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1633)土地価格に家賃利回りを乗じて地代を求めるな !

 新規地代を求める手法の一つに積算法がある。

 求める算式は、

        土地価格×期待利回り+必要諸経費
 
である。

 この算式で求められる地代は、借地権価格が発生していない状態の新規地代である。

 倉庫の土地の継続地代の鑑定書があった。

 地方裁判所の鑑定人不動産鑑定士の地代鑑定書である。

 その鑑定書の地代に使われている期待利回りは、次のごとくの理由による期待利回りであった。

 「財団法人日本不動産研究所が調査している「不動産投資家調査」があるが、価格時点前後3回分のその調査結果では下表のごとく○○地区倉庫の期待利回り(償却率込みの純期待利回り)は6.5%〜6.8%である。但しこれは償却率を含んだ純収益利回りであるのに対し、地代評価上必要となる期待利回りは、償却率を含まない償却後のものであるので、当該償却前純収益利回りから、これに含まれる減価償却費の割合(経験的に1%〜2%程度低くなるものと判定)を控除する必要がある。
 そうすると償却前純収益利回りの一般水準6.5%〜6.8%から償却率1%〜2%を控除した期待利回り(純賃料利回り)は、4.5%〜5.8%程度と導かれることになる。」

 上記理由で、期待利回りを4.5%と決定している。

 そして、この4.5%を土地価格に乗じ、公租公課である固定資産税・都市計画税を加算して積算地代を求めている。

 積算地代から借地権価格要因を考慮して「経済価値に即応した適正な実質地代」を求め、その適正な実質地代から差額配分法の地代を求めるのが適正な地代の求め方であるが、裁判鑑定の鑑定は、借地権価格を一切考えずに、積算地代から差額配分法地代を求める。

 鑑定人不動産鑑定士の地代鑑定は、ここまでに2つの大きな重過失と云える間違いを犯しているにもかかわらず、それがわかっていなく求めた地代は、適正な継続地代と鑑定する。無茶高な地代の鑑定額である。

 「経済価値に即応した適正な実質地代」についての間違いは、ここでは論じることは止める。期待利回りについてのみ論じる。

 上記引用の期待利回りによる地代の求め方は適正なのか。

 4.5%の期待利回りは、その元になっているのは、日本不動産研究所の投資家に対するアンケート調査による倉庫に対する投資利回りである。

 それは、倉庫敷地の土地の投資利回りではなく、倉庫の土地建物の投資利回り、即ち倉庫という複合不動産の家賃利回りである。減価償却費が1%〜2%であるから6.5%〜6.8%より、減価償却費の%を控除して求められたものである。

 求められている4.5%は、倉庫の家賃の期待利回りであることに変わりがない。

 分かり易く書けば、

             倉庫家賃の純収益
        ──────────── = 倉庫家賃の期待利回り           
          倉庫土地・建物の価格

で求められる期待利回りである。

 上記「」書きの引用の期待利回りが、家賃の利回りと判断できるのは、下記の用語が使われているためである。

  イ、「倉庫」という用語の使用
    土地の場合は、倉庫の土地という。「倉庫」と云うのは倉庫という建物を指す。

  ロ、「償却率」という用語の使用
    土地は償却出来ないことから、土地の場合には償却という用語を使わない。
    「償却率」と云う用語を使うのは、建物があるため、その償却を考えているのである。

  ハ、「減価償却費」という用語の使用
    土地は減価償却出来ない。減価償却費は建物に対して使うのである。
    「減価償却費」という用語を使うことは、その土地上に建物が建っていると云うことを証明している。

 以上の用語使用より、引用の期待利回りは、倉庫という建物の賃料の期待利回りと判断される。つまり家賃の期待利回りである。倉庫土地の期待利回りではない。

 倉庫家賃の期待利回りは、倉庫土地・建物の価格に対応する利回りである。

 地代の期待利回りは、土地価格に対応する利回りである。倉庫土地・建物(複合不動産)に対応する家賃利回りを使用して、地代を求めることは、対応する類型が異なることから使用出来ないものであろう。

 地代算出に使用する期待利回りは、土地価格に対応する期待利回りであり、複合不動産の家賃に使用する期待利回りは、複合不動産に対応する期待利回りである。
 
 家賃の期待利回りを土地価格に乗じて地代を求めれば、地代は甚だしく高い金額のものとなる。

 上記引用した鑑定人不動産鑑定士の期待利回りは、地代を求める期待利回りか?

 上記引用した鑑定人不動産鑑定士の求めている期待利回りは、家賃を求める時の家賃期待利回りである。地代を求める時の期待利回りではない。

 家賃の期待利回りで地代を求めるとは?

 その求め方は間違っていると、私が意見書、反論書で何度も指摘しても、裁判官はさっぱり理解しょうとせず、自らが選任した鑑定人不動産鑑定士の求め方が正しいと信じ込み、耳を貸さない。

 相手側である地主側の代理人弁護士は、私の意見書等に対して猛然と反論してくる。それに対してこちらも証拠を示してそれ以上に反論をやり返す。まあ、言葉の喧嘩である。

 適正な鑑定評価手続に従って求められている場合には、鑑定人不動産鑑定士の鑑定結果を信用することは、適正な裁判のやり方である。

 しかし、鑑定人の鑑定の求め方が間違っている場合にも、それを信用して裁判を行うことは間違いであろう。

 今回、私から見れば鑑定人不動産鑑定士の判断は全く間違っているが、裁判官は、鑑定人の判断が正しいとして、鑑定人の鑑定額で判決してしまった。

 つまり、私の方の側が一審敗訴である。

 地主側の地主、代理人弁護士、おかしな考え方の不動産鑑定士達は、勝訴で高笑いであろうが、こんな理不尽なことがあるのかと、借地人、代理人弁護士共々憤慨しているが、負けは負けである。がっくりである。

 正しいことを主張し、行っているにもかかわらず、それは間違っていると否定されて採用されず、間違っている方が適正であると採用されるという、摩訶不思議な世界があるようである。

 裁判官の判断である判決は、例え間違っていても公権力としての強制力を持っていることから、法治国家においては認め、従わざるを得ない。血の気の多い頭はカリカリするが仕方ない。

 捲土重来、控訴審で間違っている判決をひっくり返そうと再度主張するつもりであるが、高裁の裁判官が果たして鑑定人の地代の求め方が間違いと分かってくれるのか。

 上記で述べる私の考えが間違っているのかどうか、不動産鑑定基準は、期待利回りについてどの様に記述しているのか見てみる。

 平成26年改訂国交省版P32で、鑑定基準は期待利回りについて、次のごとく規程する。

 「期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう。」

 期待利回りは、賃貸借に供するために取得した不動産の資本相当額に対する割合であると鑑定基準は云う。

 賃貸借している土地では、その取得資本相当額とは土地価格である。土地建物を取得しているのではない。賃貸するために取得した資本とは、土地である。

 賃貸借に対する投下資本の元本である土地の果実は地代である。

 このことから地代の期待利回りに対応するのは、土地価格である。

 鑑定基準は、地代を求める期待利回りは、土地価格に対する割合と云っている。複合不動産の土地建物の価格に対する割合ではない。

 賃貸ビルの複合不動産の場合には、果実は家賃であるから、家賃の期待利回りは、その土地建物の価格に対する割合である。

 鑑定基準はもっと分かり易く云って欲しい。

 家賃の期待利回りに対応するのは、土地建物の価格である。地代の期待利回りに対応するのは土地価格であると。

 上記説明からすれば、鑑定人不動産鑑定士の期待利回りは間違っており、判決は間違っていると云うことになろう。

 このことを鑑定人不動産鑑定士、裁判官は,全く分かろうとしない。

 裁判官に不動産鑑定の勉強をして欲しいと云いたいが、それを云う前に、不動産鑑定士が賃料評価について、もっともっと勉強しなければならないであろう。

 競売価格評価だ、地価公示価格評価だ、固定資産税価格評価だと価格評価ばかりに目を向けていずに、価格は賃料より生み出されているものであるという理解を深め、謙虚になって賃料について猛勉強をせよと云いたい。

 本件のごとくの地代評価をする不動産鑑定士が、「俺は専門家である。」と専門家面して威張っていてもらっては甚だ困るし、迷惑である。不動産鑑定士ょ、もっと謙虚になれ。しっかりしてくれ。与える影響が大きいことをもっと自覚してくれ。

 とんでもない地代鑑定、判決を出されて、借地人はカンカンになって怒っている。不動産鑑定士への不信感は相当なものである。

 借地人は、

 「こんな鑑定を許している当該地方の不動産鑑定士協会そして連合会は、どういう専門家の集まりなのだ、裁判官を騙すのか、間違いを間違いと見抜けない裁判官も裁判官だ、裁判など全く茶番だ。しかし放置している訳には行かない。」

と怒ること怒ること。国交省にも乗り込むと意気込んでいる。

 どうなることやら。
 

  鑑定コラム1549)
「地代の期待利回りの求め方」

  鑑定コラム1554)「改定増補『賃料<地代・家賃>評価の実際』のはしがき」

  鑑定コラム1634)「不動産鑑定評価基準は法律と同等である」

  鑑定コラム1747)「京都右京区の住宅地の土地還元利回りは2.2%である」


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