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230)花王の340億円の企業買収

 花王が、英国の高級化粧品会社モルトン・ブラウンを340億円で買収した。(2005年7月16日 花王HPプレスリリース)

 モルトン・ブラウンという会社がどんな会社で、どんな化粧品を作っているのか、著名なブランド品を持つ会社なのか私は知らない。

 花王のホームページによれば、モルトン・ブラウン社は1973年ロンドンで創業され、その製品は英国、米国、日本の有名デパートで販売されているという。また世界各国の一流ホテルに、モルトン・ブラウン製品を室内アメニティとして供給しているという。

 2004年の年間売上高は87億円で、年間2桁の売上高の伸び率を示しており、2005年は110億円という。

 モルトン・ブラウン社の売上高は公表されたが、営業利益、営業利益率は発表されていない。
 2桁の売上高伸び率をしている会社とはいえ、年間売上高は87億円の企業である。それを340億円と売上高の3.9倍(340億円÷87億円=3.9)で購入するとは、随分と思い切った経営判断である。

 モルトン・ブラウン社は営業利益が48億円位あり、営業利益率が55%位の超優良会社であるのだろうか。

 87億円の売上高を得るには、製造原価、販売管理費というものが必要である。 花王の2005年3月の決算でいえば、

        売上高       694,655百万円
      売上原価      281,953百万円
         販売管理費          314,688百万円
         営業利益            98,013百万円
である。
 営業利益率は、
      98,013百万円÷694,655百万円=0.141
である。
 原価・販売管理費は、
      1−0.141 = 0.859≒0.86
であり、売上高の86%を占める。

 花王の経営データでモルトン・ブラウン社の経営数値を推定すれば、原価・販売管理費は、
      87億円×0.86≒74.8億円
であり、営業利益は、
      87億円×0.141≒12.2億円
ということになる。

 花王とて日本の企業の中で優秀な企業の一つである。利益率が劣る企業では決してない。
  
 モルトン・ブラウン社の経営内容は、花王とは全く異なり、48億円の利益があるというのであれば、それでよいが、購入する企業の花王のデータから推定すればモルトン・ブラウン社の営業利益は12.2億円でしかない。

 この会社を340億円で購入するのである。
 投下資本利益率は、
      12.2億円÷340億円≒0.036
3.6%である。
 売上高で考えれば、売上高の3.9倍の買収価格である。

 こんな高い価格で企業買収すれば、購入会社はまずぶっつぶれてしまう。企業経営は成り立たない。企業維持してゆくには親企業の持ち出しも甚だしい状態になる。

 投下資本を回収するには、
      1/0.036≒28
28年を必要とする。

 商品の移り変わりの激しい時に、投下資本の回収に28年を要する企業買収など考えられない。
 企業が企業買収を行う時の投下資本の回収期間は、今迄の当鑑定の多くない企業買収の分析結果から見ると、7年程度の期間である。
      1/7≒0.143
14.3%の利益率である。この14.3%の割合は、奇しくも花王の営業利益率にほぼ一致する数値である。

 花王の営業利益は980億円あり、買収価格340億円は、営業利益で充分まかなえる金額であり、花王という企業がぶっつぶれるということはあり得ない。
 ただ、株主に対しては充分な説明が必要である。

 花王の英国化粧品会社の買収金額は、不動産鑑定評価の立場の私の目から見れば、甚だ高い金額である。

 どうして花王はその様な高額な金額を出してまでモルトン・ブラウン社を購入しょうとしたのであろうか。それには必ず大きな理由があるはずである。
 そうでなかったら、その様なことを経営者は決して行わない。
 それは、花王の新しい経営戦略の事業展開が決まったからと考えれば理解出来るのでは無かろうか。
 即ち、花王は化粧品をこれからの新しい経営事業の一つの柱として育てると決定し、その具体的行動に出たのである。

 花王の連結決算の売上高は9368億円(2004年)であり、そのうち化粧品事業の売上高は782億円で、全体に占める化粧品の割合は、
      782億円÷9368億円=8.3%
である。

 日本の化粧品会社の雄である資生堂の連結売上高は6398億円(2005年3月)で、そのうち化粧品事業の売上高は5047億円である。

 花王は782億円であるから、資生堂の化粧品の売上高に対して、
      782億円÷5047億円=15.5%
である。花王にとってこの売上高の差は悔しいことであろう。

 一方、日本で資生堂と化粧品の世界で覇を争っていたカネボウは、実質倒産して事業部門分割されることになるが、その中で最も企業価値が有り、優良な事業部門はカネボウ化粧品である。このことは何を意味するかと云えば、化粧品事業部門は今後も成長が期待されるということを事実として教えてくれている。

 花王にとって現在の自社製品と化粧品とは甚だ近い関係にあり、事業の垣根は低い。
 こうしたことを考えると、化粧品部門に経営進出したいという花王の経営陣の考え方はよく理解できる。

 花王は、化粧品事業を今後の経営事業の一つの柱とするために、今回高い価格に目をつぶり高級ブランドを持つモルトン・ブラウン社の購入に踏み切ったのでは無かろうかと私には判断される。化粧品には特に「高級感」が要求される。その「高級感」をもモルトン・ブラウン社製品で一挙に取得しょうとしたのでは無かろうか。

 花王の企業経営者にとって、モルトン・ブラウン社の買収の決断には、相当の勇気がいったものと思われる。しかし、企業にとって経営上どうしても事業拡大に企業買収が必要と思われる時には、今回の様な決断は必要であろう。
 とはいえ、買収価格はやはりいささか高すぎると思われるが。

 なお、花王の創業者である長瀬富郎について、当鑑定コラム80)「中津川市周辺町村の合併」に少し書いてある。


 上記に記した鑑定コラムは、下記をクリックすれば見られます。

 鑑定コラム  80) 「中津川市周辺町村の合併」

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