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837)リスク数値の説明が出来ずに積み上げ利回りを使用する不動産鑑定

 賃料の鑑定書で、積み上げ利回りによる期待利回りを使用して積算賃料を求めていた鑑定書に出会った。

 以下のものが、例えば求められている期待利回りである。

       国債利回り  非流動性リスク     管理困難性リスク
    1.5%  +  2.0%     +   2.5%    = 6.0%

 期待利回りを6.0%と求める。

 国債利回りは、カントリーリスクを反映したものとして認める。
 分からないのは、非流動性リスク2.0%、 管理困難性リスク2.5%である。
 どのようにして、このリスク値が求められたのか。

 期待利回りは、積算賃料を求めるのに大変重要なものであることから、この様な求め方で求めたのが正しいとされては甚だ迷惑であることから、鑑定書を作成した不動産鑑定士に、リスク数値の根拠を説明せよと事件担当の代理人弁護士を通じて裁判所に意見書を送った。

 裁判所を通じて、返って来た回答の内容には唖然とした。

 投資家やアセットマネージャーからヒアリングし求めたものであり、不動産投資市場を反映した適切な利回りであり、リスク数値には十分な合理的根拠を有するものであるという内容である。

 挙げ句に、当社は、J-REITや私募ファンドなどの投資用不動産の評価を多数行っていることから鑑定評価は適正であると。
 リスク数値を算出根拠となる算式等を使った説明は一切ない。
 文言で適正と云うだけである。

 イヤハヤ、この回答内容には恐れ入った。

 回答からは、何故非流動性リスク2.0%、 管理困難性リスク2.5%であるのかさっぱり分からない。

 いくら適切な利回りであると云われても、その求められる数値根拠の説明が全くなされていなくては、適切な利回りであるということは信用することは出来ないであろう。

 リスク数値の算出根拠が、合理的に説明出来なければ、そうした数値を使った鑑定書を書くな。リスク数値を使用するなといいたい。

 つまり、はっきり言えば、鑑定書を書いた不動産鑑定士及び鑑定書発行の鑑定会社は、2%、2.5%の数値の求め方が、そもそも根本的に分かっていないのであろう。

 リスク数値の求め方が全く分かっていなくて、我社は、J-REITや私募ファンドなどの賃貸不動産の評価を多数行っていると豪語する。

 担当不動産鑑定士及び鑑定書発行会社は、J-REITの不動産鑑定評価を多く行っているから、担当不動産鑑定士及び所属する鑑定会社の鑑定評価は適正であるという考え方が根底にあるようだ。

 私から言わせれば、

 「それがどうしたの。
 我社がなんなの。
 愚かなことを言うなァー。
 もっと勉強したら・・・・。」

が感想である。

 手許にあるごとくのお粗末な鑑定書を書いていて、その類の鑑定書を多く発行しているとは、そのことの方が重大であろう。

 同じ考えで鑑定書を発行していたとしたら、今迄に発行している不動産鑑定書は全部間違いのひどい鑑定書と云うことになるのだが。
 そのことが全く分かっていない様だ。

 J-REITの不動産鑑定評価を行っている鑑定会社は、立派な優れた鑑定会社と豪語しているようであるから、投資家の方々は、リートに添付されている不動産鑑定書を一度じっくり見て、積み上げ方式で求められた還元利回りを使って価格が求められていた鑑定書を見つけたら、署名している不動産鑑定士にその具体的根拠を聞かれたら。

 本件の鑑定書の場合、説明が全く出来ないリスクの数値を使って、鑑定評価を行っているようだ。

 空恐ろしくなる不動産鑑定士であり、鑑定会社である。

 積み上げ方式のリスク数値の利回りの求め方を全く知らずに、説明すら出来ずに、平然として使用している不動産鑑定士の存在に肌寒さを感じることから、リスク数値の求め方の概要を簡単に下記に記す。

 不動産鑑定の積上げ方式の還元利回り(期待利回りに結果として同じ)の求め方は、事業会社の価格や、工場機械・設備装置の価格を求める時に使われるCAPMの公式を援用したものである。

   CAPM利回りE = I1+β(M−I2)+a

I1 : 無リスク利回り (M−I2): 一般的な株式リスクプレミアム M   : 特定期間に渡る株式市場全体の利回り    I2 : Mに用いられる期間の無リスク利回り β : ベータ値(市場全体と比較した価格変動率の尺度) a : 特定企業リスク調整

 上記CAPMの公式を不動産還元利回りに置き換えて考えると、下記のごとくとなる。但し、これは私の考え方である。

            I1    : 無リスク利回り = 10年物国債利回り
            M   : 特定期間に渡る賃貸不動産全体の利回り
          I2    : Mに用いられる期間の国債利回り
            β     : 賃貸不動産市場全体と比較した利回りの変動率の尺度
            a     : 特定賃貸不動産のリスク
            b     : 当該不動産の属する地域のリスク
            c     : 当該不動産の所有する個別的リスク
とすると、

            不動産還元利回り=I1+β(M−I2)+a+b+c

の公式となる。

 β値、(M−I2)、a、b、cの値は、数多くの賃貸不動産のデータ分析によって求められるものである。

 特にMは、あらゆる賃貸不動産の利回りから求められるものである。

 ホテル、事務所ビル、マンション、アパート、店舗、ショッピングセンター、工場、倉庫等、用途ごとの、かつ北海道から沖縄まで日本全国に存在する賃貸不動産の利回りである。

 これらのデータ分析によってM値が求められ、M値よりβ値が求められる。そして、a、b、cの値も求められることになる。

 これら数値を決定するには、しっかりした理論の論文の存在と莫大な利回りのデータが、それもごく直近のデータが必要である。

 そうしたことによって、積み上げ方式の不動産の還元利回りが求められるものである。

 現在、日本において、CAPMを応用した不動産還元利回りは完成されている段階ではないし、β値、M値、a、b、cの値も全く未完成であり、発表されていない。

 そうした状況の中で、その不動産鑑定士は、積上げ方式として

     
              国債利回り                  1.5%
              非流動性リスク       2.0%
              管理困難性リスク            2.5%

の値を使用して、期待利回りを6.0%と求める。

 β値、M値、当該賃貸不動産業種リスクa、地域リスクb、対象不動産の築年等の個別リスクcをどの様に求めて、6.0%の積上げ方式の還元利回りを求めたのであろうか。

 そもそも、当該鑑定書の積上げ利回りには、a、b、cのリスクが全く考慮されていない。

 β値も、M値も分からずに積上げ方式の利回りを6.0%と求めるなど、無茶苦茶である。積上げ方式の期待利回りといえる代物では無い。

 同じ資格を持つ不動産鑑定士として、そのお粗末さには恥ずかしいくらいである。

 こうした不動産鑑定書が、何の反省も無く批判されることも無く、堂々と世の中に出回っているようである。


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