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2438) 借地権付建物賃料基礎価格についての2022年実務修習テキストの記述

 鑑定コラム2430)「ある借地権付建物の賃料評価の鑑定書」で、借地権付建物の賃料の基礎価格についての記事を書いた。

 私は、借地権付建物でも、所有権土地建物と賃料は同じであるから、借地権付建物の賃料の基礎価格は、所有権土地建物の価格であると思っているが、借地権付建物価格が基礎価格と思い込んでいる不動産鑑定士が結構いる。

 思い込んでいるのは本人の自由であり結構であるが、その思い込みが不勉強によっている場合は止めて欲しい。不勉強の思い込みに拠って、賃料裁判に混乱を招くことは止めて欲しい。

 借地権付建物の賃料の基礎価格について、不動産鑑定士試験合格者が不動産鑑定士になるために受けなければならない実務修習のテキストの記述はどうなっているか見て見る。

 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会が著作発行している2022年度の実務修習のテキストである『実務修習・指導要領テキスト』P350は、下記のごとく記述する。

「(2)借地権付建物の場合

 借地権付建物の基礎価格については、現況どおりに借地権付建物としての価格を基礎価格とする考え方のほかに、当該不動産の自用の建物及びその敷地としての価格を基礎価格とする考え方も実務上存在する。

 自用の建物及びその敷地としての価格を基礎価格とする考え方は、借地権、所有権といった敷地の利用権原の違いは家賃形成に影響を及ぼすものではなく、家賃はあくまで、賃貸部分の需給関係において決まるものであることから、これらを区別する必要はないとすることや、賃借人側としては、自用地上の建物を賃借する場合と何ら変わりない効用を享受できるのであるから、基礎価格を「自用の建物及びその敷地」価格としても差し支えないとすること等が論拠となっている。

 いずれの考え方に基づいて基礎価格を査定する場合においても、査定の根拠について、十分な説明責任を果たすことが求められる点に留意しなければならない。

 また、基礎価格の相違によって、期待利回り、必要諸経費等の計上内容が異なるが、求められる積算賃料は同じとなることに留意しなければならない。
(2022年度(第16回)実務修習『実務修習・指導要領テキスト』P350 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会2021年11月1日発行)

 連合会発行の実務修習テキストは、

     @借地権付建物価格が基礎価格
     A自用の建物及びその敷地が基礎価格
と両論併記である。

 そしていずれの考え方に基づいても、「査定の根拠について、十分な説明責任を果たすことが求められる点に留意しなければならない。」と根拠の説明は必要と記述する。

 そして「また書き」がつく。これが決定的に、借地権付建物価格基礎価格論の敗北の引き金になる。

 「また書き」は、下記である。

 「また、基礎価格の相違によって、期待利回り、必要諸経費等の計上内容が異なるが、求められる積算賃料は同じとなることに留意しなければならない。」

 「また書き」の後半部分の「求められる積算賃料は同じとなる」の記述である。

 基礎価格を借地権付建物価格にしても、自用の建物及びその敷地の価格にしても、2つの基礎価格で求められた積算賃料は「同じとなる」と云い切っている。同じである事は、ずっと昔からの事実であり、当り前のことであるが。

 同じとなると分かるには、借地権付建物価格を基礎価格にして賃料を求めた場合、自用の建物及びその敷地の価格を基礎価格にして賃料を求めないと、同じ賃料になっているか分からない。

 ということは、借地権付建物価格を基礎価格にして賃料を求めた場合、自用の建物及びその敷地の価格を基礎価格にした場合の賃料を求め、両賃料は同じであるから、借地権付建物価格を基礎価格にした新規賃料は適正であると証明しなければならない。

 その証明がなされていない場合、借地権付建物価格を基礎価格にして賃料を求めた新規賃料は、適正かどうか分からないから、信頼性が無く、求められている新規賃料は失当であるという批判がなされる。

 積算賃料を求めるのに、わざわざ上記2つの積算賃料を求めることを、一般の不動産鑑定士は行うのであろうか。行わないであろう。

 新規賃料は、積算賃料と比準賃料の2つの賃料から求めなければならない。積算賃料だけではダメである。

 となると、信頼性が無いと批判される借地権付建物を基礎価格にした積算賃料で無く、借地上の貸ビルの賃料も所有土地上の貸ビルの賃料も同じであるからという説明をつけて、自用の建物及びその敷地の価格を基礎にして求めた積算賃料を求め、賃貸事例比較法からの比準賃料とで、新規賃料を決定するであろう。

 借地権付建物価格を基礎価格にした積算賃料を求めた場合、その一つで新規賃料を決定するのでは無く、比準賃料も求めなければならない。

 その比準賃料の賃貸事例は、借地権付建物の賃貸事例で無ければならない。所有地上の賃貸事例を採用した場合、それは事例の類似性で失当となる。所有地上の賃貸事例を採用すると云うことは、借地権付建物の賃料と所有地上の建物賃料は同じということを、既に自身認めていることになる。自己矛盾の行為となる。

 1999(平成11)年版の実務補習(その頃は「実務補習」と呼んでいた)のテキストでは、借地権付建物の賃料の基礎価格は、下記のごとくであった。

 「建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格」を基礎価格と記述する。
(平成11年度 第35回実務補習第2期テキスト その4 「積算法・賃貸事例比較法・収益分析法」P3 社団法人日本不動産鑑定協会研究指導委員会)

   「建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格」とは、借地権付建物価格であり、その価格が基礎価格であるとしていた。
 

  鑑定コラム2430)
「ある借地権付建物の賃料評価の鑑定書」

  鑑定コラム133)「借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか」

  鑑定コラム2440) 「借地権付建物の賃料を求める基礎価格についての考え方の推移」



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