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162)東京ブラウスの企業売買価格8400万円

 東京ブラウスは、婦人服のブラウス、シャツメーカーとして、大手百貨店に出店して、「フェミン」・「クレイサス」等のブランド商品を持つ企業であった。

 平成3年(1991年)には売上高296億円を計上するまでになったが、平成14年(2002年)には売上高は63.5億円まで減少し、大巾な損失を計上し、平成15年(2003年)に東京地裁に民事再生法適用を申し立てた。

 その東京ブラウスを買い受ける企業が10ヶ月たって現れた。

 ヤマノホールディングコーポレーションの子会社の堀田産業株式会社が、東京ブラウスの株式の74.5%を取得して、経営することになった。(2004年4月30日、ヤマノホールディングコーポレーションHPプレスリリース)

 東京ブラウスの株式の74.5%を8400万円で取得し、8000万円の増資を行う。その後資本金の減資を行い、資本金1億円の会社で、堀田産業主導で経営再建されることになった。

 東京ブラウスの業績は、同ホームページによれば次のごとくである。

   設立     昭和46年
   資本金      268百万円(平成16年3月31日現在)
   事業の内容    婦人服の製造卸
   従業員    96名(平成16年3月31日現在)
      総資産    2,194百万円(平成15年8月31日現在)
   売上高    6,729百万円(平成15年8月期)
   当期損失   5,687百万円(平成15年8月期)

 売上高67億円、総資産21.9億円の企業が、どうして8400万円の売買価格になるのか。
 甚だ興味のある価格である。
 私の勝手な推測で以下に価格分析してみる。

 売上高は67.29億円であるが、民事再生法適用申請した企業の会社の場合、再生したとしても、売上高は必ずダウンする。
 このダウン率はほぼ10%程度である。
     67.29億円×0.9≒60.5億円

 購入者の株式購入持分割合は74.5%であるから、
     60.5億円×0.745≒45.0億円
売上高は45.0億円ということになる。

 中小企業庁編の『中小企業の経営指標』平成14年版(同友館発行)P137の衣服・その他の繊維製品製造業のデータを見ると、従業員51〜100人の企業の売上高営業利益率は2.4%である。

 東京ブラウスの従業員は96人であるから、上記営業利益率を採用すると、営業利益は、
     45.0億円×0.024=1.08億円
である。

 投下資本の回収を7年で行うとする。
     1/7=0.143
 還元利回りを14.3%とする。

     1.08億円÷0.143=7.55億円≒7.6億円
 東京ブラウスの企業の価格は、7.6億円と求められる。

 ここで、東京ブラウスの総資産は21.94億円と発表されている。
 これは恐らく簿価であり、簿価は必ずしも時価であるとは考えがたい。
 その時価の価値は35%程度しかないであろうと推定する。
     21.94億円×0.35≒7.68億円
 簿価資産から見ても、7.6億円の価格は妥当では無かろうかと推測される。

 しかし、この7.6億円の企業価格は、2.4%の営業利益を出している場合の価格である。

 対象企業は、57億円という売上高の85%に相当する巨額な赤字を持ち、民事再生法適用申請会社である。
 債権が大巾にカットされるであろうと予測されるとしても、この様な会社を7.6億の金額で購入する人はいない。

 この大巾赤字会社であることから、半額の価格減である。
     7.6億円÷2=3.8億円

 大巾赤字会社であり、事業運転資金の持出が購入会社には必要である。
 前記『中小企業経営指標』14年版P326によれば、衣服・その他の繊維製品製造業の現金・預金額の平均は、2.4億円である。
 事業運転資金の金額をこの金額とする。

 企業購入者は、8000万円の増資のための資本金支出も必要である。

 7.6億円の企業価格から、以上の減額金額を差引くと、
     7.6億円−3.8億円−2.4億円−0.8億円=0.6億円
0.6億円が、東京ブラウスを購入する会社側の購入希望価格である。

 一方、債権者側よりみると、赤字額56.87億円が全額こげつき債権額(ここでは、東京ブラウス所有の不動産の売却、経営者の所有資産の売却による債務の一部返済は全く考えないこととする。)として、購入者側の0.6億円の価格になったとすると、債権のカット率は、
     0.6÷56.87=0.01
     1−0.01=0.99
99%のカットとなる。

 債権者にとって、債権のカット率99%は承服しかねる率である。
 1円でも多く配当を得ようとする。
 20%の配当を願っても売上状況よりみて、それは困難とわかる。
 しかし配当率5%、95%の債権カット率は少なくとも要求するであろう。
 債権カット率95%となると、
     56.87億円×0.05=2.84億円
となる。

     債権者   2.84億円
     購入者   0.6億円
の価格の攻防がはじまる。

 民事再生企業の事件処理をまかされている再生管財人弁護士は、対象企業を購入してくれる企業を見つけることはそうそう出来ることではないことを充分わかっているから、購入者があらわれれば、なんとかその企業に売却して、事件処理を早く終えようと考える。

 ここで三者三様の思惑と攻防の戦いが始まる。
 再生管財人弁護士の腕の見せどころとなる。

 買主が、価格次第では撤退をほのめかすことは当然ある。
 紆余曲折を経て、債権者側が大巾に折れ、買主側も若干譲歩して、買主側が40%程度の価格アップが限度とし、
     0.6×1.4=0.84億円
が、対象企業の売買価格と決まったのではなかろうかと推定する。

 債権カット率は、
     0.84億円÷56.87億円=0.0147
     1−0.0147≒98.5%
98.5%である。

 以上が、私の推定する東京ブラウス8400万円の価格分析である。
 これはあくまでも、私の勝手な価格推測分析であり、価格決定の事実を知らないから、事実と大巾に違う可能性があろうことを了承していただきたい。


(追記) 2010年6月1日
 帝国データバンクは、2010年5月31日東京ブラウスが経営に行き詰まり、東京地裁に民事再生法の適用を申請したと報じる。
 負債総額は16.2億円という。
 二度目の倒産、民事再生法の申請である。

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