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149)積み上げ方式の割引率に実証性はあるのか

 不動産鑑定評価で、価格を求める方式の1つとして収益還元法という手法がある。
 その収益還元法の中にあって、DCF法という分析方法がある。減価償却費など現金支出の伴わないものを費用として見ないという、いわゆるキャッシュフローによる収益還元法である。

 地方ではいざ知らず、東京の不動産価格にあっては、地価の大幅な下落に伴い、現在は、ほぼ取引価格は収益価格(収益還元法で求められた価格を収益価格という)に近づいている。

 近づいていると言う表現は、正しくないかもしれない。
 収益価格の裏づけがなければ、取引価格は成立しない状況と言い直すべきかもしれない。

 そのDCF法を使用する時に、最も問題になるのが、各年の得られた純収益を現在の価値に割り戻す時に使用される割引率である。

 不動産の純収益の割引率は、
        不動産の還元利回り=不動産の純収益の割引率
と概ね考えられる。
 これに異を唱える人はいる。
 しかし、手形の割引率や貸し金の割引率と、同じ「割引率」という言葉を使うが、不動産の純収益に使う割引率の場合は、それらとは少し意味する内容が異なる。

 ある不動産鑑定書があった。
 その不動産鑑定書に記載の割引率は、


         国債利回り         1.5%
                  リスクプレミアム      2.5%
                  流動性欠如プレミアム    1.3%
                  資産の安全性プレミアム   1.0%
               ───────────────────               
                      計                      6.3%
として6.3%の割引率であった。

 初めて不動産鑑定書を見た人は、割引率とはこうして求めるのかと感心するかもしれない。つまり一見もっともらしく見えるのである。

 しかし、その割合の根拠、算出を説明するものは一切なかった。
 いきなり数値が突然出てきて、その割引率で価格計算され、その計算された価格が、鑑定評価額として決定されている。

 国債の利回りはともかくとして、プレミアムの利率として採用している2.5%、1.3%、1.0%の実証的データ分析による説明が全くなされていない。

 何故2.5%なのか。
 何故1.3%なのか。
 何故1.0%なのか。
 何に対しての%なのか。
 そのデータ分析による合理的根拠は?

 それら数値の説明も全くなされず、理論的根拠も、実証データ分析の裏付けもない数値が罷り通っていることに、私は強い疑問を感じる。

 採用するからには、採用数値の合理的根拠の説明はするべきである。その説明が出来なければ、その様な数値を採用するべきでなく、書くべきでない。

 流動性欠如プレミアム、 資産の安全性プレミアムは、そもそもそれ自体がリスクプレミアムであろう。それをリスクプレミアムと区別して、再度加算するとは、一体リスクプレミアムというものは何なのか。

 割引率の算出方法は、積み上げ方式だけに限るものではない。数値が合理的に説明出来る手法によって求めた割引率を使用するべきである。

 DCF法にとって、割引率は最も重要で大切なものである。
 その最重要なものが、具体的根拠のない数値を加算して、割引率と称しても、それを信用する事は出来るであろうか。

 加えて、国債の利回りと不動産の割引率と関係があるのかということすら理論分析されていない。

 数年程前、ある外資のファンドマネージャーの講演を聞く機会があった。
 その時、講師はこんなことを言っていた。
 「当社で、ハーバード大学を出た優秀な人が、30年かかって不動産のキャップレート(割引率と同義とここではみなす。以下同じ)と国債の利回りを分析しているが、未だに関係がわからない。
 と言うことは、両者は無関係であるという結論に至らざるを得ない。
 日本の不動産鑑定士の不動産鑑定書をよく見るが、キャップレートと国債利回りが相関関係にあるごとく、説明もなく使われている。
 よく、それが通るものだと感心する。
 日本の不動産鑑定士はデータの分析を行っているのですか。」
とかなり厳しい口調で述べられた。
 日本の不動産鑑定士への強烈な批判と私は受け止めた。

 バブル時の国債利回りは5%を超えていた。その時も、今の割引率の積み上げ方式の理論が適用するであろうか。

 理論とはあらゆる状態においても適用出来るものでなければならない。

 バブル時には適用出来なかったが、今は適用出来るというごとくの主張などの考え方は、理論といえる代物ではない。

 バブル時の国債利回りは5%であったから、前記例ではプレミアムは4.8%となるから、9.8%のキャップレートにならなければならない。
 バブル時のキャップレートは、その様な高い利率であったかどうか。

 バブル時のキャップレートが、9.8%であったならば、現行の割引率の積み上げ方式は信用出来るが。

 いずれの主張にしろ、リスクプレミアムを積み上げて、割引率を求める場合には、その数値の実証的分析の裏づけが無い限り、積み上げ方式で求められた割引率に信用性は無い。
 全てのリスクプレミアムの数値に、合理的な実証データ分析による裏づけがなされていれば、私は信用するが。

 ある勉強会で、リスクについて討論していた時、突然、出席者の一人が、
 「あなた方の考え方がさっぱり分からない。
 リスク、リスクと言うが、戦争によるリスクを考えているのか。
 今迄の討論を聞いていても、誰一人その事に言及していない。
 リスクを考えるならば、戦争によるリスクを考えるべきだ。」
と述べた。
 その人は韓国からの留学者であった。

 私は、その言葉を聞いた時、頭から水をぶっかけられた気がした。
 

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