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1851)土地収用委員会裁決と最高裁判決

 公共事業の土地収用に伴う明渡立退料に対して不服ある場合には、裁判所に不服申立を行うが、その際の裁判所における土地収用委員会の裁決の扱い方について最高裁の判断が示された判例を捜した。

 アドバイスしてくれる人がおり、最高裁の判例を知ることが出来た。

 事件番号等は、下記の最高裁判例である。

    事件番号      平成5(行ツ)11 
    事件名         収用補償金増額
    裁判年月日     平成9年1月28日
    法廷名        最高裁判所第三小法廷
    裁判種別      判決
    結果          棄却
    判例集等巻・号・頁       民集 第51巻1号147頁

 裁判官の名前を見てびっくりした。

 銀座7丁目のライオン7丁目店で開かれる「北の都会」に時々参加されている人の名前が載っている。

 過日もその会で話したが、園部逸夫氏が最高裁裁判官の時に判決したものであった。

 どういう内容のものであるか、下記に主文を転載する。最高裁の判例として、最高裁のホームページに公開されている判例である。

 
****


         主    文
    本件上告を棄却する。
    上告費用は上告人の負担とする。
         理    由

 上告代理人神田昭二、同眞田文人の上告理由一及び上告補助参加代理人松崎孝一の上告理由一について


 土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復を図ることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償をすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することを可能にするに足りる金額の補償を要するものと解される(最高裁昭和四六年(オ)第一四六号同四八年一〇月一八日第一小法廷判決・民集二七巻九号一二一〇頁参照)。同法による補償金の額は、「相当な価格」(同法七一条参照)等の不確定概念をもって定められているものではあるが、右の観点から、通常人の経験則及び社会通念に従って、客観的に認定され得るものであり、かつ、認定すべきものであって、補償の範囲及びその額(以下、これらを「補償額」という。)の決定につき収用委員会に裁量権が認められるものと解することはできない。したがって、同法一三三条所定の損失補償に関する訴訟において、裁判所は、収用委員会の補償に関する認定判断に裁量権の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するものではなく、証拠に基づき裁決時点における正当な補償額を客観的に認定し、裁決に定められた補償額が右認定額と異なるときは、裁決に定められた補償額を違法とし、正当な補償額を確定すべきものと解するのが相当である。
 所論は、補償額の決定につき収用委員会に裁量権があることを前提とするものであって、その前提において失当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。



 上告代理人神田昭二、同眞田文人の上告理由二及び上告補助参加代理人松崎孝一の上告理由二について


 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき原判決を論難するものであって、採用することができない。


 上告代理人神田昭二、同眞田文人の上告理由三について


 土地収用法一三三条所定の損失補償に関する訴訟は、裁決のうち損失補償に関する部分又は補償裁決に対する不服を実質的な内容とし、その適否を争うものであるが、究極的には、起業者と被収用者との間において、裁決時における同法所定の正当な補償額を確定し、これをめぐる紛争を終局的に解決し、正当な補償の実現を図ることを目的とするものということができる。右訴訟において、権利取得裁決において定められた補償額が裁決の当時を基準としてみても過少であったと判断される場合には、判決によって、裁決に定める権利取得の時期までに支払われるべきであった正当な補償額が確定されるものである。しかも、被収用者である土地所有者等は右の時期において収用土地に関する権利を失い、収用土地の利用ができなくなる反面、起業者は右の時期に権利を取得してこれを利用することができるようになっているのであるから、被収用者は、正当な補償額と裁決に定められていた補償額との差額のみならず、右差額に対する権利取得の時期からその支払済みに至るまで民法所定の年五分の法定利率に相当する金員を請求することができるものと解するのが相当である。
 所論は、本件では、収用土地に係る損失補償額の総額については争いがないが、収用土地上の小作権の存否につき争いがあるため、土地収用法四八条五項によるいわゆる不明裁決がされており、上告人は、同法九五条四項によって、小作権があるとされた場合の小作権の喪失に対する補償金について供託をしているにもかかわらず、原判決は、本件裁決が認めた割合よりも少ない小作権割合を認めたために生じたいわゆる底地権相当の損失補償額の増額分につき判決確定前からの遅延損害金の支払義務を認めており、この点に違法があるという。しかし、本件訴訟では、小作権があるとされる場合においても土地所有者である被上告人が前記権利取得の時期までに払渡しを受けるべき底地権相当の補償額が争われ、その額について正当な補償額に不足するとの判断がされたものであるから、その差額の支払義務は供託の対象となっている債務とは別のものであり、右差額については、右権利取得の時期より後の法定利率相当額が付されるべきものと解するのが相当である。
 そうすると、被上告人に対する損失補償額増額分につき、本件裁決所定の権利取得の時期より後である本件訴状送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合による金員の支払を命じた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


 最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官    尾   崎   行   信            裁判官    園   部   逸   夫             裁判官    可   部   恒   雄             裁判官    大   野   正   男             裁判官    千   種   秀   夫

 
****


 上記判決は、2つの重要なことを判示している。

 1つは、土地収用委員会裁決と裁判判決の関係についてであり、最高裁判決は次のごとく判示する。

 「損失補償に関する訴訟において、裁判所は、収用委員会の補償に関する認定判断に裁量権の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するものではなく、証拠に基づき裁決時点における正当な補償額を客観的に認定し、裁決に定められた補償額が右認定額と異なるときは、裁決に定められた補償額を違法とし、正当な補償額を確定すべきものと解するのが相当である。」

 損失補償の裁判は、土地収用委員会の裁量権の逸脱濫用を審理判断するものではなく、土地収用委員会裁決の補償額が証拠に基づき正当かどうかを客観的に判断し、正当な補償額を確定すべきものであるという。

 そして2つ目は、その損失補償額とはどういうものかについて、下記のごとく判示する。

 「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復を図ることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償をすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することを可能にするに足りる金額の補償を要するものと解される」

 補償は「完全な補償」でなければならないという。

 その「完全な補償」とはどういうものかについて、それは「収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償」であり、金銭で持って補償するのであれば、その金銭は、「被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することを可能にするに足りる金額の補償」という。

 このことは土地のみでは無い「代替地等」と「等」がついていることから、それは店舗の内装も含まれると解釈できる。

 店舗の明渡し訴訟において、内部造作費について、償却されているからといって内部造作費の補償をしないケースを時々見かける。

 或いは現価率を求めて新築工事費に0.5とか、0.4を乗じて内部造作費の補償額を求めている鑑定書等が見受けられる。

 店舗経営者にとって、移転先の店舗内装を同等程度にするには、新しく造作しなければ、同等の内装を実現することは出来ない。

 何故そうなるのかというのは、店舗賃貸借契約の実態を知ればわかる。

 店舗賃貸借契約は、スケルトンの状態で契約するのが店舗契約の取引状態である。

 スケルトンの状態とはどういう状態を云うのかといえば、床、内壁、天井は無い状態である。即ち内装工事を施す前の状態である。

 それ故、明渡立退で外の店舗に移転する場合、現状の店舗状態にするためには、移転先の店舗はスケルトン状態で借りるのであるから、床、壁、天井を全て自分の費用で行わなければならない。

 それを償却済であるから内装工事費はゼロ円とか、50%の金額で良いと判断することは、不動産の店舗の新規賃貸借契約がどういうものであるのかを全く知らない人の考え方である。

 新築費用の0.5掛等の金額では、同等の内装工事は半分等しか出来ない。後の半分等は、床、壁、天井がコンクリート剥き出しの状態の店舗となる。その状態では店舗営業をすることが出来ない。

 現店舗を明け渡して、移転したくとも移転出来ないであろう。

 移転先で同等の営業するには、新築の内部造作費をもらわなければ、賃借人はその費用を自分が負担しなければならなく、損失が発生する。

 損失補償するのが、明渡立退料であるのに、明け渡す為に損失が生じては、それは明渡立退料と云えない。

 最高裁が「完全補償」しなければならないと判決していることは、明渡立退料の評価においては、充分認識しておくべきものである。

 この最高裁判決は、不動産鑑定士の役目を暗示している。

 上記最高裁の判決で、土地収用は「完全な補償」をすべきで有りという。

 具体的には「収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償をすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することを可能にするに足りる金額の補償を用するものと解される」という。

 土地収用は、国家権力で行われるものであり、その場合には、応々にして被収用者の財産価値を侵害しかねない。

 最高裁は、そういう行為をいさめている。

 では誰が、「完全な補償」である適正な金額を客観的に判断し、示すのか。

 最高裁判決は「財産価値」と云っている。

 土地建物等の適正な財産価値を判断評価出来るのは、不動産鑑定士である。

 土地建物等の財産価値の適正さを証明するのが、不動産鑑定士の大きな役目であろう。

 不動産鑑定士は、専門家の知見でもって、被収用者の土地建物等の財産価値を適正な金額を表示することによって、国家権力からの権利の侵害を防ぐ役目を持っている。


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