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675) 同一物件、同一時点で必要諸経費は、新規賃料、継続賃料で変わるのか

 賃料訴訟の地裁の鑑定人不動産士の作成した鑑定書を読んでいた。

 「おかしいな。
 この不動産鑑定士は何を考えているのだろうか。
 同一物件、同一時点で必要諸経費は、新規賃料、継続賃料で変わらないのに、この鑑定書は必要諸経費が異なっている。
 どうも私には、さっぱり分からない。
 信用出来る鑑定書では無いな。」

とつぶやきながら、自答自問して読み進んだ。

 裁判所が選任した鑑定人不動産鑑定士の不動産鑑定書は、賃料訴訟或いは不動産価格訴訟において、裁判官が絶対視し、ほぼ100%信用し、判決に採用される程のものである。

 その鑑定人不動産鑑定士の作成した不動産鑑定書、いわゆる裁判鑑定書と呼ばれるものが間違っていても、裁判官は次の常套句の、

   「必ずしも不合理であるとは思われない。」
とか、
 「妥当で無いとは必ずしも云えない」
という合理性の全く無い文言で、間違っている裁判鑑定書を庇い続ける。

 そして逆に訴訟当事者側が提出した不動産鑑定書を、「私的鑑定」と言って、
 「それは恣意性が顕著であり、信頼性に乏しい。」
と切り捨てる。

 こうしたおかしな判決を随分と多く見てきた。

 裁判官の立場も分からぬものでは無い。
 自らが任命した鑑定人不動産鑑定士の作成した裁判鑑定書を否定したら、裁判官の判断の基準たるものを失うことになる。

 それは自らが不動産鑑定、賃料鑑定に疎いために、その道の専門家である人が作成した裁判鑑定書は、公平・中立であるという教義に縛られているためであろう。

 しかし、裁判鑑定書は、常に適正であるという保証は無い。

 裁判鑑定書は公平・中立で適正であるという教義に陥っていると、とんでもない判決を行うことになる。

 読んでいた裁判鑑定書には、幾つか重過失と云える間違いが多々あるが、そのうちの一つを取り上げる。

 同一建物で同一価格時点において、新規賃料と継続賃料で必要諸経費が異なるという裁判鑑定書である。

 私は、同じ建物の同一価格時点において、新規賃料であろうが継続賃料であろうが、当該建物を維持管理、運営するに必要な必要諸経費は同じ金額であり、一円たりとも異なるものでは無いと思っている。

 そもそも異なると考えること、そのものが間違っている。

 必要諸経費が異なるとして求められた不動産鑑定書そのものは、不動産鑑定書としての信頼性はゼロである。とてもそれを不動産鑑定書と云えない。

 必要諸経費が異なる鑑定書の例を示す。(数字はわかり安くする為に、丸めにしてある。)

 当該賃料鑑定書は、新規賃料である積算賃料を次のごとく求める。A時点の賃料である。

 年額実質賃料をX円とする。
 必要諸経費を
       570,000,000円+0.03X円
とする。

 そして積算賃料を次の算式で求める。

        純賃料         必要諸経費
      550,000,000円+(570,000,000円+0.03X円) = X

 これを解くと、

       0.97X=1,120,000,000
                 X=1,154,639,175

として、積算賃料の実質賃料を、1,154,639,175円と求める。

 ここで試算は終わりである。

 では、この求められた実質賃料より、当該建物の必要諸経費を求めると、

       570,000,000+1,154,639,175×0.03=604,639,175円

である。

 即ち、新規賃料の当該建物の必要諸経費は、604,639,175円である。

 一方、同じ鑑定書で、同じA時点の継続賃料の利回り法の必要諸経費を求めると、次の通りである。

 試算賃料をX円とする。
 利回り法の試算賃料は、下記の算式で求めている。


        純賃料         必要諸経費
      863,000,000円+(570,000,000円+0.03X円) = X

 これを解くと、

      0.97X=1,433,000,000
                X=1,477,319,588

として、試算賃料を、1,477,319,588円と求める。

 利回り法の試算賃料Xを、上記のごとく求める。

 では、求められた試算賃料で、当該建物の必要諸経費を求めると、

       570,000,000+1,477,319,588×0.03=614,319,588円

である。

 即ち、継続賃料の当該建物の必要諸経費は、614,319,588円である。

 まとめると、下記のごとくである。
 同一建物、同一価格時点の必要諸経費は、

    新規賃料(積算賃料の必要諸経費)      604,639,175円
        継続賃料(利回り法の必要諸経費)      614,319,588円

である。

 同一建物、同一価格時点において必要諸経費が異なる。
 2つの必要諸経費が存在していては、一体適正な必要諸経費はいくらなのだと言うことになる。

 先にも述べたごとく、同一建物の同一時点において、新規賃料でも、継続賃料であっても必要諸経費が異なることはあり得ない。

 当該建物の必要諸経費はB円であれば、B円である。

 ということは、上記裁判鑑定書は間違っているということになる。

 「必ずしも不合理とは思われない」
という常套句で、裁判官は、この裁判鑑定書を擁護し、正当化するのであろうか。

 何故こうした2つの必要諸経費が生じることになったのか。
 それは、年額実質賃料をXとして、必要諸経費のなかにもXに関するものを入れて考えるという実質賃料の求め方が原因している。

 Xを使用する求め方そのものが間違いを引き起こしている。

 実質賃料をXとして求める求め方は、根本的に間違っていると云えよう。

 誰がこうしたおかしな求め方を広めたのか疑問をもつが、ひょつとしてまた、不動産鑑定士試験合格者の実務修習テキストでは無いのかと思い、当該テキストを見たところ、やはり実務修習テキストが実質賃料Xを使った求め方をしていた。

 社団法人日本不動産鑑定協会が作成し、実務修習を指導しているテキスト(第4回)のP352で、積算賃料を次のごとく求めている。

      価格時点における基礎価格 期待利回り  価格時点における必要諸経費
         814,300,000円  ×  4.5% + (10,910,000円+0.12X円)
      =積算賃料(年額)X

 この式より、

      積算賃料(年額)X≒54,038,000円

と積算賃料を求める。

 では、この求められた実質賃料より、価格時点における必要諸経費を求めると、

     10,910,000+54,038,000×0.12=17,394,560円

である。

 一方、同書P358の利回り法の求める算式は、次の式である。

      価格時点における基礎価格 期待利回り   価格時点における必要諸経費
         814,300,000円   ×  4.2% + (10,910,000円+0.12X円)
      =利回り法による試算賃料(年額)X

 この式より、

      試算賃料(年額)X≒51,262,000円

と利回り法の試算賃料を求める。

 では、この求められた試算賃料より、価格時点における必要諸経費を求めると、

      10,910,000+51,262,000×0.12=17,061,440円

である。

 まとめると、実務修習テキストの同一建物、同一価格時点の必要諸経費は、

    新規賃料(積算賃料の必要諸経費)      17,394,460円
        継続賃料(利回り法の必要諸経費)      17,061,440円

である。

 同一建物で同一価格時点で、2つの必要諸経費が存在する。
 この様なことは、あり得ないことである。

 この行為は、不動産鑑定評価であるからと言って、許されるものでは無い。

 恐らく、私の間違いであるという指摘にたいして、次の様な反論がなされ、正当性が声高に主張されるであろう。

 「求める手法が異なるから、必要諸経費が異なって求められるのは当然である。
 必要諸経費は、(10,910,000円+0.12X円)で同じであることから、何ら問題は無い。間違いではない。」
と。

 或いは、
 「求めているのは、積算賃料、利回り法の賃料であって、必要諸経費を求めているのでは無い。」
等という反論がなされ、自分の賃料鑑定評価の正当性を主張するであろう。

 加えて、
 「田原鑑定士の見解は、独自のゆがんだ見解であり、間違っている。」
と。

 不動産鑑定評価では2つの必要諸経費が許されると言うのであれば、それは現実の経済行為を無視した遊離空論の評価論ということになる。
 その様な非現実的不動産鑑定評価を、鑑定評価を依頼する人は要求していない。

 実務修習テキストの求め方は、間違っている。
 間違った求め方を、次の不動産鑑定評価を背負う世代の人に教えるべきでは無い。

 鑑定協会は、即刻、Xを使った賃料評価の求め方は問題があることを自覚し、削除し、テキストを書き直した方が良いと私は思うが。災いをあとに残さないためにも。


  鑑定コラム645)「鑑定協会は実務修習テキストの継続賃料の減価償却費の求め方を即刻訂正せよ!」

  鑑定コラム621)「管理費は支払賃料が分からなければ決められないのか」

  鑑定コラム1091)「必要諸経費は実額が原則」

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