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307)市場賃料をシステム賃料で求める講演

 2006年10月13日、東京銀座の畜産会館の貸会議室を会場にして、綜合ユニコム主催のシステム賃料による市場賃料の求め方の講演を、私ともう一人の不動産鑑定士とで行った。

 セミナーを主催する 綜合ユニコムという会社は、『月刊レジャー産業資料』の雑誌を発行し、『月刊プロパティマネジメント』の雑誌も発行している。

 企業再生関係の記事を扱う雑誌として『ターンアラウンドマネジメント』という雑誌があるが、その雑誌も発行している会社とは、私は講演の会場に行くまで知らなかった。
 レジャー施設の経営実態調査資料の発行に実績をもつ出版社である。出版事業のほか、各種の経営セミナーを開催している。

 その綜合ユニコムから、毎年一回、市場賃料をシステム賃料で求める講演を頼まれる。今年で4年連続である。同じ内容のセミナーが4年も続くセミナーはあまり無いのでは無かろうか。

 課題は『居住系不動産の市場賃料算出と利回りについて』であるが、内容はどんどん変わりつつある。基本にあるのは「システム賃料」による賃料の求め方の説明であるが、より詳しく、実践的に、そしてシステム賃料以前の、そもそも賃料とはどういう風にして求めるのかという、賃料の形成の本質の説明まで求められるようになってきた。

 システム賃料の概念は、賃料を「平均」で捉えようとする考え方である。
 1つの駅勢圏に存在する多くのマンションの賃貸事例データの、賃料を含め、その賃料に附随する徒歩分、経年、面積のそれぞれの平均値を求め、その平均値から徒歩5分、築5年、面積60uの賃貸マンションの「標準賃料」を求める。その「標準賃料」から対象マンションの駅徒歩分、経年、面積によって対象マンションの「基準賃料」を求める。その「基準賃料」に前記3要因(徒歩分、経年、面積)以外の個別的要因によって修正を行い、対象マンションの賃料を求めるものである。

 各駅勢圏の賃料及び3要因の平均値は、バラバラで、全くの一貫性も経済法則性も認められない数値であるが、駅勢圏ごとに決められた修正値を使用して、徒歩5分、経年5年、面積60uの「標準賃料」を求めてみると、同一沿線では都心に近づくにつれて「標準賃料」は高くなり、急行停車駅の「標準賃料」は、止まらない駅の「標準賃料」よりも高いという1つの規範性ある賃料現象が認められる。それは目に見えない糸によって経済行為が行われているのではないかと思いたくなる現象である。

 現在の不動産鑑定は、賃料あるいは価格を平均で捉え、あるいは考えるという考え方はない。個々別々のデータから比較して求めることが優れていると考えている。

 この考え方の最大の欠点は、採用した個々のデータが、1つの駅勢圏(母集団)の中で、どの位置にあるのかということが全くわからずに比較作業が行われ、賃料が求められ、求められた結果が適正であると考えられ、主張されることである。
 採用した賃貸データを、評価する人が適正な賃料データと思った根拠は何なのか。その実証根拠が示されない。
 適正と思って採用した賃料が高い水準のものであった場合、比較して求められる賃料は、結果において高い賃料水準のものとなり、それは、不動産鑑定の専門家が判断したから「適正」という名のもとで罷り通るということになる。

 そうした考え方の中で、「平均」で賃料を捉えるということは、一種異端的な発想である。

 しかし、その異端的発想の考え方が徐徐に世間に受け入れられ、求め方を知りたい、会得したいという人が多く現れるようになってきた。  そうでなかったら、4年間、毎年、高いセミナー料の講演が開かれることは無い。

 今回のセミナーでは、今迄あまりはっきりと根拠の数値をオープンにしてこなかった個別的要因の賃料の修正値をほぼ公開した。

 道路幅員の差による修正値等である。
 それら公開された個別的要因の修正値は、道路幅員、方位、角部屋、建物構造、外壁仕上げ、メンテナンスの状況、車両騒音、嫌悪施設、用途地域、エレベータの有無、階層、廊下幅、冷暖房施設の有無、給湯設備、オートロックの有無等による賃料修正値である。

 駅距離、経年、面積で求められた対象マンションの賃料に、上記道路幅員、外壁仕上げ等の個別的要因の修正を行えば、対象マンションの市場賃料が求められることになる。

 セミナー参加者の事前アンケートでは、「システム賃料」で本当に市場賃料が求められるのか。理論的な話で実際に使える内容の話なのか。オートロックの有無の賃料差がどれ程付くのか、それが説明されるセミナーなのか等の質問が寄せられていた。
 それらに付いては、ほぼ答えられる様な内容のセミナーにした。
 それ故、極めて実践的なセミナーである。

 セミナー参加者は、銀行員、リート会社、アセットマネージャー、不動産会社、ディベロッパー、ファンド会社、商事会社、上場企業、不動産鑑定士等と多種多様な職業の人々であった。

 九州から来ている人もいた。セミナーに参加するのに10万円の費用がかかると言う。そして私の講演を聞くのは今回を入れて3回目と言う。
 「一回で充分では無いですか。」
というと、
 「いや、来る度に新しい情報とヒントが得られ、それがどうしてか仕事に結びつき、新しい仕事が入ってくるのだ。」
と言ってくださる。
 今度も新しい仕事に結びつくかどうか分からないが、話す方としては、そういうことを耳にすると大変有り難い。

 セミナーは4時間あり、一時間はもう一人の不動産鑑定士の方が話され、残りの3時間を私が話すのであったが、3時間の講演は心身ともに疲れる。

 しかし、今迄誰も考えず、行われていなかった分析方法を自分が見つけ、作りだし、その方法の有用性が徐徐にマンションを中心にした不動産を扱う人々にわかり、使われ広がりつつあることを知れば、疲れも癒され、忘れる。

 不動産鑑定評価に、新しい分析方法を見つけ出すことは大変であると自身思って、自己満足しているが。


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