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2904) 期待利回りと継続賃料利回りの区別が判らないのか


1.ある家賃の鑑定書

 最近(2025年7月)、弁護士から家賃の鑑定書を見て、おかしい所、間違っている個所があったら意見書を書いて欲しいという依頼があり、一冊の不動産鑑定書が郵送されて来た。

 こうした依頼は、裁判案件の不動産鑑定を行っているとしょっちゅうある。

 逆に云えば、私の発行した鑑定書は、相手側代理人弁護士を通じて相手側から依頼を受けて鑑定評価した不動産鑑定士の手に渡っていることになる。

 そして相手側代理人弁護士の田原鑑定を猛烈に批判する準備書面が届く。

 今回見た家賃鑑定書は、多くの間違いがあったが、その内の1つについて述べる。鑑定書をA鑑定と呼ぶ事とする。

 A鑑定は賃貸人側からの依頼の家賃鑑定であった。

 積算賃料は、新規賃料である。下記算式で求める。

    土地建物の基礎価格×期待利回り+必要諸経費

 A鑑定の期待利回りは、次のごとく求められていた。

 都内の同一区にあり、地域的に類似的な商業地にあり、建物規模、経年が評価建物に類似しているJ−REITの38賃貸ビルを選び出し、その平均の利回りは3.1%〜3.7%であるから、ほぼその中心値の3.5%を評価賃貸ビルの期待利回りとするとしていた。

 ここでおかしいと気づかないか。

 気づかなかったら、大変失礼であるが、不動産鑑定士として賃料評価をすることを避けられることを勧める。

 J−REITの賃貸ビルに入居している賃借人は、殆どが継続賃貸借契約の入居者であり、その賃料の類型は継続賃料である。

 10階建の賃貸ビルの1フロアか2フロアに、最近入居した賃貸人がいるであろうが、他のフロアの入居者が既契約の入居者であれば、そのJ−REITの賃貸ビルの賃料は継続賃料の範疇にはいるであろう。新規賃料とは云えない。

 J−REITの賃貸ビルで新規賃料といえるのは、全フロア新規賃貸借契約もしくは9割位が新規入居者の場合の賃料である。

 A鑑定が採用したJ−REITの38賃貸ビルが全て、新規賃貸入居者のビルであると云うことはあり得ないであろう。

 つまり、J−REITの賃料は継続賃料であり、その利回りは継続賃料利回りということである。

2.不動産鑑定評価基準と期待利回り

 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ) は、「新規賃料を求める鑑定評価の手法」として、積算法、賃貸事例比較法、収益分析法の3つの手法を規程する。(平成26年改正鑑定基準 国交省版P32)

 積算法から求められる賃料を積算賃料という。積算賃料を求める手法は、先に述べた算式である。再度記せば、

    土地建物の基礎価格×期待利回り+必要諸経費

である。

 ここで使用されている利回りの「期待利回り」は新規賃料を求める積算法で使用されていることから、期待利回りは新規賃料の利回りであることが判るであろう。

3.A鑑定の期待利回りは間違っている

 A鑑定は期待利回りとして、J−REITの38賃貸ビルの賃料より求めた利回りである。

 J−REITの38賃貸ビルの賃料が全て新規賃料であることは有り得ず、J−REITの賃料は継続賃料であることが殆どある。

 それより求められた利回りは、継続賃料利回りであり、新規賃料を求めるに採用される「期待利回り」では無い。

 継続賃料の性質のものを、新規賃料利回りの性質である期待利回りと称して使用することに、論理の正当性は無い。

 このことからA鑑定の期待利回りは間違っており、求められている積算賃料は失当ということになる。

4.第19回実務修習指導要領テキスト

 A鑑定がJ−REITの賃貸ビル賃料より求めた利回りを新規賃料利回りの期待利回りと信じ込んで採用していることを知ると、再び、「ひょっとすると、実務修習指導要領テキストに同じ例が掲載されているのでは無いのか」と思い、現在行われている第19回実務修習指導要領テキスト(2024年11月1日第1刷発行 公益財団法人日本不動産鑑定士協会連合会発行)のP395の『家賃の鑑定評価(評価書編)』の期待利回りの項の記述を見た。

 指導要領テキストは、期待利回りを4.9%と求めている。その根拠説明は、下記である。

 「本件においては、下記J−REITの公表事例に基づく取引利回り(NOI) ベース等を参考にし、対象不動産の有する投資対象としての危険性・流動性・管理の困難性・資産として安全性等を考慮し、更に対象不動産において賃貸経営した場合の事業性等を考慮して、土地建物一体としての償却前純収益に対応する期待利回りを4.9%と査定した。」(上記指導要領テキストP413)

 次頁のP414で、「J−REITの公表事例に基づく取引利回り表−略−」 と記す。

 イヤハヤあきれてものも云えない。

 士協会連合会の実務修習指導要領テキストに、堂々とJ−REITの利回り4.9%が、「期待利回り」であると述べている。

 この指導要領テキストを作成した不動産鑑定士、査読して適正と判断した不動産鑑定士、実務修習生に講師として教えている不動産鑑定士は、賃料の鑑定評価を本当に知っている不動産鑑定士達であろうか。

 期待利回りと継続賃料利回りの違いが分からず、継続賃料利回りを期待利回りと判断しているとは。私は唖然とする。

 私から云えば、不動産鑑定士失格の人々である。

 テキストは間違っていると指摘し、修正すべきと主張し、修正しょうとする不動産鑑定士は今迄いなかったのか。

 即刻、家賃評価の実務修習指導要領テキストは、修正し改訂されることを強く望む。

5.著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』の記述

 2017年2月に改訂増補版を発行した著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス)の第1編新規賃料の第3章11節の「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」(P78〜84)に、次のごとく記述されている。下記に転載する。

****


 Jリートの物件の価格は、収益価格が不動産鑑定評価額である。
 Jリートの物件の価格として採用されるのは、積算価格でも比準価格でもなく、収益価格である。

    ・・・・・・・・(省略 田原記入)・・・・・・

 求められた3.4%の利回りは、収益価格に対応する利回りである。(注 最後尾参照 田原記入)
 純賃料を求める算式は、前記した
     積算価格×期待利回り=純賃料
である。
 この算式の期待利回りは、積算価格に対応する利回りでなければならないであろう。
 ここに3.4%を採用した場合、それは、
     積算価格×収益価格に対応する期待利回り
という算式になる。
 その様な算式は、数学として成立しない。
 つまり上式の算式は間違っていることになる。
 Jリートの還元利回りは、賃料評価の期待利回りには使えないということである。

 もう一つ致命的な不可要因がある。それを述べる。
 Jリートの賃料は、新規契約した賃料というものは、極少なく、ほとんどが継続している賃貸借契約の賃料である。
 その賃料から求められる純収益は、継続賃料の純収益である。
 継続賃料の純収益から求められた還元利回りは、継続賃料の要素を持った利回りと云うことになる。
 つまり、Jリートより求められた還元利回りは、継続賃料の還元利回りということになる。
 積算賃料は新規賃料であり、純収益は新規賃料より求められた純賃料でなければならない。
 期待利回りは新規賃料形成する利回りで無ければならない。
   積算賃料の純賃料=基礎価格×期待利回り(新規賃料によって求められた利回り)
 上記算式によって求められた純賃料に必要諸経費を加算したものが、積算賃料である。
 この期待利回りに、継続賃料で求められた利回りを使用することは、不可であろう。
 この要因を全く考えずに、Jリートが発表している還元利回りのデータを20件、50件とか中には100件近くのデータを集め、その平均を求め、その値を期待利回りに採用している賃料鑑定書も見受けられる。
 酷な言い方であるが、その賃料鑑定書の期待利回りは、的はずれも甚だしく適正な期待利回りとは云えない。求められた賃料は、論理的に正当性は無い。
 その賃料鑑定書は、賃料鑑定失格の鑑定書ということになる。
 Jリートの発表利回りは、積算賃料の期待利回りには使え無いと云うことが、以上の説明で分かったであろう。


 (注) 2025年9月8日追記

 J-REITの発表還元利回りは、下記のごとく求められた利回りである。

        当該賃貸ビルの純収益
       ────────────    = 発表還元利回り
      土地建物鑑定評価額(収益価格)


****



  鑑定コラム1104)
「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」

  鑑定コラム1302)「再度云う Jリートの利回りを家賃評価の期待利回りに使うな」

  鑑定コラム1678)「継続賃料利回りは期待利回りにはならない(その1)」

  鑑定コラム2545)「Jリートの還元利回りは新規賃料を求める期待利回りにはならない」

  鑑定コラム2546)「2021年版実務修習テキストの賃料積算法の期待利回りの記述は即刻修正を」


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