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316)不動産ファンドへの貸出規制

 2006年11月28日の日本経済新聞はトップ記事として、金融庁が銀行の貸出リスク算定ルールを見直すと報じる。

 国際決済銀行の新たな自己資本規制の導入による措置に伴うものであると言う。
 私は銀行員でないから、その仕組みの詳しいことは分からない。

 貸出のリスク算定ルールを変えることは、銀行経営の安全性を考えて行うことであろうから、それはリスクの高い貸出を減らす様に改正することを意味することと解釈出来る。

 そのリスクの高い貸出の一つとして、銀行によるファンド向け投融資がある。
 ファンドと言っても、企業買収ファンド、投資ファンド、ヘッジファンド、不動産ファンド等がある。

 金融庁は、
 「投資先が不透明なファンド向け投融資も厳しくみる。」
と言う。
 「投資先が不透明なファンド向け投融資も」と「も」をつけていることから、反対解釈として投資先が透明なファンド向けであっても、厳しくみると言うことに解釈される。

 それらファンドで、大きな影響を受けるのは不動産ファンドでは無かろうかと思う。何故かといえば、今迄野放図と言っていいくらい不動産ファンドに銀行の貸出金額が流れていたから。

 では、野放図と表現される金が、本当に不動産ファンドが関係する不動産業に流れ込んでいるのかをみる。

 日本銀行発表による国内銀行の新規貸出額を見ると、2006年7月〜9月の3ヶ月間では、

    不動産業     22,450億円
        製造業       5,458億円
    全貸出額     101,943億円
である。

 不動産業への新規貸出額は、2兆2千億円である。全貸出額に占める割合は、
        22,450億円÷101,943億円≒0.202
20.2%である。

 この2006年7月〜9月の3ヶ月間における製造業への貸出額は5,458億円であるから、いかに不動産業への新規貸出額が突出し、異常であるかが分かろう。
 この大部分が不動産ファンドに回っていると推測される。

 2006年1月〜9月までの国内銀行の新規貸出額は、下記の通りである。

                            不動産業             製造業
  2006年1月〜3月         27,679億円     7,143億円
  2006年4月〜6月         16,132億円     4,329億円
  2006年7月〜9月         22,450億円     5,458億円
       計         66,261億円         16,930億円

 2006年1月〜9月までに不動産業に新規貸出された金額は、6兆6千億円である。
 バブル経済時の平成元年に不動産業に流れた金額は、10.4兆円であった。
 昨年2005年の1年間に不動産業に流れた金額は、9.4兆円であるから、その金額に匹敵する金額が、今年も不動産業に貸出されそうである。
 この全貸出金額の20%余を占める不動産業への貸出金額を、野放図でないといえるのであろうか。

 この野放図といえる不動産業・不動産ファンドへの金の貸出によって、都心商業地の1等地の地価は大幅に上昇している。その地価上昇は優良住宅地に、そして大阪、名古屋、福岡、札幌の商業地の土地にも及んでいる。

 地価上昇を抑えていた地価摩擦係数は、だぶつく大量資金の導入によって摩擦係数の役割を果たせなくなってしまい、地価は怒濤のごとく暴走し始めてしまった。

 さすがに金融庁も過剰な不動産業への金の流れ、それによる地価上昇を無視することは出来なく、金融庁の監督職掌の範囲である銀行の不動産ファンドへの投融資を厳しくしょうと動き出したと、私は日経報道記事を読む。

 では、著しい地価の上昇はどうするのか。
 それは国土交通省の地価調査課の監督職掌であるから、そちらに任せようと言うことでは無かろうか。

 年間30%〜40%の地価上昇を、一般の土地の売買と違い金融商品がらみの不動産ファンドの土地売買・信託受益権の売買であるからと言って、のほほんと放置していると、国交省は金融庁から「何をしているのか」と厳しい叱声を浴びるのでは無かろうか。

 来年(2007年)3月末に発表される地価公示価格で、地価上昇率が30%以上2年も続けている地域が現れたら、国民、新聞・マスコミから土地価格政策の無策を国交省は問われるのではなかろうか。「わしゃ知らないょ。」と言っているわけには行かないであろう。

 それは現在の地価公示価格は、良いのか悪いのか知らないが、固定資産税・相続税にただちに影響を与える様な制度設計になっているため、国民は地価の上昇によって税金の負担が確実に増えることになるのである。
 不動産ファンドが自分達の利益の為に土地価格を上昇させたが故に、関係ない多くの国民が、固定資産税・相続税の増額を負担しなければならなくなるのである。

 「私どもは地価対策政策を一所懸命してきた。今も行っている。無策とは何事だ。」
と国交省は反論するであろうが、私が言う「無策」と言う内容の一つは、日銀の長期にわたる超金融緩和政策、ゼロ金利政策について、
 「その政策は、土地価格の高騰を招くから止めてくれ。」
と国交省は日銀に強硬に申し込み、日銀と土地価格政策論議を戦わしたかどうかを言うのである。
 国交省の土地価格政策の専門家という官僚としての自負があれば、日銀総裁・幹部と激論し、土地価格と金融資金の関係の証拠を突きつけて、日銀の政策は間違っていると机をたたきつけて指摘し、政策を変えさせることが出来なかったのか。

 それを行っていれば「無策」とは言わない。
 国交省は日銀に対して、それを行ったのであろうか。

 暴走し始めた地価上昇に対して、国土利用計画法の規制区域の指定の発動も考えられなければならなくなるのでは無かろうか。

 かって国土利用計画法の適用規制の解除の政策発表したとき、当時の監督官庁の発言がどういうものであったか、今一度振り返って見る必要があろう。

 地価の横ばいか、若しくはゆっくりした上昇は歓迎する。しかし異常な、急激な地価上昇は危惧すべきだ。


 不動産貸出額と地価の関係について述べた記事は、下記の鑑定コラムにも有ります。

  鑑定コラム407)「2007年不動産業への国内銀行新規貸出額10兆円」

  鑑定コラム291)「バブル時に迫る銀行の不動産業への新規貸出額」

  鑑定コラム352)「地価摩擦係数」

  鑑定コラム388)「日本は不動産業国家ではない」

  鑑定コラム1205)「 不動産業新規貸出9.7兆円(2014年4月直前1年間)」

 

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