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306)保証金には場所的利益の対価の要因もある

 貸ビルの賃貸借契約に伴って、保証金が授受される場合が多い。
 バブル経済の時の都内の一等地の店舗の賃貸借契約には、月額支払賃料の100月分を越えるか、或いはそれに近い保証金の授受が多く認められた。

 その保証金を受け取った賃貸人が、事業の失敗により、担保として提供していた所有ビルが、抵当権の実行により競売された場合、賃借人が賃貸人に預けた保証金は、建設協力金の性格を持つ金銭消費貸借であるから、敷金の性格を持つ部分の6〜10ヶ月分の金額しか認められないという判決が出されてきた。

 これは最高裁判所が昭和50年代にそうした判断を示したため、その判断に従って多くの下級審はことごとく保証金の金額は多額でありすぎ、敷金の性格を持たないことから、競落した新所有者には保証金の返還債務は引き継がれ無いという判決を出す。

 保証金の性格として、敷金の性格と建設協力金のものがあり、敷金の性格のものは競落した新所有者にも引き継がれ、建設協力金の要因のものは、金銭消費貸借契約であるから、それは新所有者には引き継がれないという考え方のようである。

 敷金を未払賃料を担保するものと考えれば、月額支払賃料の100ヶ月の賃料の未払を想定することは現実的でないことから、100ヶ月分の保証金は著しく高く、敷金とは認められない。敷金として認められるのは、最大でも6〜10ヶ月程度の金銭であると言うことのようである。

 一方、授受される保証金が建設協力金と考えれば、その金額は建物の建設費が限度である。
 建物建設費がu当り30万円とすれば、その金額の授受が保証金としての限界である。

 しかるに、建物面積で換算してu当り80万円の金銭が保証金として授受されている場合、それは建設協力金としての保証金と言えるものであろうか。

 その授受されている保証金は建設協力金ではなく、何か別の要因が保証金を形成していると考えざるを得ない。

 それは、当該場所を独占的・排他的に利用出来る「場所的利用の利益要因」が、保証金の大きな形成要因ではなかろうかと私は考える。

 渋谷・銀座の一等地で、月額支払賃料の100ヶ月分の保証金の授受が行われるのは、その場所の場所的利用の価値は、それだけの金額を支払(貸し主に預ける)ってでも価値があるからでは無かろうか。

 場所的利用の価値が渋谷・銀座の一等地より低い所は、30ヶ月とか40ヶ月の保証金の金額となる。
 全く場所的利用価値の低い所は、敷金の本来の未払賃料を担保するためとして、2〜3ヶ月の保証金の金額になろう。

 これら保証金の金額は、市場経済が決めるものである。

 保証金の金額は市場経済が決めるものを、不動産競売にあっては、競売調書で競売評価人がどの様な合理的データと根拠に基づいて決めているのか知らないが、返還すべき敷金を6ヶ月とか10ヶ月と記入している。この調書の数値を根拠にして、競落人側は、その金額以上の保証金の返還を拒み、返還の必要性は無いと主張する。また、判決も調書に6ヶ月と書いてあるからと言って支持している場合がある。

 競売評価人が真実の評価をするとして法廷宣誓した上での敷金6〜10ヶ月の判断によるものであるならば、その判断は尊重されるべきものであるが、法廷宣誓しているでもなく、反論に晒されて、その妥当性が立証されたものでもない。
 果たして競売調書にそれほどまでの公信力があるのであろうか。

 民間の売買にあっては、授受されている保証金は、貸ビルの新購入者に引き継がれる。
 競売にあっては、競売調書に10ヶ月の引継敷金と書いてあることによって、賃貸人が賃借人に返還義務のある100ヶ月の保証金が、突然10ヶ月になってしまうということは、賃借人を一方的に不公平に扱い、賃借人に一方的に犠牲を強いる法理論である。この法理論はいささかおかしな法理論では無かろうか。

 競売評価人は物件調書において、賃貸借人の間で授受されている返還の義務のある保証金の金額は把握している。
 競売評価額から、その保証金の金額を減額して評価額を求めればよい。

 競売物件の買受人も、引継保証金を考慮して落札すれば良い。そうすることによって競落人には何も不利益は発生しない。

 100ヶ月の保証金の授受がある物件を、競売によって10ヶ月のみの引継金額となって物件を取得した競落人は、既存賃借人に明け渡しを求め、新たに新賃借人を募集して、100ヶ月の保証金を請求して、100ヶ月分の金額を手にすることが出来る。

 賃借人には何の変化も無いのに、競売によって賃貸人が変更したことによって、預けていた保証金100ヶ月が、強制的に10ヶ月に減額されて明け渡したとすれば、新賃貸人は100ヶ月分の保証金を取得出来ると言うのは、一方的に競落人を有利にするものでは無かろうか。
 この法体系、法理論の考え方は、どこかおかしい。

 この保証金の問題は、現在は貸ビル一棟の所有者の倒産が多いために、賃借人の被害は小規模に止まっているから、賃借人の泣き寝入りで終わり、知らない人が多く社会問題にはなっていない。

 だが、その法理論は、例えば所有貸ビル80棟というJリートを経営する一つの不動産投資信託会社が倒産した場合、80棟に入っている賃借人の保証金は全てパーになるというのが、現在の法理論の考え方である。

 現在の保証金に対する法理論を、不動産の市場経済を全く知らない法律家、裁判官にのみ任せていたら、上記現象が生じることになる。

 80棟の貸ビルを経営するJリートの会社が、絶対倒産しないという保証は無い。倒産はあり得る。

 その時、80棟に賃借入居している日本を代表する企業の経営者の多くは、返還されるべき保証金50ヶ月が、6ヶ月になることを黙って甘んじて受け入れるのであろうか。

 国会議員は法律を作るのが本職である。大臣になって行政するのが職務ではない。行政は法律に基づいて行われるものである。
 法治国家にあって、法律の立法化の必要がある場面にあっては、積極的に立法するのが、優れた国会議員である。
 現在の国会議員で誰が一番多く議員立法を作ったのであろうか。
 一つの法律も作ったことの無い国会議員がウジョウジョおり、その人達がはばをきかせているのでは無かろうか。

 国会議員批判はともかくとして、法律が無いために困っている人のために、立法するのは国会議員の本来の職務であることから、国会議員立法によってでも、早急に保証金を保護する法律を作る必要があろう。


  鑑定コラム231) 「保証金が100ヶ月とゼロの店舗支払家賃は同じなのか」
  
 

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