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1111)丸の内にあるビルのキャシュフローの還元利回りは2.8%

 丸の内地区にある25階建程度の新しい事務所ビルのキャシュフローの還元利回りは、如何ほどであろうか。

 また、賃料評価の期待利回りはいかほどであろうか。

 両者を考えて見る。

 土地面積は5,000uとする。
 建物は、S・SRC造25階(地下4階)程度とする。

 土地価格は、丸の内には地価公示価格が2つある。
 1つは、東京駅前広場に面する千代田5-42のu当り2700万円(千代田区丸の内2-4-1 平成25年1月1日、以下同じ)である。
 もう1つは、皇居日比谷濠沿いの日比谷通りに面する千代田5-19のu当り1950万円(千代田区丸の内3-2-2)である。

 この2つの地価公示価格より、平均値の

              2700万円+1950万円
           ───────────= 2325万円                       
                     2

とする。

 建物価格は、鑑定コラム1110)「新築パレスホテルの建築費はu42.9万円」で分析したパレスホテル(所在地 東京都千代田区丸の内一丁目1番1号)の工事費u当り429,000円とする。

 丸の内地区のビルの賃料は、募集賃料ですら非公開であるため、部外者以外が、賃料水準がどれ程か知ることは甚だ困難である。

 鑑定コラム1106)「丸の内のビル賃料は土地価格と4年のタイムラグ」で、丸の内の大地主であり、その地区の殆どのビル所有権者である三菱地所の有価証券報告書のFACT BOOKより、丸の内地区の平均賃料をu当り10,331円と分析した。

 賃料は、この分析した平均賃料u当り10,331円より、下記のごとく求める。

 分析した平均賃料u当り10,331円の賃料は、新規賃料、継続賃料が混在している。
 又、建物が新しいもの、古いものの賃料も混在している。

 地域の類似性が高く、賃貸人が同一という要因から、データ値の散らばりは大きくないと思われ、標準偏差を平均賃料の15%とする。

            10,331×0.15=1,550

 標準偏差を1,550(円)とする。

 丸の内地区で100棟の建物のうち、1年間で新築の建物は2〜3棟ではなかろうか。そして経年の甚だ古い建物も2〜3棟ではなかろうか。

 100棟のうち2〜3棟とは、平均にすると

      (2+3)/2=2.5

で2.5%である。

 新築ビルの賃料は高く、古いビルの賃料は安いのが賃料形成の経済市場原則である。

 ここで富士山の形をした正規分布図を考え、全体の面積を1.0とすると、右端の2.5%を新築建物の出現率、左端の2.5%を経年の甚だ古い建物の出現率とみなしうる。

 右端2.5%、左端2.5%は、標準偏差1.96倍の位置の面積割合に相当する。
 その右端の賃料は、

            10,331+1,550×1.96=13,369

と求められる。

 13,369円を丸の内地区の新築建物の新規賃料とする。

 共益費は、支払賃料u当り13,369円に含まれているものとする。

 土地面積に対する建物延床面積の割合(容積率)は、丸の内地区の大半は容積1300%の都市計画の地域にあることから、13.0とする。

 保証金は支払賃料の10ヶ月分とする。
 保証金の運用利率を1%とすると、支払賃料に対する保証金の運用利益の割合は、

              13,369×10×0.01÷12
          ─────────────  = 0.008                     
                     13,369

である。

 レンタブル比は、鑑定コラム1106)で分析した59%とする。

 空室率は10%とする。

 必要諸経費率は、減価償却費を経費に含めないキャシュフローの経費率として、28%とする。

 還元利回りを求める算式は、鑑定コラム19)「還元利回りの求め方」で述べられ、著書(『賃料<地代・家賃>評価の実際』P45 田原拓治 プログレス)でも詳述してある下記2つの算式による。

 不動産の還元利回りは、

        粗利回り×(1-必要諸経費率)=還元利回り  ・・・・・A式

で求められる。

 そして、粗利回りの求め方の算式は下記である。

    粗利回り

   u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正 ×経年賃料修正率×容積率×賃貸面積率 = ─────────────────────────────      土地単価+建物工事費単価×容積率×建物償却修正率
    ・・・・・B式

 上記分析数値をまとめ、数値を上記粗利回りの算式(B式)に代入して、粗利回りを求める。

    土地単価    円/u     23,250,000	
    建物工事費	円/u     429,000	
    建物価格    円/u     429,000	
    建物償却修正率         1.00 	
    u当り賃料	円/u     13,369	
    共益比率            1.00 	
    運用償却額修正率        1.008 	
    空室率修正率          0.90 	
    経年賃料修正率         1.00 	
    容積率             13.00 	
    賃貸面積率           0.59 	
    必要諸経費率          0.28

 粗利回りは、0.0387239と求められる。
 必要諸経費率は0.28である。
 粗利回りと必要諸経費率をA式に入れて、還元利回りを求める。

     0.0387239×(1−0.28)=0.0278812≒0.028

 還元利回りは0.028と求められる。

 丸の内地区の25階建程度の新築事務所ビルのキャシュフローの還元利回りは2.8%である。

 次いで賃料評価の場合の期待利回りを求める。

 賃料評価の期待利回りは、減価償却後の利回りであるから、前記で求められたキャシュフローの還元利回りをそのまま使用することは出来ない。

 何故かと云えば、キャシュフローの還元利回りは減価償却前の利回りであるから。
 即ちキャシュフローの還元利回りには、減価償却費が割合の形として含まれているからである。

 減価償却後必要諸経費率は、下記算式で求める。

            減価償却前必要諸経費+減価償却費
            ─────────────────                      
                      総収入

減価償却前必要諸経費 減価償却費 = ───────────  + ──────  総収入 総収入
 ここで 減価償却前必要諸経費 ────────────   総収入

は、28%と求められている。

 上式は、書き替えると、

                           減価償却費
              28% +    ───────                             
                             総収入

となる。

 書き替えられた上式の分子の 減価償却費を求める。

 経済的耐用年数を新築建物であることを考え45年とする。

 月額u当り減価償却費は、

     429,000(新築建物価格)÷45年÷12ヶ月=794円

である。

 分母の総収入の建物全体面積に換算した月額u当り金額は、

          13,369円+13,369円×0.008(運用益)=13,476円
          13,476円×0.59(レンタブル比)×0.9(空室修正)=7,156円

である。

       減価償却費           新築建物価格÷45÷12
    ───────    =────────────                   
         総収入              13,476×0.59×0.9

794 = ─────  7,156
= 0.111

 減価償却後必要諸経費率は、

      28%+11.1%=39.1%

である。

 必要諸経費の総収入に占める割合は、

      減価償却前      28.0%
            減価償却後            39.1%

と言うことである。減価償却費の存在が如何に大きいかが、上記の数値を比較すれば分かる。

 求められた必要諸経費率39.1%を、前記した還元利回りを求める算式の「必要諸経費率」に入れて計算する。
 下記である。

    土地単価    円/u     23,250,000	
    建物工事費	円/u     429,000	
    建物価格    円/u     429,000	
    建物償却修正率         1.00 	
    u当り賃料	円/u     13,369	
    共益比率            1.00 	
    運用償却額修正率        1.008 	
    空室率修正率          0.90 	
    経年賃料修正率         1.00 	
    容積率             13.00 	
    賃貸面積率           0.59 	
    必要諸経費率			0.391

 粗利回りは、0.0387239と求められる。
 必要諸経費率は0.391である。
 粗利回りと必要諸経費率をA式に入れて、還元利回りを求める。

     0.0387239×(1−0.391)=0.0235829≒0.024

 減価償却後の還元利回りは0.024(厳密では0.02358)と求められる。

 還元利回りと期待利回りは、貨幣の表と裏の関係にあることから、

      期待利回り   0.024

と求められる。

 現在の丸の内地区の期待利回りは、2.4%と分析される。

 長々と期待利回りの算出過程を述べたが、必要諸経費率を使用しているために廻りくどい説明になったが、減価償却後の利回りは、減価償却前利回りから減価償却費率を差し引けば求められるものである。

 即ち、

      減価償却前利回り− 減価償却費率=減価償却後利回り

である。

 この求め方から、期待利回りを求める。結果は同じになるはずである。

 減価償却費の実額は、

     429,000円×5,000u×13=27,885,000,000円

27,885,000,000円/45=619,666,667円

である。

 一方土地建物価格は、

    土地価格     23,250,000円×5,000u=116,250,000,000円
        建物価格                               27,885,000,000円
          計                 144,135,000,000円

である。

 減価償却費率は、

             減価償却費        619,666,667円
         ───────   = ──────────    = 0.0043     
            土地建物価格         144,135,000,000円

である。

 減価償却前還元利回りは0.028(厳密では0.02788)であった。
 これより減価償却費率0.0043を減じると、

     0.02788−0.0043=0.02358≒0.024

である。

 両手法の値をまとめると、

   必要諸経費率より求める       0.02358≒0.024
      減価償却費率を減じて求める    0.02358≒0.024

両手法から求めても値は同じである。

 後者の求め方の方が簡易であり、楽である。
 但しその際注意するのは、土地建物価格(即ち積算価格)に対する減価償却前利回りでなければならなく、収益価格つまり投資不動産価格に対する減価償却前利回り(キャップレート)を使用するのでは無い。このことは鑑定コラム1104)「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」で述べたことである。

 賃料評価においての丸の内地区の期待利回りは、2.4%である。

 還元利回り、期待利回りをまとめると、

    キャシユフロー還元利回り     2.8%
        賃料評価の期待利回り              2.4%

である。


  鑑定コラム1110)
「新築パレスホテルの建築費はu42.9万円」

  鑑定コラム1106)「丸の内のビル賃料は土地価格と4年のタイムラグ」

  鑑定コラム1104)「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」

  鑑定コラム19)「還元利回りの求め方」

  鑑定コラム544)「銀座の利回り2.0%、表参道、新宿、渋谷、池袋は? 」

  鑑定コラム6)「丸の内土地還元利回り3.6%」

  鑑定コラム111)「丸ビルの土地利回り2.9%の求め方」


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