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187)土地使用貸借の価格は更地価格の20%にもなるのか

 ある人が、憤慨しながら土地使用貸借権の価格が、更地価格の20%であるという不動産鑑定書を持ち込んできた。

 「ただで土地を貸してやっていたら、更地の20%の価格があると不動産鑑定士は鑑定する。それを認めたら私は更地の20%の金銭を、土地をただで貸した人に支払わなければならなくなる。そんな馬鹿なことがあるのか。」
と大変な怒り様で、相談にきた。

 何故私の所に来たのかと問うたら、
 「べつの不動産鑑定士が田原不動産鑑定士に相談して見ろと紹介してくれた。代理人弁護士にその旨話したら、弁護士もそれならば行ってこいと云ったから、相談に来た。」
と言う。

 使用貸借とは、貸主が借主に無償で物を使用収益させる契約である。
 不動産の場合には、その「物」と言うのが、土地あるいは建物となる。

 本件の相談対象の「物」は、「土地」の使用貸借であった。

 土地の無償使用であるから、借主は使用目的に従って土地使用を行わなければならない。
 そうしない場合とか、第3者に使用収益させた場合には、契約は解除される。使用貸借の期間が来れば返さなければならない。

 使用貸借の場合には、期間の定められていない場合が多い。その場合でも、所定の目的に従って使用収益されたと貸主が判断すれば、返還請求出来る。

 使用貸借契約は、親子・親族間、それを擬制した代表取締役所有の土地と経営する会社の間で行われる場合がほとんどで、第3者との間で行われることは、余程のことでないかぎりない。この使用貸借契約の行われる実態というものは、使用貸借を考える上で大変重要である。
 
 本件の場合も親子間の使用貸借であった。
 親子間の使用貸借で、何故、問題が発生するのかというと、親の土地に使用貸借で長男或いは次男名儀で建物を建てていて、親が死んだ時に相続が発生する。その相続の時に子供、即ち兄弟の間で、相続財産の分配の有利、不利で争いになるのである。

 或いは、婿養子の建物名儀にしていて、その婿養子夫婦が離婚した時に、誰が入れ知恵するのか知らないが、土地使用貸借に価格が有るといって問題が生じるのである。

 土地を使用貸借で借りている建物の所有者は子供であるから、その建物の財産については問題がない。土地は親の名儀である。親の名儀の土地ではあるが、建物はその土地の上に建っているからには、たとえ土地使用貸借であっても、土地価格のいくばくかは権利があるのであるから、建物所有者に配分されても良いであろうと建物所有者側は考える。

 一方、土地所有者から見れば、ただで土地を使わしてやっているのに、権利価格が発生し、それも20%の価格になるとは何事かということになる。

 憤慨した人が持ってきた不動産鑑定書の使用貸借権の価格は、更地価格の20%の価格と鑑定されていた。

 その根拠は、公共事業の用地買収の使用貸借権に対する補償割合が、借地権価格の1/3を採用していることから、それを理由にして次のごとく求める。
 借地権価格割合を60%とし、
      60%×1/3=20%
と、評価土地の土地使用貸借権の価格を求めている。
 つまり、更地価格の20%が土地使用貸借権の価格という。

 本件が公共事業に買収されるというものであれば、その求め方、その算式の採用は妥当であろうが、本件土地は公共事業に買収されるものではない。民民の争いの解決を目的とする。公共事業とは全く状況、条件が異なっているのである。それらを一切考えずに公共事業の補償が採用しているから正しいんだと云わんばかりに、数値割合だけをもってくる考え方は、不動産鑑定として根本的に間違っているし、安易過ぎる。

 最高裁判所は、借地権の契約期間が終了した場合の建物買取請求に対して、「場所的環境」の概念を出して、借地権の消滅したにも関わらず土地所有権者に建物価格以外に土地の場所的環境としての対価を支払う事を命じた。

 この最高裁判決(注)には、農学博士の花嶋得二氏の「建物人格権」の考え方が反映されていると思われる。
 且つ、米田敬一氏の借地権価格を形成する3つの要因の理論が影響しているものと思われる。

 米田敬一氏は、その著書『不動産鑑定評価の実践』P268(港出版 昭和43年5月31日発行)で、借地権の価格構成内容を次のごとくと言う。

      占有権的なものの対価     30%
      場所的環境の対価       35%
      場所的利益の対価       35%

 この3つの対価のうち「場所的環境の対価」35% が、使用貸借権の価格割合に転じてきたのである。
 即ち、借地権がないにも関わらず、建物があることは、場所的環境の対価があると解釈されうるのである。
 借地権が無いことは、地代を払っていないことになり、それは使用貸借の状態であり、使用貸借と同じと考えられる。
 この2つの考えが合体して、
      使用貸借の価格=場所的環境の対価
と曲解されて、使用されて来たのである。但し、これは私の推測である。
  
 公共事業者は、土地の権利者に無補償で明け渡し立ち退きを要求することに躊躇し、何とか実質的な土地利用支配者である土地使用貸借権者にも金銭対価を与えることによって、土地明け渡しがうまく行くことを考えた。

 場所的環境35%≒1/3として、土地使用貸借権利者にその権利対価として、借地権価格割合の1/3の補償することを決めてしまった。
 土地使用貸借者に借地権価格の1/3の対価が支払われれば、土地使用貸借者は、甚だ得するのであるから、土地の明け渡しに容易に応ずる事になる。
 最高裁の判例があるから、その金額補償にはだれも異議を唱えるものはいない。

 多分に政策的な意味合いの強い公共事業の使用貸借権の価格割合を、その政策的要因など全く考えずに、その数値割合を、全く条件の異なる民民の使用貸借権の価格査定に導入するのは、論理の飛躍も甚だしく、身勝手な荒っぽい理論構成である。
 それはあたかも、役所が採用しているのであるから、それが正しいのだと云わんばかりの行為である。
 借地権の価格割合の1/3が使用貸借の価格となるというのであれば、その裏付けとなる経済的な数値としての算出根拠は一体どうなんだと逆に問い糺したい。
 借地権の価格がゼロならば、使用貸借権の価格もゼロになることになるが、その様な矛盾する論理構成が成り立つものであろうか。

 そもそも土地使用貸借権に価格が発生するかどうかが疑問である。
 賃貸借である借地権に価格が発生することは理解できる。その借地権ですら、権利はあるが借地権の価格は発生せず、ゼロの場合は、地方ではよく見られる。 借地権ですら価格が発生するとは限らないのに、使用貸借権に更地価格の20%もの価格が何故発生するのか。

 ただで使用しており、いつ何時土地所有者から返還請求されるか分からず、返還請求されたら返さなければならない権利に、土地価格の20%もの価格が発生するものであろうか。
 私は強い疑問を持つ。

 土地使用貸借権には価格は発生しないのが原則であり、それが本来の姿では無かろうか。

 公共事業の使用貸借権の価格割合は、政策的なもので、それは公共事業の用地買収のみに使用が許される限定的なものであって、民民の場合には適用すべきではないと私は思う。

 一歩下がって、土地使用貸借権に価格が発生するとしても、その価格は極めて低い価格、価格割合である。

 その価格の求め方は、土地使用貸借は固定資産税(都市計画税も含む)を支払っていなく、ただで土地使用しているのであるから、固定資産税相当を支払わないという借り得分の利益が権利価格と考えて、使用期間中の固定資産税相当の金額の現在価値程度を、土地使用貸借権の価格と考えるのが合理的であり、妥当では無かろうか。

 例えば、土地50坪を期間20年で使用貸借しているとする。
 その年間の固定資産税が120,000円であったとする。
 利率4%とすると、期間1年の複利現価率は0.96154であるから、1年目の固定資産税相当の現在価値は、
      120,000円×0.96154=115,385円
である。
 以下20年間の現在価値を求めてみる。

 1年目   120,000円×0.96154=115,385円
 2年目  120,000円×0.92456=110,947円
 3年目  120,000円×0.88900=106,680円
 4年目  120,000円×0.85480=102,576円
 5年目  120,000円×0.82193= 98,632円
 6年目  120,000円×0.79031= 94,837円
 7年目  120,000円×0.75992= 91,190円
 8年目  120,000円×0.73069= 87,683円
 9年目  120,000円×0.70259= 84,311円
 10年目  120,000円×0.67556= 81,067円
 11年目  120,000円×0.64958= 77,950円
 12年目  120,000円×0.62460= 74,952円
 13年目  120,000円×0.60057= 72,068円
 14年目  120,000円×0.57748= 69,298円
 15年目  120,000円×0.55548= 66,631円
 16年目  120,000円×0.53391= 64,069円
 17年目  120,000円×0.51337= 61,604円
 18年目  120,000円×0.49363= 59,236円
 19年目  120,000円×0.47464= 56,957円
 20年目  120,000円×0.45639= 54,767円
   計                         1,630,840円
である。

   こうして求められた1〜20年の固定資産税相当の現在価値の総和は、
      1,630,840円
である。この金額が使用貸借権の価格相当である。

 更地価格が坪当り80万円とすると、更地価格は、
     800,000円×50坪=40,000,000円
である。  使用貸借権価格の更地価格に対する割合は、
     1,630,840円÷40,000,000円=0.040
4%である。

 使用貸借権に価格が存在するとしても、せいぜい上記の割合程度であって、更地価格の20%の価格などにはなり得ないと私は思う。

 余分であるが、上記の20年間の現在価値である1,630,840円を、年間の固定資産税相当の120,000円で割ると、
     1,630,840円÷120,000円=13.5903
である。
 この13.5903の数値は、利率4%、期間20年の年金現価率に等しい。
 つまり20年間の複利現価率で求めた現在価値は、期間20年の年金現価率を乗じた数値と同じと言うことである。

 1〜20年間の1年ごとの値をいちいち求めずに、120,000円に利率4%、期間20年の年金現価率を乗ずれば、163万円余という使用貸借権の価格が求められるのである。
 

 (注)場所的環境についての最高裁の判決(昭和34年(オ)730号)は、前掲米田敬一氏の前著P271に、その判決の重要部分が記載されていることから、それを以下に転載する。

 「借地法第10条の買取請求の場合における建物の時価とは、建物を取壊した場合の動産としての価格ではなく、建物が現存するままの価格である。そして、この場合の建物が現存するままの状態における価格には、当該地の借地権そのものの価格は加算すべきではないが、該建物の存在する場所的環境については参酌すべきである。

 けだし、特定の建物が特定の場所に存在するということは、建物の存在自体から該建物の所有者が享受する事実上の利益であり、また建物の存在する場所的環境を考慮に入れて、該建物の取引を行うことは、一般取引の通念であるからである。

 されば原判決において建物の存在する環境によって異なる場所的価値はこれを含まず、従って建物がへんぴな所にあると、繁華な所にあるを問わず、その場所の如何によって価格を異にしないと判示しているのは、借地法10条にいう建物の時価について、解釈を誤ったものといわなければならない。」
 


****追加 2016年8月17日
 文言の一部変更と文章の一部追加、最高裁の判決の追加。

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