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1840)償却前期待利回りで減価償却費を費用計上している賃料は間違いではないか

 裁判所の鑑定人不動産鑑定士の賃料鑑定書で、積算賃料の必要諸経費に減価償却費が計上してあった。

 期待利回りは、土地期待利回り5%、建物期待利回り7%を採用し、土地建物の価格割合から、総合期待利回りを5.3%としていた。

 この5.3%の割合を土地建物の価格に乗じて、純賃料を求めていた。

 その鑑定書を見て、土地期待利回りをどの様にして求められたのか、その理由は全く記述してなかった。

 いきなり、土地期待利回り5%と数値が出て来るのである。

 これでは、鑑定書を読む人にとって、どうして土地期待利回りが5%になるのか、皆目分からない。

 それ故、代理人弁護士を通じて、鑑定人に対する質問として、「土地の期待利回り5%はどの様にして求められましたかお教え下さい。」と質問書を裁判所に提出した。

 時間がかなり掛かったが、裁判所から鑑定人の回答が届いた。

 その回答は、

 「対象地の地域性を考慮し、地価公示価格評価で採用している5%を採用した。」

という内容であった。

 「オイオイ、地価公示価格の採用している利回り5%は、償却前利回りであるょ。

 償却前利回りとは、利回りの中に減価償却費相当の割合が含まれているのだょ。

 その償却前利回りを使用して、総合期待利回りを求め、その総合期待利回りを土地建物の価格に乗じて純賃料を求めると、求められる純賃料には、減価償却費が含まれていることになる。

   積算賃料は、

     純賃料+必要諸経費=積算賃料

の算式で求める。

 先の必要諸経費の費用項目に、減価償却費を計上していたのであることから、求められている積算賃料には、減価償却費が純賃料と必要諸経費の中にそれぞれ含まれていることになるから、二重加算されている事になる。

 減価償却費が二重加算されている積算賃料は、手法の適用の重大な間違いをしている求め方では無いのか。」

 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、積算賃料の求め方の中の必要諸経費の減価償却費のところで、わざわざ( )書きで、次のごとく書かれている。

「ア、減価償却費(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には計上しない。)」(平成26年改正鑑定基準国交省版P33)

 償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、減価償却費は費用として計上しないと鑑定基準に示されている。

 ということは、鑑定人不動産鑑定士の積算賃料の求め方は、明白な鑑定基準違反であり、手法に重大な誤りがあると云うことになろう。

 回答に対する反論として、上記のごとくの内容の反論書を裁判所に提出した。

 その賃料減額請求事件の判決がなされ、判決文に次のごとくの文言が記されていた。

 「本件鑑定の基礎となる事実に重大な誤認が認められず、試算及び鑑定手法の採否とその運用に明らかに不当と認められるところもないから、本件鑑定を採用することができる。」

 そして、次のごとく云う。

 「原告は、不動産鑑定士であり桐蔭横浜大学法学部客員教授である田原拓治の意見書(以下「田原意見」という。)を提出して、本件鑑定の結果を種々論難する。」

 「田原意見は、裁判所鑑定よりも証拠として価値は低いと云わざるを得ず、本件鑑定に、基礎となる事実に重大な誤認が認められず、試算及び鑑定手法の採否とその適用に明らかに不当と認められない限り、本件鑑定は採用できるというべきであり、原告がるる主張する本鑑定に関する非難はいずれも採用できない。」

と、私の名前を出して、私の意見を真っ向から否定する判決理由を述べる。

 償却前期待利回りで減価償却費を費用計上している賃料の求め方は、重大な誤認でもなく、鑑定手法の適用の誤りでもなく、そうして求められた裁判鑑定は採用出来ると云うことらしい。

 減価償却費が二重加算されて求められている賃料鑑定の方が、私の意見書より信頼性があり、証拠価値が高いと裁判官は判断するのである。

 そうであろうか。私はそう思わないが。

 まともの主張が受け入れられない。悲しいことである。

 裁判鑑定、判決は、明白な鑑定基準違反であろう。鑑定協会は、これをどう考えるであろうか。
 

  鑑定コラム1837)
「不動産鑑定基準には「必要諸経費等」の定義が抜けている」

  鑑定コラム563)「地価公示価格の還元利回りは減価償却後の利回りなのか」


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