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262)21億円のホテルの売買

 ダーウィンという不動産会社がある。
 投資用ワンルームマンションの販売、一括借り上げ事業、不動産プロパティマネジメントの会社である。インボイスの子会社である。

 そのダーウィン社がホテル事業も手がけていたが、本業の効率化と専業化を図るためにホテル事業を手放すことになった。(インボイスHPプレスリリース 2006年2月6日)

 ホテル事業の譲渡価格は21億円という。

 譲渡の方法は、会社分割によるものである。

 まず別会社を設立する。
 その設立した会社にホテル事業部門を譲渡する。
 そして即日同時に、そのホテル事業の譲渡を受けた会社の株式を、第三者の企業に売り払うという方法である。

 会社法の改正により、企業売買が大変やりやすくなった。
 企業売買の上記のやり方が、企業売買のやり方の主流になりつつある。

 その手続を行うのは企業の総務部であろうが、総務部の担当者は取締役会の決議から始まり、会社分割、譲渡のやり方をしっかりと身につけていないと、経営者から叱責されることになるかもしれない。
 登記まで一連の行為を行うことが出来るか否か、能力を問われることになろう。

 私は専門外のことで勿論その様なことは出来ないが、司法書士は登記の専門家であるから、それらのことは間違いなく行うことが出来、アドバイス出来るであろう。

 企業売買も登記が対抗要件であり、会社登記されなければ目的が達せられない。

 ダーウィン社のホテル事業部門を購入する会社は、ウォーレスという企業である。

 ダーウィン社の譲渡するホテル事業の決算期は、決算期の変更があって変則である。
 9ヶ月、9ヶ月の経営数値が発表されている。
 18ヶ月の数値を12ヶ月に換算すると次のごとくである。

       16年6月〜17年12月まで18ヶ月       1年間換算
 売上高             4,640百万円                3,093百万円
 売上総利益         2,432百万円                1,621百万円
 営業利益             197百万円                  131百万円

 粗利益率は、
     1,621百万円÷3,093百万円=0.524
である。

 営業利益率は、
     1.31億円÷30.93億円=0.042
4.2%である。この営業利益率は、妥当な割合なのかどうか。ホテル事業を取得購入した会社が、売上高を伸ばし、利益率を高められるかは、その会社の経営手腕である。

 売買価格は、売上高30.93億円のホテルを、21億円で売買するのである。
 売買価格21億円に対して、売上高30.93億円は1.47倍である。
 売上高30.93億円に対して、売買価格21億円は0.678である。

 売上高の7割弱の価格での売買価格ということになる。

 投下資本利益率は、
      1.31億円÷21億円=0.062
6.2%である。

 投下資本の回収は、
      1/0.062=16.1
16年での回収である。

 この年数を長いと見るか、妥当の年数と見るか。
 それを判断するには、企業売買の多くのデータを集め、分析し、経済人が合理的経済行為として取るであろう経済経験則を見つけ出さねばならない。

 投下資本の回収年もその一つである。
 資本投下する以上、その投下資本を回収することを考えない経営者、経済人はいない。どれ程の期間で投下資本を回収出来るか、必ずそれは考える。

 その投下資本の回収期間を、何の根拠もなく、「判断だ、意見だ」では説得力が全く無い。説得力を得るには、具体的実例のデータによる実証分析によるもので無ければならないであろう。

 投下資本の回収を早く行いたいのは、経済人として当然の考えであろう。
 しかし、利益追求に目が眩み、反社会的方法、コンプライアンスを無視した方法による投下資本の回収を行うべきでないことは、論を待たないことであろう。

 2006年2月12日の日本経済新聞は、さすがに企画力として目の付け所が早い。
 良い企画記事を書いている。
 それは、現在騒がれている東横インホテルの身体障害者用の特別条例に対する建築違反行為に対して、利用者にアンケート調査を行い、その調査結果を発表している記事である。

 「東横インを今後も利用したいか」という問いに対して、48.1%の人が「利用したくない」と答えている。

 その理由は、企業経営者の経営哲学に対する不快感によるものである。
 コンプライアンスの欠如を問題視している。

 ホテル経営にとって、この顧客利用者の反発は無視出来ないものである。
 逆に言えば、経営者の経営哲学、コンプライアンスへの姿勢をも、顧客利用者は口には出さないが、見ていると判断されるのである。

 不動産鑑定業を営む不動産鑑定士も、私自身も、他山の石とすべきと肝に銘じたい。

 東横インホテルの建築違反行為については、別途インターネットで検索して調べられたい。多くの記事がある。


 ホテルについては、次の鑑定コラムの記事があります。
  鑑定コラム 3)「ホテルの売買事例」
  鑑定コラム 44)「ホテルオークラ神戸の売買価格」
  鑑定コラム 85)「ホテルの経営配分利益割合」
  鑑定コラム 211)「ある都心一流ホテルの投下資本売上高倍率は0.43」
  鑑定コラム 218)「330億円のホテルの売買」
  鑑定コラム 266)「ホテルの稼働率77.4%」

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