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2900) まだ空室損失を必要諸経費に計上している不動産鑑定書が流通している


 最近(2025年7月)、賃料評価で、必要諸経費に空室損失を計上している不動産鑑定書にぶっかった。

 驚いたね。

 未だに空室損失を必要諸経費に計上して賃料鑑定書を発行し、鑑定評価依頼者より適正な鑑定評価ですと云って、それなりの鑑定料を貰っているとは。

 不動産鑑定評価基準もダブルスタンダードを止めて、必要諸経費の項目から、空室損失をきっぱりと外すべきであろう。

 地価公示地の鑑定評価の収益還元法では、平成22年から、それまで空室損失を費用項目に入れていたのを、収入項目に変更している。

 不動産鑑定評価基準の証券化不動産のDCF法では、空室損失は経費項目で無く、収益項目に入っている。

 同じ鑑定基準で、ダブルスタンダードである。

 どうして、本編の必要諸経費の項目に空室損失を残しているのか。鑑定評価を混乱させている事に痛痒を感じないのか。

 日本不動産鑑定士協会連合会の優柔不断の姿勢もいい加減にせよ。

 2021年9月に発行した著書『考論不動産鑑定評価』P320(プログレス)の考論第20章の「必要諸経費」の第1節「必要諸経費とは」の7項の「空室損失」では、空室損失について、下記のごとく記している。転載する。

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F 空室損失
 空室損失とは、空室による賃料の未収入による損失をいう。
 バブル経済崩壊後の経済の停滞に伴い、貸マンション、貸ビルには空室が多く発生している。
 東京の賃貸マンションでは空室の割合(空室率という)は8%程度、貸事務所ビルでは5%程度である。
 不動産賃貸の経営計画においては、満室の条件で賃貸収入を計画することは危険である。空室率を見込み、実現性の高い計画を立てる。その時の空室損失は、収入に対する見込みの修正であり、賃料収入の経費とは考えない。
 必要諸経費とは、賃料収入を得る為に賃貸目的の不動産が必要とする諸費用をいうのであり、空室損失を賃料収入を得るための諸費用とは考え難い。
 『鑑定基準』が空室損失を必要諸経費と認めていることは理解し難い。
 賃料改定にあっては賃貸借契約が存在している。その契約があるということは、空室は発生していなく、空室損失は生じていない。それ故、賃料改定の評価にあっては、空室損失の計上はあり得ない。
 反論として、他の階に空室が発生していることによる収入減を考えるべきであるという意見があるかもしれない。しかし、それは貸主のビル経営の問題であり、既契約の当該賃料には関係ない。逆に長期間の空室の存在は既契約の賃料改訂の時に、減額請求への方向に影響を与えるかもしれない。
 空室損失を必要諸経費とすると、積算賃料は、
     純賃料+必要諸経費=積算賃料
であるから、空室が増えれば増えるほど、賃料が高くなることになる。
 一般的には、空室が増えれば、空室を無くそうとして賃料を下げて入居者を獲得しようとする。
 不動産鑑定評価は、不動産取引の実態とかけ離れた状況が適正と云っていることになる。
 この鑑定評価の考えはおかしいであろう。
 空室損失は賃料の経費項目ではない。
 もし継続賃料の鑑定書に空室損失の金額が計上されていたら、それこそ「鑑定を知らない不動産鑑定士」と揶揄され相手にされなくなる。
 この空室損失について、不動産鑑定士の西田紘一氏が、不動産鑑定の実務理論雑誌の『Evaluation』30号(プログレス 2008年8月15日発行)掲載の論文「判決を歪める不適切な鑑定」P65で、次のごとく述べる。

 「空室損に費用性はない。総収入の修正項目である。費用とは収益獲得のための犠牲である。空室を増大させることによって収益が増加する関係にはないので、費用性は否定されている。空室損を費用にしているのは、不動産鑑定士(と地価公示)だけであろう。」
 (注、地価公示価格は、平成22(2010)年よりそれまで必要諸経費としていた空室損失を費用項目から収入項目に移動した。)

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追記 実務修習テキストの家賃の評価例が、空室損失を必要諸経費に入れている間違いを犯している

 現在行われている第19回実務修習指導要領テキスト(2024年11月1日第1刷発行 公益財団法人日本不動産鑑定士協会連合会発行)のP395の『家賃の鑑定評価(評価書編)』は、空室損失を必要諸経費項目にしている。

 必要諸経費にはならない空室損失を必要諸経費とし、空室損失を積算賃料の4%として、同一時点の同一建物の必要諸経費が3つもある家賃評価を模範例としてテキストに載せて修習生に教えている。

 同一時点の同一建物の必要諸経費は1つである。新規賃料でも継続賃料でも同じ金額で1つである。

 この修習テキストをそっくり真似した賃料鑑定書が、大手を振って大道を罷り通っている。

 テキストを作成した人、査読して適正と判断した人、修習生に教えている人、テキストをそっくりコピーして鑑定書を発行している人は、専門家として恥ずかしいという気持ちは無いのか。(2025年8月26日)


  鑑定コラム1242)
「これが改正鑑定評価基準なのか」

  鑑定コラム1133)「何度言えばわかるであろうか 空室損失は経費では無いと」

  鑑定コラム579)「空室損失は経費ではない」

  鑑定コラム184)「空室損失は家賃の必要諸経費なのか」

  鑑定コラム347)「『不動産鑑定評価基準』はダブルスタンダードなのか」

  鑑定コラム2897)「実務修習テキストの家賃の評価例は間違っている 」


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