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1143)地代の事例の全くない地代の鑑定書

 地代の不動産鑑定評価において、地代の賃貸事例が全く記載されていない地代の鑑定書が出回っている。

 地代の鑑定評価にあっては、当該周辺及び類似地域の地代例の地代水準を考えて、対象地の適正地代を鑑定評価するものである。

 借地借家法の11条は、地代の増減が請求出来る条件を記している。
 下記の4つの条件である。

    1.土地の公租公課の増減
    2.土地価格の上昇、下落
    3.経済事情の変動
    4.近傍類似の地代との不相当

 地代事例の記載の無い鑑定では、借地借家法の地代増減請求権の構成要件である「近傍類似の地代との不相当」の近傍類似の地代の比較をどの様にするのか。

 比較するものが無くては、鑑定書を読む人、訴訟指揮する裁判官は「不相当」の判断が出来ないのではなかろうか。

 「不相当」かどうか近傍類似の土地の地代の事例が記載されていなければ、当該土地の地代が「不相当」であることそのものが分からない。そうした状態で裁判官に適正な地代の判断を求める方が無理である。

 データを提示しなければ、裁判官で無くとも誰だって判断出来ない。

 地代事例として契約条件が同一もしくは似かよった適切な事例入手が困難である等の理由をつけて、地代事例による賃貸事例比較法を行わないというコメントが書かれていることが多い。

 地代の事例が入手しがたいことは、私も幾度も幾度も経験していることから、充分分かっている。

 登記所の公図と航空住宅地図を見較べて、公図では大きく白い土地であるが、住宅地図では家が建て込んでいる土地を捜す。そうした土地は借地である。

 そこに行って借地人に、かたっ端から地代はいくらですかと聞いて歩く。

 何であなたにそんなこと教えなければならないんだと拒否し、教えてくれない人の方が多いが、中には教えてくれる人もいる。1,2件地代事例が分かればそれでよいのである。

 しかし最近は、借地も分筆されて枝番がつき、一筆の土地になっているのが多く、借地を見つけるのに苦労する。

 寺所有の地代は安く使い物にならない場合が多い。

 地代評価の依頼者は、賃貸人であれ賃借人であれ、地元の情報を持っているから、依頼者に協力してもらって、地代例を捜すのが最も良い。

 地代の鑑定評価において、地代の事例ゼロと云うのはまずい。

 比較する条件が困難であっても、全く全部が比較出来ないというものでは無かろう。

 比較出来る条件の範囲で比較することも出来る。
 比較作業を行って、その比準地代が採用出来ないという判断になれば、その過程を記して、採用出来ないと鑑定書にその理由を書いて不採用にすればよい。

 鑑定書の中には、ハナから比較出来ないと決めつけ、地代の事例を捜そうとすることすらやろうとしないと思われるものもある。

 捜して見たら借地は、少々離れているが存在する場合もある。中には隣接地が借地であったと云うこともある。

 隣接地が借地であることを知らずに、地代事例が無い等云々と云って賃貸事例比較法を行っていない地代鑑定書は、手抜きの鑑定以外何物でも無いであろう。

 地代事例との比較を行わなくとも、せめて地代水準の把握の為に、距離が少し離れていても良いから地代事例の1つか、2つは鑑定書に記載して、対象地の地代水準の妥当性の検討をしておくべきではなかろうか。

 地代の鑑定評価で、地代事例の記載のない鑑定は、土地の鑑定評価で土地取引事例が無くて、土地評価を行っているごとくのものである。

 土地の鑑定書で、土地価格の取引事例が全く記載されて無くて土地価格が求められていたら、鑑定書を読む人はどう思うであろうか。

 地代事例の入手に苦労するが、最近、借地権が競売されて、その競売された事例から地代を集めて、地代事例集として頒布しているグループがあると知った。

 日本全国の借地権の競売事例からの地代事例である。

 1400件ほどの借地権の地代事例が掲載されている。
 全国都道府県の地代事例を知ることが出来る。
 欲を言えば、所在地の枝番までの公開が欲しい。知る方法は別途あるが。

 地代鑑定の事例に使えるかどうかは、上手い具合に評価する地域の近くにあればの話であるが、全く地代事例が無い場合は、隣周辺の市の事例からの地代水準の把握として利用出来そうである。

 頒布価格はいささか高いが、販売グループの一人は、地代の鑑定1件受注すれば元が取れるょと冗談を云う。

 なかなか上手い所に目を付けた。
 やっている人が私の知っている不動産鑑定士と知ってなお驚いた。

 儲けがあるかどうか私は知らないが、地代事例の収集が難しいことから、この事業は情報の提供として良いことをやり出したと私は思う。

 データとして年々蓄積されると、そのデータは貴重なものとなるであろう。
 長く続けられることを願う。

 裁判所の競売評価をしている不動産鑑定士は、自らが行っている競売評価の借地権の地代データが商売になるとは全く気がつかなかった。

 下記にアドレスを記しておく。

     
http://www.fudousanchosa.com/index.html


  鑑定コラム465)「札幌の高度商業地には地代例が無い」

  鑑定コラム1137)「地代評価で収益分析法は有用な手法である」

  鑑定コラム1138)「契約減価とは」


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