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371)保証金の運用利回りは4%もするのか

 知り合いの弁護士から、
 「田原さん、保証金の運用利回りは何パーセントが妥当なのか。4%もするのか。」
と、電話で問い合わせがあった。

 「4%の利回り?
 その利回りは10年くらい前の話です。
 現在は1.5%程度です。
 何か問題が生じたのですか。」
と、私はその弁護士に聞いた。

 「ある不動産鑑定士の賃料の鑑定評価書が上がってきたが、それを見ると保証金の利回りが4%として、賃料が求められている。
 今の国債や定期預金の利回りは1.5%前後と思うが、不動産鑑定評価の場合、保証金の利回りは、現在の国債利回りや定期預金の利回りと関係なく4%を採用して、賃料計算されるのかということが知りたかったのです。
 田原さんの考えでは、保証金の利回りは4%と固定されているのではないのですね。
 国債の利回り、定期預金の利回り水準程度が、現在の保証金の利回りの水準と言うことですね。」

と、弁護士は確認してきた。

 「そうです。」
と、私は答えた。

 不動産鑑定で保証金の利回りは、バブル経済以前は4〜5%であった。
 バブル経済時には、6〜7%の利回りだった。
 バブル崩壊後は、急激に利回りは下がり、5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%と下がり、ついに1%の水準までに下がって来た。

 みずほ銀行の、2007年8月25日現在の大口1000万円以上の定期預金の利回りは、同銀行のホームページによれば、下記の通りである。

          期間1年    0.4%
          期間3年    0.6%
          期間5年    0.75%
          期間10年    0.9%

である。

 一方、長期国債の利回りは、日本相互証券株式会社の「主要レート推移」の調査(2007年8月25日現在の同社のホームページより)による10年債の2007年7月2日〜31日までのレート(月初と月末以外は省略)は、下記の通りである。
          2007年7月2日     1.885
          2007年7月31日     1.790
  である。

 アメリカのサブプライムローンの焦げ付きで、8月の現在の利回りは、なお下がっている。

 不動産鑑定士の中には、下記のごとく主張する人がいる。
 「保証金は長期に預かるものであるから、長期の利回りで考えるものである。
 目先の定期預金の利回りとか、国債の利回りで左右されるべきものではない。
 過去30年の国債の利回りの平均をとると、4〜5%の水準であるから、4%の利回りを採用するのが正しい。」
と。

 保証金は長期に預かるものだから、長期の平均利回りで考えるべきであるという論理には、私は同調しかねる。

 保証金の運用益は賃料を形成するものである。
 継続賃料の賃貸借期間は2年とか3年で考えられるものである。

 賃料改定する場合には、その時点での保証金の利回り益は、その改定時の賃料に反映されるものであり、されているのである。それ故、30年の平均利回りなどという考え方など不要である。

 バブル経済の時の保証金の利回りは6〜7%であった。
 何故そういう水準の利回りであったのか。
 それは、その頃の定期預金、国債利回りを反映して6〜7%の利回りの水準であったのである。

 その頃に、4%の運用利回りで賃料を求めていたならば、国債の利回りよりも何故低いのかという質問を浴びせられ、説明に窮したハズである。

 「保証金の利回りは長期で考えるものであり、長期の平均は4%ですから、4%の利回りが正しいのです。」
と回答したとすれば、

 「賃料は長期では考えていない。
 保証金の運用益も賃料を形成するものである。
 保証金のみ、どうして長期に考えなければならないのか。
 その考え方には論理に矛盾があるのではないのか。」

という批判を受けることになる。

 もう10年程前になるであろうか。
 不良債権処理の為のデューデリジェンスを行った。
 その頃は「不良債権のデューデリジェンス」などという言葉など、知る人はわずかであった。日本ではその様なことは行われていなかった。

 そういうことを行うのは、アメリカ等の外国投資銀行だけであった。
 日本のバブル経済崩壊後の不良債権を安く買いたたきしたのが、ハゲタカフアンドと呼ばれる外資の投資銀行であった。

 その関連で、抵当権のついている不良債権の不動産の鑑定評価(デューデリジェンス)を行った。
 依頼者から与えられたデューデリジェンス用の提出用報告書は全て英語である。
 辞書を手許にして日本語に訳して、デューデリジェンスを行った。
 デューデリジェンスとはどういうものかと言うことを、翻訳されていない英語の生の報告書を見、読み、翻訳し、そして書き込んで、初めて知った。

 その中で、保証金の運用益を記載する欄があった。
 当時の私は、当然のごとく5%の利回りを書き込み、5%で計算して報告書を提出した。

 ロールアップミーティングで、依頼者で片言の日本語を話す担当者は私にこう言った。

 「田原さん、5%で今時運用出来る金融商品はありますか。国債の利回りは現在何%か知っていますか。」

 その頃の国債の利回りは3%程度であった。

 「田原さんが5%で運用出来ると言うのであれば、1000万円預けますからやっていただけますか。そうすれば私どもは大変助かります。やっていただけますか。」
と外資の投資銀行の担当者はたたみかけてくる。

 デューデリジェンスの報告書は、保証金利回り3%にして全てやり直すことになった。


 保証金の運用利回りについての記事は、下記の鑑定コラムにもあります。

 鑑定コラム 383) 「公定歩合(基準割引率及び基準貸付利率)と一時金運用利回り」
 

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