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133)借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか

 最近、目を白黒させるどころか、頭をかかえてしまう不動産鑑定書に出くわした。

 借地上に建つ貸ビルの賃料が、所有地上に建つ貸ビルの賃料より安いという賃料鑑定書にお目にかかった。

 裁判所の鑑定人不動産鑑定士による鑑定書である。
 裁判所が鑑定人として選定し、鑑定依頼した鑑定人の書いた不動産鑑定書は、裁判官が判決文を書くときの第一級の証拠資料になる性格のものである。

 その裁判所選任の鑑定人不動産鑑定士は、借地権付貸ビルであるといって、賃料の基礎価格を、更地価格に借地権価格割合80%を乗じた借地権価格とし、建物は積算価格を基礎として、積算賃料を求めて、それが正常賃料であると評価する。

 この他に鑑定人は比準賃料を求めていたが、その求め方は、周辺貸ビルの賃料の支払賃料に、敷金運用益、礼金償却益を加えたものを実質賃料として、比準賃料を求めている。

 共益費が抜けている。共益費は実質賃料を構成する重要な構成要因である。その共益費を無視しては、本来実質賃料とはいえないが、にもかかわらずその様な賃料を実質賃料としている。

 共益費は支払賃料の15%程度の金額水準にあることから、これが抜けていることは、鑑定人が実質賃料と称する賃料は15%安の賃料となる。これより比較した比準賃料は15%安と求められることになる。

 加えて、選択した賃料事例は、所有地ビルの賃貸事例である。
 対象地ビルは借地上のビルであるといって、借地権価格を基礎価格にして求めるのが正しいと主張しておきながら、賃貸事例比較法では所有地ビルの賃貸事例を使用している。
 論理の破綻をきたしている。

 裁判所の鑑定人の本件の正常賃料の求め方は、根本的に間違っている。
 借地権上の貸ビルであっても、基礎価格は所有権土地上の貸ビルとして求めるのが正しい求め方である。
 地代は必要諸経費で計上される。固定資産税より当然高いが、それは借地権付貸ビルの宿命である。修繕費が余分にかかる貸ビルと同じように考えればよい。

 私は、本件鑑定人の求め方では、極論すれば賃料は15%程度安く求められてしまい、「適正な賃料ではない」と、誤りを指摘した。

 すると、「鑑定人の求め方が正しい求め方である」と、別の不動産鑑定士が鑑定人の考え方を弁護する書面が提出されてきた。

 「田原不動産鑑定士の考え方こそ間違っている」といって、不動産鑑定士補が、不動産鑑定士3次試験の受験資格を得るために受ける鑑定評価実務講習に使用されているテキストの継続賃料の求め方の中のページを引用して証拠提出してきた。

 不動産鑑定士補の実務講習テキストには、信じがたいことであるが、借地上の貸ビルの賃料を求める場合、借地権を基礎価格にして求めると書いてあった。

 これには私は驚いてしまった。

 誰がテキストを書いたのか、誰が実務講習の講師になって継続賃料の講義を行っているのかしらないが、頭の柔らかい、若い不動産鑑定士補に、こんな間違ったことを教えてもらっては困る。
 社団法人日本不動産鑑定協会の研修担当部は、賃料の求め方を本当に知っているのかと疑いたくなる。

 「基礎価格」とはどういうものか、はっきりとわかっているのかといいたい。
 賃料評価に何故「基礎価格」という概念があるのか。
 価格評価にはその様な概念はない。賃料評価にのみ、それがある。それは何故か。

 裁判所へ、社団法人日本不動産鑑定協会の3次試験の実務講習の正式なテキストに載っているとして、証拠提出されては、賃料の求め方など全くといっていい程知らない裁判官は、専門家が云うのであれば、その求め方が正しい求め方と認識し、それに従って求められた賃料が適正であると判断して、判決文を書いてしまう。誤った判決を行ってしまう。

 個人の単なる意見として主張するのであれば、それは違うよと忠告程度で終えるが、社団法人日本不動産鑑定協会の考えが正しく、田原などの考えなど間違っていると云わんばかりに、公開の法廷に鑑定協会の間違っている考え方が、あたかも正しいと言うごとく証拠資料として出されて来るとなれば、それは看過する事は出来ない。

 それは専門家の判断に頼っている裁判官に、誤った情報を与え、誤った判決を行う可能性が大であり、その結果は社会に対する影響が甚だ大きいからである。

 たとえ社団法人日本不動産鑑定協会の3次試験実務研修テキストに記載されていても、それは間違いであると、猛反撃せざるを得ない。

 借地上の貸ビルの賃料は、所有地上の貸ビルの賃料よりも安いと主張する不動産鑑定士に対して、借地上の貸ビルと所有地上の貸ビルの賃料に差があって、仲介、募集されているのか。あるいは契約されているビル賃料があるのか証拠としてそれらを提出せよと反論の書面を、代理人弁護士を通じて裁判所に提出した。

 私の依頼者は、貸ビル業を専門とする不動産業者であったが、その代表者も、鑑定人不動産鑑定士及びそれに同調する不動産鑑定士に対して、カンカンになって怒ってしまった。鑑定協会はそんなことを未来の不動産鑑定士に教えているのと笑われてしまった。

 代表者は長く、貸ビルを持ち、自らもビル貸室の仲介も行っているが、借地の上の貸ビルと所有地上の貸ビルの賃料と違った例など見たことも聞いたことも無いという。

 私だって無いと云ったが、不動産鑑定士は一体、不動産の実際を知っているのかと不動産鑑定士に対して激しい不信感を持ってしまった。

 借地上の貸ビルの賃料が、所有地上の貸ビルの賃料より安ければ、それは顧客募集において強い武器になるハズであるから、募集賃料のチラシには必ず「借地の上のビルですから20%賃料は安いです」という類の言葉が載るハズである。その様なチラシなど見たこともない。

 私は反論書の中で、「社団法人東京ビルヂング協会に問い合わせて、そのビル協会から借地上の貸ビルの賃料は所有地上の貸ビル賃料より安いのがビル賃料として一般的であるという正式な書面を作ってもらって裁判所に提出せよ」と、相手方にぶっつけた。

 借地上の貸ビルの賃料と、所有地上の貸ビルの賃料の間には差などない。

 社団法人日本不動産鑑定協会も、3次試験の実務講習の継続賃料のテキストに、実務を全く知らない人が書いた人と思われるような間違った求め方など書いて指導しないでいただきたい。早急に、その部分は削除して欲しい。
 同じ鑑定協会の不動産鑑定士として情けなくなる。


(2003年12月1日追記)
 本メルマガについて、社団法人日本不動産鑑定協会の横須賀博会長が、国土交通省から委託を受けて鑑定協会の行っている3次試験実務研修の使用テキストについて、早速調査され、回答をいただきました。
 私の指摘の事実を認められ、「(2003年)12月2日から始まる第39回の実務補習の講義の際には、この分について注意するように指示したことを報告する」という報告を頂きました。
 賃料の評価について造詣の深い横須賀会長ならではの手際よい処置に感謝します。


  鑑定コラム639)「借地権付建物の基礎価格」

  鑑定コラム633)「実務修習の継続賃料の求め方は間違っている」

  鑑定コラム134)「鑑定協会会長の迅速な対応に感謝する」


  鑑定コラム137)「平成15年不動産鑑定士3次試験問題」

  鑑定コラム967)「差額地代からの借地権価格)」

  鑑定コラム1061)建付減価40%をした基礎価格?

  鑑定コラム1710)「こりゃ あかん 実務修習の継続賃料の章を考え直した方が良い」

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  鑑定コラム2245「建物等取壊費用の積立金」は償還基金率で求めるべきではないのか」

  鑑定コラム2290「まだ、借地権付建物価格を基礎価格にする不動産鑑定士がいる」

  鑑定コラム2438) 「借地権付建物賃料基礎価格についての2022年実務修習テキストの記述」

  鑑定コラム2440) 「借地権付建物の賃料を求める基礎価格についての考え方の推移」

  鑑定コラム2546)「2021年版実務修習テキストの賃料積算法の期待利回りの記述は即刻修正を」


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