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199)ナイガイの2つの倉庫の売却

 減損会計に対する資産の売却が進む。
 東証一部上場の株式会社ナイガイが、所有する2つの倉庫・物流センターを売却した。(ナイガイHPプレスリリース 2004年9月24日)

 ナイガイは、紳士服・スポーツウエア・靴下等のメーカーである。
 5本足指のソックスを売り出した企業であると私には記憶がある。
 「ラルフローレン」というブランド名は知っていたが、それがどこのメーカーのものかは知らなかった。今回ナイガイのホームページを見て、それがナイガイ製品のブランドであると知った。

 ナイガイの売上高は468億円(2004年1月期)、経常利益は19億円の赤字である。

 そのナイガイが所有する2つの倉庫・物流センターを売却した。
 一つは兵庫県三田市にある建物面積19,423.49平方メートルの倉庫で、その売却価格は1,096百万円である。
 他の一つは埼玉県越谷市にある建物面積9,166.82平方メートルの倉庫で、売却価格は1,394百万円である。

 2つの倉庫の売却損は約28億円で、特別損失で計上処理するという。
 前期2004年1月期が19億円の赤字であったから、それに固定資産の売却損28億円が加わることから、会社の経営は大変と想像する。

 もっとも決算が赤字であったために、思い切って減損会計の事前対応を行って、財務体質の改善を早めに行ってしまおうと、経営者は判断したのかもしれない。

 全く外部にいる不動産鑑定士の私の目から見れば、自前で物流倉庫を持って、資産の投下資金を寝かしているよりか、売却して投下資本を回収し、倉庫は賃借して利用した方が、経営は身軽になることから良いことと思われる。今回のナイガイの所有倉庫の売却は、経営者としては、よりよい資本の投下が選択できることから、良い経営選択方策と私は思う。

 売却損が出たのは、地価の下落が生じたためであり、これは経営者とてどうしょうもないことである。
 あえて言えば、もっと早く売却しておれば良かったということは言えるかもしれないが、土地価格が下落することなど誰も分からなかったのであるから、その要因をもって批判することは酷であろう。

 生駒データサービスシステムという不動産情報会社が発行している、『不動産白書2003』という倉庫・物流センターの賃料を調査した書物がある。

 その中で、姫路・加古川地区の倉庫・物流センターの賃料は、坪当り3,480円とある。
 調査・発行時期よりか時間が経っており、その間に賃料の下落が生じていることも考え、上記賃料に0.8掛けの修正を行う。
     3,480円×0.8=2,784円
     2,784円÷3.30578≒840円
 平方メートル当り840円である。

 同様に、同書の越谷市地区の倉庫・物流センターの賃料は、埼玉県東地区に区分され、その地区の賃料は坪当たり4,100円である。これも前記と同じ理由で0.8掛けの修正を行う。
     4,100円×0.8=3,280円
     3,280円÷3.30578≒990円
 平方メートル当り990円である。

 三田市の倉庫の年間賃料は、
     840円×19,423.49≒16,300,000円
     1630万円×12ヶ月=19,560万円
19,560万円と推定される。

 この倉庫の売買金額は109,600万円であるから、粗利回りは、
     19,560万円÷109,600万円=0.178
である。

 越谷市の倉庫の年間賃料は、
     990円×9,166.82≒9,080,000円
     908万円×12ヶ月=10,896万円
10,896万円と推定される。

 この倉庫の売買金額は136,400万円であるから、粗利回りは、
     10,896万円÷136,400万円=0.0798≒0.08
である。

 2つの倉庫の粗利回りは、
     三田市の倉庫    17.8%
     越谷市の倉庫     8.0%
と求められた。

 今迄倉庫の鑑定評価をあまり多くは無いが、20数件行っている。
 その都度、倉庫経営会社より提供された諸資料より、DCF法によって価格分析を行っている。

 その分析結果を見ると、賃料収入に対する必要諸経費の割合は15%〜40%とかなりの幅がある。
 それは倉庫建物の築後年数、立地する土地価格、倉庫建物の外壁がスレートの倉庫から重量鉄骨の5階建ての倉庫とか、ALC版とかPC板の倉庫、或いは冷凍倉庫、政府米保管の定温倉庫、ランプウエイ付きの倉庫など種類の違い及び建物の品等によるものと思われる。

 個人の不動産鑑定士の多くない鑑定例のデータ分析からであるが、倉庫の経費率の中庸値は25%程度である。

 この経費率を採用して、ナイガイが手放した三田・越谷の倉庫の還元利回りを求めると、次の通りである。
     三田    17.8%×(1−0.25)=13.3%
     越谷      8%×(1−0.25)= 6.0%

 三田の倉庫の還元利回りが高いが、これは賃料が高いか或いは売買価格が安かったかのどちらかであろう。
 私はナイガイの三田の倉庫を見てはいないが、以前に別の会社の加古川の倉庫を鑑定したこともあるから、それから考えると売却価格がやや安いのでは無かろうかと私には思える。

 この2つの倉庫の売買の形態は、モルガン信託銀行への信託受益権の譲渡によるものである。
 実際の譲渡先は、それぞれの倉庫所有のために設立された2つのSPC(特定目的会社)である。

 ではここで2つの倉庫の譲渡の手段としてとられた信託受益権とはどういうものか。
 信託受益権とは、信託された財産からの収益を受け取る権利(収益受益権)と、信託が終了したときに元本である財産の返還を受ける権利(元本受益権)の2つの権利を言う。
 信託受益権の譲渡とは、収益受益権と元本受益権の2つの信託受益権を売り払うことをいうのである。つまりそれは所有権移転の売買と実態は全く変わらないものである。
 不動産にあっては、信託受益権の譲渡の価格は、その不動産が生み出す収益を前提にして価格が算出されるのであるから、まさに収益あっての価格である。
 価格あっての価格では無い。
 元本の価値とは収益の現在価値であることから、いずれにしても賃貸収益が絶対必要要件である。

 SPCという会社設立によって、信託受益権による不動産の売買が、ナイガイという企業が行ったごとく、企業の不動産譲渡に極く自然に何の抵抗も無く使用されだしてきた。
 賃料収入が期待出来る不動産にあっては、この種の取引が今後多く行われるであろう。

 ナイガイは手放した2つの倉庫を、2つのSPCから賃借する契約を結んで、倉庫をそのまま自社で使用する。いわゆるセールス・アンド・リースバックである。

 日本にも「信託銀行」は前からあった。しかし、賃料収益が資産を形成・担保するものと考え、「信託」を手段にした不動産の譲渡・流動化の商売を行うという発想と行動は出てこなかった。
 アメリカの投資銀行に教えられてか真似してか、現在は信託銀行の中心業務の一つになろうとしている。
 しかし、高学歴でプライドが高く優秀な人々が多くいた金融集団でありながら、アメリカの投資銀行に教えられ、或いは真似しなければその業務が何故出来なかったのか。残念でもあり不思議なことである。

 なお、SPCに関する記事の鑑定コラムは、次のものがあります。
    鑑定コラム30) 「熱海ビーチラインの証券化」

 倉庫に関する記事の鑑定コラムは、次のものがあります。

    鑑定コラム157) 「大型倉庫の粗利回りは11%」
    鑑定コラム164) 「物流会社の譲渡価格と投下資本利回り」
    鑑定コラム170) 「大王製紙の物流センター建設」
    鑑定コラム188) 「大黒埠頭の道路」

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