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1671)その借地権割合は大丈夫か

 地方の土地価格の低い宅地の地代の増減額の争いである。

 現行地代は年額64,000円である。

 更地価格は3,500,000円である。

 継続地代の増減額の争いであり、当然この借地の適正な新規地代はどれ程かという問題が生じる。

 裁判所の鑑定人不動産鑑定士が、借地権割合は40%とし、新規地代は年額52,000円とした鑑定書が出された。

 地代評価にあって、借地権価格を考えて地代を求めていることは妥当である。

 このことについては、他の地代の裁判所の鑑定人の評価で、借地権価格を全く考え無く、ゼロ円とする鑑定書に遭遇したことがある。

 大正時代からの借地で、借地期間賃借期間90年程度経過していた。

 その借地権には、強固な借地権価格が発生しているにもかかわらず、相続税路線価の借地権割合を否定する独自の理論を打ち立てて、借地権価格ゼロ円として地代を求めた鑑定書に遭遇した。人口200万人を越える都市の案件である。

 私がいくら強固な借地権価格が発生していると意見書を書いても、裁判官は全く耳を貸さず、借地権価格ゼロ円を前提にした裁判所の鑑定人不動産鑑定士の鑑定額を採用して、判決を書いてしまった。

 結果とんでもない高い地代である。更地価格の5%の金額の地代が適正地代とした判決である。家賃利回りを超える地代であった。

 減価償却費は借地人に属するものであるのに、それは土地賃貸人に属するものであるとした鑑定書でもあった。

 賃借期間90年を越える借地であるのに、借地権価格の発生を認めず、減価償却費は借地人が受け取るものであるにもかかわらず、地主が地代として受け取るとし、かつ、地代は、更地価格の5%に相当する地代額であった。そうした地代が適正であると云う鑑定書であり、判決である。

 地代鑑定書にもあきれたが、それを一切の批判もせずに採用する判決にも、私はあきれかえってしまった。

 話がそれた。元に戻す。

 現行地代年額64,000円の借地権割合40%の算出根拠は、地元精通者の意見及び国税局の相続税路線価の借地権割合が40%であることから、40%と決定したと記す。

 上記の借地権価格の求め方を、鑑定評価基準が許しているかどうかが、そもそも問題であるが、ここではそれに触れない。

 現行地代が64,000円であるから、減額の鑑定である。

 差額配分法では、1/2法を採用すれば、

             52,000円−64,000円=▲12,000円
             ▲12,000円÷2=▲6,000円
             ▲6,000円+64,000円=58,000円

58,000円の地代となる。

 裁判官は、裁判所が鑑定依頼した裁判所鑑定人の鑑定額を先ず信頼して判断する。

 そうであるから、間違っている鑑定結果でも、その間違いが分からず、専門家が判断したのであるから適正であろうと鑑定結果に頼り切って、判決を下してしまう。

 民事の不動産の価格・賃料の争いで、誤判決の多くは、鑑定人不動産鑑定士の間違いによるものが多い。

 「鑑定人不動産鑑定士しっかりせよ」と私が、この鑑定コラムで口を酸っぱくして云っているのは、そうした誤判決を避けるために鑑定人になる不動産鑑定士は、しっかり勉強して、おかしな鑑定評価をしないで欲しいためである。

 さて、上記の裁判所鑑定人のおかしな地代鑑定を、間違いでおかしな鑑定であると切り崩すには、どうしたら良いのか。

 切り崩す方法は、当該不動産鑑定書を読めば、幾つか浮かんで来るであろうが、その中の1つの方法を記す。

 借地権割合40%ということは、借地権価格は更地価格の40%を占めるということである。

 更地価格は、3,500,000円である。

 借地権価格は、

                  3,500,000円×0.4=1,400,000円

である。

 鑑定基準は、借地権価格の求め方として次のごとく云う。

 「借地権の附着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済価値の現在価値のうち、慣行的に取引の対象になっている部分」(平成26年改正鑑定基準国交省版P45)と云う。

 つまり借地権価格は、新規適正地代と現行支払地代の差額から発生するものであることから、1,400,000円の借地権価格及び40%の借地権割合が妥当かどうか検討する。

 新規適正地代をXとする。

 現行地代は年額64,000円である。

 賃借期間は30年とする。

 借地権価格は、差額の30年分の価格とする。算式は下記である。

       (X−64,000円)×30(注)=1,400,000円

  (注)期間の年金現価率で求めるべきであるが、利率をどうするかの問題が発生することから、それを回避するため、ここでは差額を単純に30年間加算した金額とする。

 上記式を解けば、

                            X=110,667円≒111,000円

である。

 新規適正地代は年額111,000円である。

 借地権価格1,400,000円及び借地権割合40%であるには、対象地の新規適正地代は111,000円でなければならない。

 しかるに、裁判所鑑定人の新規適正地代は年額52,000円である。

 新規適正地代が52,000円であるとすれば、借地権価格1,400,000円、借地権割合40%になることはない。

 つまり裁判所鑑定人の借地権割合40%の鑑定は間違っていることになる。対象地の借地権割合は40%では無い。

 借地権割合40%が非論理的で間違っていることから、その間違っている借地権割合を前提にした裁判所鑑定人の地代は、信頼性は無く、適正な地代とは云えない。

 論理が正しいのであれば、「逆も正なり」であることから、逆からのおかしな地代であることの立証である。

(平成29年7月19日東京赤坂ホテルニューオータニの小さな部屋で行われた田原塾の講話テキストに加筆して)


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