○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

2478) 少し考え直すべきでは無いか 世田谷区住宅地地価公示価格

1.はじめに

 平成30年より地価公示価格の鑑定書が公開される様になった。公開された地価公示価格の鑑定書より比準価格と収益価格の関係を分析する。

 採用する地価公示価格は、令和4年の世田谷区の住宅地の地価公示価格とする。公示価格鑑定書は同一公示地点を二人の不動産鑑定士が評価していることから、AとB2つの鑑定書があるが、先にあるA鑑定書の比準価格と収益価格とする。

 求められている比準価格、収益価格は、不動産鑑定評価の専門家である不動産鑑定士が求めたものであるから、適正な価格であるものとする。

 千代田区商業地の地価公示の比準価格と収益価格との関係を、鑑定コラム2459)で行っている。

 その分析と同じであるため、求め方等の説明は、出来るだけ重複を避けるが、始めて本コラムを読む人もいることもあり、必要な個所は最小限の記述とする。詳細を知りたい時は、鑑定コラム2459)の当該部分を読んでいただきたい。

2.3つの価格の等価性

 不動産鑑定評価は、不動産が具有するそれぞれの面からの分析価格として、コストの面より積算価格、市場性の面より比準価格、収益性の面より収益価格の価格がある。

 そして、3つの価格は理論上は一致すると云われている。

@ 門脇惇説

 3つの価格の等価性については、門脇惇氏は、著書『不動産鑑定評価要説』P120(税務経理協会、昭和46年)で次のごとく述べられている。

  「3試算価格は、それぞれ、効用に見合う面、造る費用を償う面、一般に認められてその価格で取引される面、すなわち価格の三面性に照応するものであり、市場で揉まれ、淘汰されて、一つの正常価格に帰一するものであると解すべきこと。」

A 武田公夫説

 また武田公夫氏は、著書『不動産評価の知識』P133(日本経済新聞社、1993年)で、次のごとく述べられている。

  「各方式の適用によって求められた試算価格または試算賃料は、理論的には一致するはず」

と3価格の理論的一致を認める。

 実際には一致しないが、それは「資料不足など」によるのが原因でありと述べられる。

 既成市街地では、原価法の適用は困難であるため行われない。その為、積算価格は求めなく、比準価格、収益価格が求められる。

 門脇、武田両氏の説に従えば、比準価格、収益価格は、理論上は一致することになる。

3.不動産鑑定士実務修習テキストの比準価格と収益価格

 最新の2022年版第16回実務修習の「実務修習・指導要領テキスト」(編集公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 2021年11月1日発行)に、土地面積605.75uの更地を例にした更地の鑑定評価書が掲載されている。

 P49に、例題による試算価格が記されている。

     比準価格   495,000円/u
          収益価格   457,000円/u
である。

 収益価格の金額を1.0とすると、比準価格の割合は、
                 495,000円
             ────────= 1.083                               
                 457,000円
1.083である。

 比準価格と収益価格の開差は約8%で、比準価格が収益価格よりも高い。

4.公示価格鑑定書に見る比準価格と収益価格の関係

 令和4年地価公示価格の世田谷区の住宅地の鑑定書の中に記されている比準価格と収益価格を抜き出し、比準価格/収益価格の割合を求める。

 例えば世田谷−1のA鑑定書の比準価格、収益価格は、下記である。
      比準価格       593,000円
      収益価格      336,000円
   世田谷−1の比準価格/収益価格の割合を求めると、
              593,000円
            ────────  = 1.765                             
              336,000円
1.765である。

 同様にして、世田谷区住宅地公示地103件を分析したのが、下記一覧表である。


番号 所在 比準価格 円/u 収益価格 円/u 比準価格/収益価格
世田谷−1 東京都世田谷区桜上水5丁目480番12  593000 336000 1.765
世田谷−2 東京都世田谷区等々力5丁目33番15  762000 449000 1.697
世田谷−3 東京都世田谷区上馬1丁目595番2 643000 406000 1.584
世田谷−4 東京都世田谷区南烏山2丁目496番15  617000 359000 1.719
世田谷−5 東京都世田谷区大原1丁目1060番23  749000 451000 1.661
世田谷−6 東京都世田谷区上野毛4丁目306番7 686000 344000 1.994
世田谷−8 東京都世田谷区東玉川1丁目67番10  641000 332000 1.931
世田谷−9 東京都世田谷区奥沢3丁目300番3 775000 402000 1.928
世田谷−10 東京都世田谷区喜多見9丁目1580番2 389000 204000 1.907
世田谷−11 東京都世田谷区新町1丁目66番8 667000 359000 1.858
世田谷−12 東京都世田谷区用賀4丁目326番2 807000 524000 1.540
世田谷−14 東京都世田谷区鎌田2丁目235番42  344000 146000 2.356
世田谷−15 東京都世田谷区赤堤5丁目484番42  615000 403000 1.526
世田谷−16 東京都世田谷区成城6丁目819番4 892000 370000 2.411
世田谷−17 東京都世田谷区上祖師谷5丁目1031番22  450000 251000 1.793
世田谷−18 東京都世田谷区上馬4丁目34番10  706000 388000 1.820
世田谷−19 東京都世田谷区喜多見4丁目4157番6  310000 139000 2.230
世田谷−20 東京都世田谷区瀬田4丁目334番17外 677000 345000 1.962
世田谷−21 東京都世田谷区宇奈根2丁目230番8 297000 150000 1.980
世田谷−22 東京都世田谷区祖師谷1丁目138番13  614000 411000 1.494
世田谷−23 東京都世田谷区代田2丁目668番165  788000 397000 1.985
世田谷−24 東京都世田谷区奥沢7丁目101番2 865000 542000 1.596
世田谷−25 東京都世田谷区弦巻5丁目616番19  643000 434000 1.482
世田谷−28 東京都世田谷区等々力1丁目79番12  706000 396000 1.783
世田谷−29 東京都世田谷区桜丘3丁目2711番26  575000 318000 1.808
世田谷−30 東京都世田谷区北沢1丁目501番3 839000 421000 1.993
世田谷−31 東京都世田谷区岡本1丁目1274番1外 492000 239000 2.059
世田谷−32 東京都世田谷区太子堂2丁目356番45  823000 469000 1.755
世田谷−33 東京都世田谷区赤堤2丁目1136番33  715000 403000 1.774
世田谷−34 東京都世田谷区梅丘2丁目1363番11  628000 333000 1.886
世田谷−35 東京都世田谷区砧8丁目62番9 671000 349000 1.923
世田谷−36 東京都世田谷区深沢1丁目30番22  739000 365000 2.025
世田谷−37 東京都世田谷区代沢2丁目1番10  884000 420000 2.105
世田谷−38 東京都世田谷区玉川4丁目139番32  713000 293000 2.433
世田谷−39 東京都世田谷区成城2丁目208番18  701000 388000 1.807
世田谷−40 東京都世田谷区上祖師谷1丁目439番7外 524000 230000 2.278
世田谷−41 東京都世田谷区喜多見1丁目4017番10  282000 136000 2.074
世田谷−42 東京都世田谷区祖師谷5丁目583番63  420000 172000 2.442
世田谷−43 東京都世田谷区池尻2丁目132番2 800000 600000 1.333
世田谷−44 東京都世田谷区桜丘4丁目2824番35  588000 390000 1.508
世田谷−45 東京都世田谷区世田谷2丁目387番19  624000 357000 1.748
世田谷−46 東京都世田谷区代田1丁目381番14  711000 362000 1.964
世田谷−47 東京都世田谷区船橋6丁目22番5 515000 222000 2.320
世田谷−48 東京都世田谷区経堂2丁目244番39  691000 456000 1.515
世田谷−49 東京都世田谷区羽根木1丁目1655番23  632000 469000 1.348
世田谷−50 東京都世田谷区赤堤3丁目271番14  670000 346000 1.936
世田谷−51 東京都世田谷区松原5丁目422番3 638000 344000 1.855
世田谷−52 東京都世田谷区経堂5丁目899番27外 640000 383000 1.671
世田谷−53 東京都世田谷区代沢1丁目80番9 758000 401000 1.890
世田谷−54 東京都世田谷区宮坂1丁目2443番22  669000 321000 2.084
世田谷−55 東京都世田谷区弦巻1丁目15番28  687000 334000 2.057
世田谷−56 東京都世田谷区奥沢8丁目271番13  786000 356000 2.208
世田谷−57 東京都世田谷区大蔵5丁目2864番21  352000 204000 1.725
世田谷−58 東京都世田谷区野沢4丁目245番10  659000 483000 1.364
世田谷−59 東京都世田谷区新町3丁目324番12  789000 527000 1.497
世田谷−60 東京都世田谷区世田谷4丁目115番3 688000 427000 1.611
世田谷−61 東京都世田谷区中町2丁目45番43  678000 345000 1.965
世田谷−62 東京都世田谷区松原4丁目1075番7 626000 334000 1.874
世田谷−63 東京都世田谷区若林3丁目216番6 677000 414000 1.635
世田谷−64 東京都世田谷区野毛1丁目95番5外 552000 219000 2.521
世田谷−66 東京都世田谷区上用賀6丁目103番7 586000 290000 2.021
世田谷−67 東京都世田谷区下馬6丁目60番25  850000 428000 1.986
世田谷−68 東京都世田谷区三宿2丁目245番4 757000 439000 1.724
世田谷−69 東京都世田谷区経堂4丁目542番12  671000 334000 2.009
世田谷−70 東京都世田谷区下馬2丁目145番27  734000 454000 1.617
世田谷−71 東京都世田谷区宮坂3丁目2344番11  667000 349000 1.911
世田谷−72 東京都世田谷区三軒茶屋1丁目422番42  817000 421000 1.941
世田谷−73 東京都世田谷区深沢5丁目10番8外 646000 292000 2.212
世田谷−74 東京都世田谷区上野毛2丁目82番2外 711000 286000 2.486
世田谷−75 東京都世田谷区若林5丁目598番1内 665000 416000 1.599
世田谷−76 東京都世田谷区給田2丁目344番13  431000 199000 2.166
世田谷−77 東京都世田谷区北烏山7丁目2224番7 386000 229000 1.686
世田谷−78 東京都世田谷区粕谷3丁目5番15  453000 285000 1.589
世田谷−79 東京都世田谷区用賀1丁目6番4 731000 358000 2.042
世田谷−80 東京都世田谷区松原1丁目123番48  670000 386000 1.736
世田谷−81 東京都世田谷区若林2丁目465番6  702000 471000 1.490
世田谷−82 東京都世田谷区上野毛1丁目62番10内 774000 390000 1.985
世田谷−83 東京都世田谷区桜2丁目586番3 602000 378000 1.593
世田谷−84 東京都世田谷区上馬5丁目9番34  678000 389000 1.743
世田谷−85 東京都世田谷区桜上水1丁目101番20  543000 277000 1.960
世田谷−86 東京都世田谷区北烏山9丁目2023番19  412000 227000 1.815
世田谷−87 東京都世田谷区砧1丁目347番80  492000 217000 2.267
世田谷−88 東京都世田谷区上北沢3丁目877番30内 606000 313000 1.936
世田谷−89 東京都世田谷区成城8丁目549番4 666000 290000 2.297
世田谷−90 東京都世田谷区奥沢5丁目140番 943000 572000 1.649
世田谷−91 東京都世田谷区千歳台5丁目517番5 435000 173000 2.514
世田谷−92 東京都世田谷区粕谷2丁目189番19外 488000 248000 1.968
世田谷−93 東京都世田谷区下馬3丁目52番17  725000 538000 1.348
世田谷−94 東京都世田谷区北沢4丁目650番11  741000 408000 1.816
世田谷−95 東京都世田谷区瀬田1丁目949番3 760000 350000 2.171
世田谷−96 東京都世田谷区代田5丁目901番2 765000 396000 1.932
世田谷−97 東京都世田谷区船橋1丁目340番32  557000 341000 1.633
世田谷−98 東京都世田谷区深沢8丁目108番27  785000 397000 1.977
世田谷−99 東京都世田谷区上用賀1丁目14番17  693000 397000 1.746
世田谷−100 東京都世田谷区玉川田園調布2丁目728番2 726000 348000 2.086
世田谷−101 東京都世田谷区野沢3丁目118番8外 761000 388000 1.961
世田谷−102 東京都世田谷区鎌田4丁目22番28  338000 164000 2.061
世田谷−103 東京都世田谷区南烏山4丁目1093番5 566000 447000 1.266
世田谷−104 東京都世田谷区上祖師谷2丁目382番10  450000 215000 2.093
世田谷−105 東京都世田谷区砧4丁目257番1 599000 304000 1.970
世田谷−106 東京都世田谷区祖師谷6丁目713番14  397000 190000 2.089
世田谷−107 東京都世田谷区代沢5丁目1141番8 796000 538000 1.480
世田谷−108 東京都世田谷区玉川1丁目67番2 847000 459000 1.845
平均       1.878
標準偏差       0.280
変動係数       0.149


 世田谷区の住宅地103件の比準価格/収益価格の平均値等の分析結果は、下記である。
                平均値    1.878
                標準偏差     0.280
                変動係数     0.149

5.自然現象、人間の行為がからむ社会現象、経済現象等と正規分布

 自然現象、人間の行為がからむ社会現象、経済現象等の多くの現象は、分析すると、何故か正規分布に従うと統計学者は云う。

 データをとって分析すると事実その分布に多くがなる。何故そうなるのかは、はっきりと分かっていない。

 比準価格、収益価格も人間の行為に拠って求められた数値である。その数値より求められた倍率も人間の行為による現象の一つである事から、正規分布に従っていると判断する。

 正規分布のグラフは、平均値を中心にして、左右対称の釣り鐘の形をしたグラフである。グラフは千代田区商業地の比準価格と収益価格を分析した鑑定コラム2459)に記してあることから省略する。そちらで見て欲しい。

6.Z値1.0の出現率は68.26%

@ Z値

 正規分布のグラフは釣り鐘型の左右対称である。中心より右側のグラフで説明する。

 釣り鐘型のグラフ右側半分の面積に対して、グラフ右端の裾野の黒塗りの面積の占める割合(分布率)が、Z値と呼ばれる面積割合であり、それが出現確率分布率となる。

 データの平均をμ、標準偏差をσ、変数をXとすると、分布率Zは、
                         X−μ
                 Z=──────                                   
                           σ
で求められる。

A Z値1.0の分布率

 Z値1.0とは、正規分布グラフ右側半分では右端の0.1587の分布面積を云う。正規分布は左右対象であるから、左半分も同じくある。

 左右両方合わせて、
                 15.87%+15.87%=31.74%
31.74%以下あるということである。

 このことを逆に考えると、上記正規分布グラフの黒塗りの端でない白い部分の割合は、
         1−0.3174=0.6826
0.6826となる。白い部分の出現率は68.26%、約68%である。

 Z値1.0の値になる比準価格/収益価格の数値を求めるには、Z値を求める算式は、
                         X−μ
                 Z=──────                                   
                           σ
であるから、
             Zσ=X−μ
であり、この算式から、
               X=μ+Zσ
である。

 即ち、平均値+標準偏差×1.0 の算式から、Z値1.0になる数値が求められる。つまり平均値に標準偏差を加えれば求められる。

7.一般的に許容されるZ値の数値は1.96である

 世論調査、アンケート調査で有意水準ありとして統計学上許容されている調査数割合は5%である。片側グラフの分布率では、右端末端部の2.5%と云うことになる。

 上記正規分布表のZ値縦欄1.9の欄を右に向かい、1.96の個所の数値を見れば、0.0250とある。2.5%以上の分布が出るのはZ値1.96の値と云うことになる。

 1.96以内であれば2.5%以下にならない、つまり5%以下にならないことから、統計学上有意水準があるとされ、世論調査結果、アンケート調査結果について信頼性が保てると云うことになる。

 Z値1.96の値になる数値を求めるには、Z値を求める算式は、
                         X−μ
                 Z=──────                                   
                           σ
であるから、
             Zσ=X−μ
であり、この算式から、
               X=μ+Zσ
である。

 即ち、平均値+標準偏差×1.96 の算式から、Z値1.96になる数値が求められる。

8.世田谷区の住宅地の地価公示価格の適正な比準価格/収益価格の割合数値

@ 令和4年の東京都世田谷区の住宅地の地価公示の比準価格/収益価格の分析結果

 令和4年の東京都世田谷区の住宅地の地価公示の比準価格/収益価格の分析結果は、前述としたごとく、
                平均値   1.878
                標準偏差  0.280
  である。

A  出現率5%の比準価格/収益価格の価格割合

 比準価格/収益価格の割合の出現率5%を求める算式は、前記より、
             平均値+標準偏差×1.96
である。

 本件の場合、平均値は1.878、標準偏差は0.280であるから、出現率5%になる比準価格/収益価格の割合数値は、
      1.878+0.280×1.96=2.4268≒2.427
である。

 有意水準出現率5%以上の比準価格/収益価格の割合数値は、2.427以下の割合で無ければならないことになる。

 収益価格と比準価格とは理論的には一致すると云われる。一致すると云うことは、
       比準価格
           ──────  =1.0                                      
              収益価格
になることである。

 それゆえ、東京都世田谷区の住宅地の地価公示価格の信頼出来る比準価格/収益価格の割合数値は、
      1.0〜2.427
となる。

 (注)更地の価格で、比準価格を越える収益価格があってもよいと私は思うが、世田谷区の住宅地地価公示鑑定書においては、比準価格を越える収益価格の例は1件も無いことから、与えられたデータ分析からでは、1.0が最低の価格割合と云うことになる。

B 出現率68.26%の比準価格/収益価格の価格割合

 比準価格/収益価格の割合の出現率68.26%を求める算式は、前記より、
             平均値+標準偏差×1
である。

 本件の場合、平均値は1.878、標準偏差は0.280であるから、出現率68.26%になる比準価格/収益価格の割合数値は、
      1.878+0.280×1=2.158
である。

8.終わりに

@ 出現率5%以下のデータ

 鑑定評価で求める3つの価格は理論上一致すると云われるが、一致するのは理論上で有り、資料不足の要因も有り一致することは難しい。

 しかし、一致しないからと云って、3つの価格がかけ離れて存在しても良いと云うことにはならない。理論上一致すると云う原則からすれば、価格開差の程度には、合理的な限界があるハズである。

 その限界が、統計学の有意水準の5%であり、比準価格/収益価格の価格割合では、東京都世田谷区の住宅地では2.427以下である。

 上記世田谷区の住宅地地価公示価格103件のうち、比準価格/収益価格の価格割合が有意水準の出現率5%を切る公示地(比準価格/収益価格の価格割合では2.427を越える公示地)が、残念ながら5件ある。

 出現率5%以上あれば統計学上は有意水準があるとみなされる。そのデータは有効と判断される。それ以下の出現率のデータは否定される。

 土地価格評価の専門家で、統計学上否定される価格であるというごとくの土地価格を求めるべきでは無かろう。

A 出現率31.74%以下のデータ

 土地価格評価の専門家であるならば、有意水準5%以上の出現率で無く、出現率31.74%を切らない、逆に云えば
              100%−31.74%=68.26%
68.26%を越える出現率の土地価格を求めるべきであろう。その土地価格とは、10人中7人以上の不動産鑑定士が求める土地価格である。

 それは平均値に標準偏差を加えた数値であり、上記で比準価格/収益価格の価格割合では、2.158以下と分析されている。

 上記世田谷区の住宅地地価公示価格103件のうち、比準価格/収益価格の価格割合2.158〜2.427の公示価格が、残念であるが11件ある。

 103件の世田谷区住宅地の地価公示価格にあって、
  
                出現率   5.0%以下  5件
        出現率 31.74%以下   11件
         計               16件
もあるということは、地価公示価格の求め方を考え直すべきでは無かろうか。 本来はその様な出現率の価格があってはならないのである。

 それが存在することはおかしいのであるから、現在の地価公示価格の求め方を考え直すべきであろう。

B 分析結果の重要性の認識を

 比準価格/収益価格の価格割合で、同じ世田谷区内の住宅地の地価公示価格で、1.261の割合で地価公示価格を求める人がいる一方、2.521という大きな価格割合で地価公示価格を求める人もいる。

 不動産価格評価の専門家の集団で、上記のごとくの大きな割合数値が出現することはおかしいと思わないか。恥ずべき現象であると思わないか。

 比準価格/収益価格の価格割合の出現件数を、0.1台区分で示すと、下記である。
                1.2台      1件
        1.3台   4件
        1.4台   5件
        1.5台   9件
        1.6台   9件
        1.7台   12件
        1.8台   11件
        1.9台   23件
        2.0台   12件
                2.1台      3件
                2.2台      6件
                2.3台      2件
                2.4台      4件
                2.5台      2件
                計       103件
 縦軸に件数、横軸に割合を取って、グラフにすると、下図である。


世田谷区公示住宅地



 比準価格/収益価格の価格割合2.158或いは2.427を越える評価がなされるのは、価格の求め方に間違いがあるということを示している。

 比準価格で云えば、事例の選択に間違いがあるか、地域格差の比較に間違いがあると思われる。収益価格にあっては、想定賃料が低すぎるか、土地残余収益が少なすぎるか、還元利回りが高すぎることに原因していると思われる。

 比準価格と収益価格を求めるのは、求められた互いの価格の適正さを担保するためであり、かつ、決定価格である鑑定評価額の妥当性を担保するためである。

 比準価格と収益価格との間に大きな価格の開きが有っては、適正さを担保することが出来ず、何の為に2つの価格を求めているのか意味をなさなくなる。

 今迄、3つの価格は理論的には一致すると云うだけで、各価格の間の価格関係についての研究・調査が全くなされていなかった。

 3価格が一致しなくとも、開差の合理的水準はあるハズであるが、そのことが全く考えられず、検討されずに、長い間放置されて来た。

 資料としての信頼性が高いと判断される地価公示価格の鑑定書が公開されたことによって、3つの価格は理論的に一致しなくても、合理的開差の範囲は何処かの研究分析を行うことが出来るようになった。


  鑑定コラム2419)「新規賃料の積算賃料と比準賃料の賃料額の関係について」

  鑑定コラム2459)「千代田区商業地地価公示価格の鑑定書に見る比準価格/収益価格の関係」

  鑑定コラム2460)「中央区商業地地価公示価格の鑑定書に見る比準価格と収益価格の関係」

  鑑定コラム2461)「港区商業地地価公示価格の鑑定書に見る比準価格と収益価格の関係」

  鑑定コラム2467)「都心5区公示商業地の比準価格と収益価格の関係分析を終えて」

  鑑定コラム2469)「千代田・中央・港区住宅地地価公示価格の鑑定書に見る比準価格と収益価格の関係」

  鑑定コラム2471)「新宿区住宅地地価公示価格の鑑定書に見る比準価格と収益価格の関係」

  鑑定コラム2473)「渋谷区住宅地地価公示価格の鑑定書に見る比準価格と収益価格の関係」

  鑑定コラム2476)「都心5区公示住宅地の比準価格と収益価格の関係分析を終えて」


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ