○鑑定コラム


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508)売り物件価格と土地価格変動率

 平成2年の平成バブル以前から、私は駅勢圏を決めて更地と建売住宅の売り物件価格を毎月分析して、決められた駅より徒歩10分の住宅地の価格を求めていた。

 売り物件価格を丹念に追っていると、経済事情の変動に伴って売り物件価格も変動している。

 地価上昇傾向の時には、より高い価格の物件が登場し、逆に価格下落傾向の時には、同一物件で売れない場合は価格の下位変更がなされている。

 駅より徒歩10分のその求められた土地価格の推移を時系列にグラフに落としていた。
 グラフに落として見ると、土地価格の変動が手に取るように見えてくる。

 この価格変動から土地価格の変動率を求めていた。

 ある時、裁判鑑定において、相手側代理人弁護士が、不動産鑑定士の意見書を付けて、私の売り物件の価格による地価変動率の把握の仕方は信用出来ないと猛烈に批判してきた。

 「田原鑑定の地価変動率は売り物件価格で求められており、信頼出来ない。
 売り物件は売主が高い価格で売ろうとする意向を強く反映されたものであり、その価格をデータ採用して求められた地価変動率は、高い変動率である。

 地価変動率は、実際の取引事例に基づいて分析するか、或いは財団法人日本不動産研究所が発表している『市街地価格指数』若しくは国土庁が発表している地価公示価格の価格推移で把握すべきものである。

 それらによる地価変動率のみが信頼出来るものであって、田原鑑定の売り物件価格による地価変動率の把握などは全く信頼出来なく、その求め方は不動産鑑定評価基準違反であり、不当なものである。」
と批判してきた。

 私の土地価格変動率の求め方を「鑑定評価基準違反であり、不当である」と決めつけてくる代理人弁護士、そして弁護士にそう言わしめさせている不動産鑑定士に対して、私は猛然と反論した。

 売り物件価格は、不動産市場に現れる最初の価格である。
 売り物件があってこそ取引事例、取引価格が生ずるのである。

 不動産業者が売り物件に価格をつける場合、周辺の類似的な物件の最近或いは近い過去の取引事例価格を参考にして値決めするものである。

 売り物件価格は高い価格であると決めつけているが、同じ駅勢圏での30〜50件の大量の売り物件のデータを集めて、多変量解析によって平均の値で土地価格を要因分析してみると、高い価格のものであるとは必ずしも言えない。

 本鑑定コラムを読まれる方は、売り物件価格を価格変動率の分析に採用することの正当性を、どの様に主張したら良いのか、各自考えられたい。

 平成4年9月1日に国土庁土地局長から一つの文書(4国土地第367号)が、社団法人日本不動産鑑定協会を通じて、全国の不動産鑑定士に通知された。
 その文書を下記に転載する。


              ****

  「最近の地価動向を踏まえた公共用地の先行取得等に伴う適正な土地評価の推進について」

 今般政府においては、公共用地の先行取得を含む公共投資等の追加を一つの柱とする総合経済対策を策定したところである。

 貴会におかれては、従来から、不動産鑑定士等の品位の保持及び資質の向上ならびに不動産の鑑定評価に関する業務の改善にご尽力頂いているところであるが、不動産の鑑定評価の社会的意義が益々高まっていることに鑑み、貴会所属会員の倫理の一層の確立、より適正な鑑定評価の実現等に一層の御尽力をお願いする。

 また、不動産鑑定士等が公共用地等として取得される土地の評価等不動産の鑑定評価を行う際には、取引事例はもとより、売り希望価格、買い希望価格等の動向及び市場の需給の動向等に関する資料を幅広く収集活用することに特に留意しつつ、不動産鑑定評価基準を適性に遵守することによって、直近の地価動向を的確に反映した適正な評価が推進されるよう、貴会所属会員に対し、周知徹底されたい。
 (以下省略)

                ****

 国土庁はその後官庁の併合によって、国土交通省になり、不動産鑑定評価の監督官庁を引き継いでいる。

 上記局長通知にはっきりと「売り希望価格」という用語が使われる。
 そして売り希望価格の動向等の資料を幅広く収集活用することに「特に留意」せよと局長通知はいう。

 売り物件価格(国土庁のいう「売り希望価格」と私が使う「売り物件価格」とは同じ価格内容のものである)による価格動向の分析を、国土庁(その後国土交通省)は、直近の地価動向を的確に把握するためには、特に留意せよと言うくらい必要であると認めているのである。

 売り物件価格による地価変動率の分析を、『鑑定評価基準』違反で不当と主張する代理人弁護士及びその後ろに隠れて田原鑑定を批判する不動産鑑定士こそ、不動産鑑定評価のなんたるかを再勉強するべきではなかろうかと私は反論した。

 局長通知は平成4年のものであるが、この通知は平成21年2月の現在でも効力を失っていないであろう。

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