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241)不動産鑑定評価基準とは

 「不動産鑑定評価基準とはどういうものか。」
と訴訟の家賃評価で知り合ったある弁護士から電話で問い合わせがあった。
 こうした質問を弁護士から受けたのは2度目である。

 「不動産鑑定評価を行う時の評価の基準となるものです。」
と当たり前のことを答えた。
 そうしたら、
 「それは分かっている。
  不動産鑑定評価基準は法律なのか何なんだ。
  その法的効力はどうなんだ。」
と再質問してきた。

 「不動産鑑定評価基準は法律ではない。国土交通省の事務次官通知です。」
と答えた。
 「ならば法律効力は無いのか。」
と弁護士は言う。

 「いや、鑑定評価基準違反をすると不当鑑定で懲戒処分されることから、法律効力は有ります。」
 「法律効力が有るとするならば、事務次官通知とはいえ、その通知を出すことを認めている法律が有るはずだが、その通知を出すことを明記する不動産鑑定の法律はなんという法律なのだ。」
と更に弁護士は質問の追い打ちを掛けてくる。

 国土交通省の事務次官が、不動産鑑定評価について次官通知を出すことを明記する法律など私は知らないから、
 「不動産鑑定評価の監督官庁の担当課は国土交通省の地価調査課であるから、そちらに聞いて欲しい。私にはそのことについては分からない。」
と電話を切った。

 鑑定基準、鑑定基準と言いながら、いつも使っており、それは鑑定評価の基準とするもので有ると思っているが、考えてみると、それがどういうもので法律的にどんな性質のものなのかという知識に自らが甚だ疎いのに気づいた。

 現行の不動産鑑定評価基準を見てみると、「不動産鑑定評価基準とは」どういうものなのかの定義付けが無い。

 法律では、まず最初に当該法律の目的と使用用語の定義とその説明が必ずなされる。

 現行鑑定評価基準は総論と各論に分かれる。
 総論は9章、各論は2章で成り立っている。

 総論第1章は「不動産の鑑定評価に関する基本的考察」であり、そこのまえがきに、本来は有るべき「不動産鑑定評価基準とは」どういうものかの説明がない。
 そして、同基準の目的は何なのかの記載もない。

 記載してあるのは、不動産鑑定評価について「不動産鑑定士は十分理解し、体得しなければならない。」と書いて有るのみである。

 十分理解し、体得しなければならない不動産鑑定評価とは何を意味するのかの用語の定義も無い。
 目的・定義をすっ飛ばして、のっけから「十分理解し、体得しなければならない」という。
 定義のないものをどの様にして十分理解し、体得するのかという疑問が湧いてくる。

 これらを読むと、
 「一体、不動産鑑定評価とは何なのか。
 不動産鑑定評価基準とは何なのか。」
という疑問が生じるのは当然であろう。

 法律では無いから、そんなことなど必要ないという人がいるであろうが、法律にほぼ同じ法的効力を不動産鑑定評価基準は持っているのである。
 不動産鑑定評価基準とは何なのかという定義、目的をはっきりと同基準の最初に記述すべきでは無かろうか。
 そして不動産鑑定評価とはどういうことをいうのかも定義づけすべきであろう。

 法律にほぼ同じ法的効力を不動産鑑定評価基準は持っていると前述したが、平成14年7月3日付国土地第83号の3の国土交通事務次官の通知「不動産鑑定評価基準の改正について」で、次官通知は甚だ怖いことを、鑑定協会を通じて不動産鑑定士に通知している。

 その次官通知をあたかも自分が保存しているごとく聞こえるが、そうではない。
 鑑定協会からの書類は目を通すが、基準の改正の通知と軽く考えて私は廃棄していた。

 今回、不動産鑑定評価基準とは何だと考えるについて、旧建設省出身の知り合いの不動産鑑定士に問い合わせたところ、上記次官通知を送信してくれたのである。さすがに役所出身の方は書類の重要性を認知している。保管されていた。
 自分自身のお粗末さをさらけ出した様なものである。

 その怖い次官通知の個所を抜粋して転記すると次のごとくである。

 「不動産鑑定評価基準及び不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(以下「基準等という。)は、不動産鑑定士及び不動産鑑定士補が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的基準であるとともに、不動産の鑑定評価に関する法律(昭和38年7月16日法律第152号)第40条第1項及び第2項の規定に基づき不当な不動産鑑定評価についての懲戒処分を行う際の判断根拠となるものである。」と。

 上記引用の法律第40条は、不当な鑑定評価を行った時は、鑑定評価業務の停止、不動産鑑定士の登録の削除の条文である。1項は故意に不当鑑定を行った場合、2項は相当の注意を怠って不当鑑定を行った場合の処分を規定している。

 事務次官通知ではっきりと、不動産鑑定評価基準は、「法40条に基づき不当な不動産鑑定評価についての懲戒処分を行う際の判断根拠となるものである」と明言しているのである。「懲戒処分の判断根拠」になるものである。

 そして今年(2005年)の7月には不当鑑定についての処分基準となる「不当な鑑定評価等に係わる処分の考え方」を発表した。その発表の前にパブリックコメントを国民から求めて、充分周知させた上で処分基準を決めたのである。

 こうした一連の国交省の行動を見ると、不動産鑑定評価の不当鑑定に対しては厳しく対処しょうとする姿勢が伺われる。

 不動産鑑定評価基準は法律で無いから別に守らなくてもいいんだとうそぶいている人は、とんでも無い思い違いをしていると考え直した方が良いのでは無かろうか。

 不動産鑑定評価基準は、完全に法律にリンクしており、罰則規定を決めていない法律よりも怖い「評価基準」であると改めて認識する必要がある。


 不動産鑑定評価基準についての記事は、下記鑑定コラムにも有ります。
  鑑定コラム20) 「ある法廷にて」
  鑑定コラム68) 「賃料と改正鑑定基準」

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