」と批判される始末である。

 裁判官も職務が忙しいのか、不動産鑑定評価を勉強している人は少ない。

 「田原鑑定士の主張は、不動産鑑定評価基準違反の主張だ。独自の主張で一般的なものではない。」という批判を耳にすると、採用に躊躇してしまう。

 判決を見て、「またかょ」と裁判への失望を何度味わったことか。

 26年改正鑑定評価基準は、「標準とし」を削除し、「踏まえ」の文言にした。

 このことは、従前賃料合意時の継続賃料利回りを重視することなく、価格時点における基礎価格に対する適正な継続賃料利回りをしっかりと把握して、利回り法の賃料を求めよという考え方に変わったことを意味する。

   では、価格時点の適正な継続賃料利回りはどの様にして求めるのか。

 それは下記の算式に依って求めると、私は『賃料<地代・家賃>評価の実際』P241(プログレス 2005年)で発表した。

賃料の変動率 従前合意時賃料利回り×───────── =価格時点の継続賃料利回り 当該不動産の変動率

 この得られた価格時点の継続賃料利回りと、近隣の類似不動産の賃貸事例の利回りとを比較検討して、利回りの均衡を計って、対象不動産の価格時点の継続賃料利回りを決定するのである。

 利回り法の賃料は、従前合意賃料が適正な水準の賃料であれば、求められれる賃料も適正水準の賃料で求められる。

 これに反し、従前合意賃料が適正水準より高かったり、低かったりした場合、その要因はそのまま引き継がれて、高い賃料、安い賃料が求められる。

 それは過去の継続賃料利回りが不適切であったことによる。  上記継続賃料利回りの算式を発表すると、不動産鑑定業界から多くの批判反論を受けた。

 多いのは、不動産鑑定評価基準は、従前賃料合意時の継続賃料を「標準とし」と規定しているのに、田原鑑定はそれを無視しており、鑑定評価基準違反であると云う批判であった。

 次いで、不動産鑑定評価基準は、その様な算式を認めていないことから、鑑定評価基準違反という批判である。

 それら批判に対して、不動産鑑定評価基準が間違っていると反論すると、待ってましたとばかりこの様な批判が追加されてくる。

 「田原鑑定は、国交省が定めた不動産鑑定評価基準が間違いと云う。国のやり方が間違っていると主張する。不動産鑑定士は不動産鑑定評価基準に従わなければならないのに、田原鑑定は独善的な自分の考えが、国の考えよりも正しいと主張しており、不動産鑑定評価基準に従おうとしないとんでもない不動産鑑定士だ。」と。

 もう一つ、「田原鑑定の利回り法は、スライド法と同じ求め方をしており、不動産鑑定評価基準違反である。不動産鑑定評価基準の利回り法とスライド法は別の求め方であるから、田原鑑定はスライド法のみ行っており利回り法を行っていない。不動産鑑定基準は4つの手法で継続賃料を求めよと云っており、田原鑑定は4つの手法を行っていないことから不動産鑑定評価基準違反である。」と。

 旧不動産鑑定評価基準の云う利回り法は、文言は異なっているが、根本的にはスライド法と同じ求め方になる。

 そのことについては、『賃料<地代・家賃>評価の実際』P241(プログレス 2005年)で「スライド法と利回り法は同じ求め方である」の課題で論述している。

 旧不動産鑑定評価基準の求め方の記述が、スライド法と利回り法とが同じ求め方であるため,求め方が同じになるのは当然であろうと反論せざるを得ない。

 田原鑑定を批判するのはお門違いであろう。不動産鑑定評価基準を作っている国交省或いは土地鑑定委員会若しくは鑑定協会に、そのことの文句を言うべきであろうと説明している。その後文句を言ったかどうか知らないが。

 「スライド法と利回り法は同じ求め方である」の課題の論述は、新著(2017年1月発行予定)にも旧著の記述そのまま採用し、後述を加えて載せてある。

 私の不動産鑑定評価基準の云う利回り法とスライド法は同じ求め方であるという主張は、多くの批判を浴びてきた。

 平成26年改正不動産鑑定評価基準においても、旧不動産鑑定評価基準と同じく、利回り法とスライド法とは同じ求め方になっている。

 このことから、前記した同じ批判を受けることになるかもしれない。

 しかし、このことについて、妙な記述を目にした。

 平成26年改正不動産鑑定評価基準の改正案を検討し作成した人々が書き挙げた解説書である『要説不動産評価基準と価格等調査ガイドブック』編著者公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会鑑定評価基準委員会(発行株式会社住宅新報 2015年10月30日)のP257に、下記の文章が綴られている。


 「継続賃料利回りについて、直近合意時点の純賃料利回りをそのまま採用すると利回り法の計算式は基礎価格の変動率をスライド法の変動率として適応した場合の計算式と同じものとなり、基礎価格変動率分がそのまま反映された賃料が求められることになる。(下記参照)」とある。

 そして下記参照として、次の算式を示している。

 「(基礎価格変動率を採用したスライド法)

N1 ×(P1÷P2) + C1 = T1 ………@
(実績純賃料利回りを採用した利回り法)

P1 ×(N1÷P2) + C1 = T2 ………A
T1 = T2
      N1: 直近合意時点の純賃料  P2: 直近合意時点の基礎価格   C1: 価格時点の必要諸経費 (N1÷P2): 実績純賃料利回り P1: 価格時点の基礎価格 (P1÷P2): 基礎価格変動率 T1: スライド法による試算賃料 T2: 利回り法による試算賃料」

 T1 = T2 、即ちスライド法の賃料と利回り法の賃料は同じと記している。

 この論証の算式をよく見れば、2005年に私が、『賃料<地代・家賃>評価の実際』P241(プログレス)で論証した内容と同じでは無いのか。

 10年の歳月を経て、私の主張が、鑑定協会でも認めたということになる。

 「田原鑑定は利回り法とスライド法は同じであると主張するが、鑑定評価基準は別々の求め方を示しており、同じでは無い。それ故田原鑑定の主張は鑑定評価基準違反である」とか、「田原鑑定の利回り法の求め方とスライド法の求め方は同じであり、鑑定評価基準違反である」とか、「田原鑑定は利回り法を行っていない」という批判は、鑑定協会がT1 = T2であると自ら認めたことであるから、失当ということになろう。

 しかし、鑑定協会とはいえ、理論の無断使用は著作権に引っかからないであろうか。

       
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  鑑定コラム1554)
「改定増補『賃料<地代・家賃>評価の実際』のはしがき」

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