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424)不動産鑑定士には政策提言能力が無いのか

 債権の担保として、不動産に抵当権を設定して、商取引行為が行われる場合が多い。

 債務返済が滞りなく行われるならば、問題は発生しない。
 債務返済が滞り、債権の回収が難しくなった場合に、債権者が債権回収の最後の手段として、債権の担保として抵当権を設定していた不動産の処分を実行しなければならなくなる。

 抵当権の設定が1つの場合には、任意売却の方法で当該担保不動産の新しい購入者を見つけて、その売買代金によって滞っていた債務を返済する方法がとられる場合がある。

 多くの抵当権や仮登記が設定されている場合には、裁判所による強制換価の法的処理に頼らざるを得ない。
 即ち、民事執行法に基づく司法競売の法的手段である。

 この司法競売制度の見直しが行われている。

 法務省での研究会、内閣府規制改革会議での検討会が開かれ、それらの検討を経て、政権与党の自民党司法制度調査会に「明るい競売プロジェクトチーム」が作られ、意見のとりまとめが行われている。

 「現行競売制度のどこが悪いのか。見直す点はどこか。」
と、競売に係わる弁護士、銀行等の専門家、業界に意見を聞いている。
 学者へのヒァリングも行われている。

 いずれ、それら意見を聴いた上で、競売制度の改正法案が作られるものと思われる。

 それ故に、自民党司法制度調査会の「明るい競売プロジェクトチーム」より、「意見を述べてください。その意見の内容はどういうものか 」という問い合わせが不動産鑑定協会に有った様である。

 それに対して不動産鑑定協会は「三点セットが必要です」の類の返事をしたために、その程度の内容であるならば、わざわざヒァリングをする必要も無いと、自民党司法制度調査会の「明るい競売プロジェクトチーム」は判断してしまったようである。
 このあたりのいきさつは、私は当事者で無いからはきっきりと分からないが。

 競売制度を検討している政府自民党の人々には、不動産鑑定協会は競売制度の変革を望んでいないとうっつてしまったのであろう。不動産鑑定協会からのヒァリングを予定よりはずしてしまったようである。

 不動産鑑定協会は、他の業界か或いは識者から忠告されたのか知らないが、事の重要性に気づき、是非ヒァリングに参加させてくださいと言い出したらしい。

 不動産鑑定協会はヒァリングの予定に招かれていないにも係わらず、自民党司法制度調査会の「明るい競売プロジェクトチーム」のヒァリングに押しかけた。不動産鑑定協会は押しかけたのではないと云うであろうが、事実上は押しかけであろう。

 「明るい競売プロジェクトチーム」は、ヒァリングの予定にしていなかった人が勝手に押しかけて意見を述べようとする不動産鑑定協会をむげに断る訳にも行かず、意見を述べる機会を与えた。

 その意見を述べた意見書たるや、これが競売に携わっている専門家としての不動産鑑定士の意見書で有ろうかと思われる内容のものである。

 「裁判所において評価人の枠を拡げる場合には、積極的に参加させて頂きます。
 競売には三点セットが必要です。」
と云う文言が書かれる意見書である。

 自民党司法制度調査会の「明るい競売プロジェクトチーム」は、競売制度の具合の悪い点、足らない点を洗いざらい出して、再検討をして、立法化しようとしているのである。

 その会議に「三点セットは必要です」とか「裁判所が評価人の枠を拡げる場合には、積極的に参加します」と発言するとは。それが意見書の主たる内容とは。

 競売評価として競売に携わり、苦労しているのであろうから、この点が悪いとか、こうした方法が良いとかが分かるであろう。

 そうした事を述べて立法化への政策提言をすべきで有ろう。

 私は門外漢(私は競売評価には携わっていない事から門外漢と認識する)であるから、政策提言出来ないが、それでも現行競売制度について、思いつく点を3,4点述べることは出来る。

 その1つ。
 競売評価人は、対象不動産の確定に相当苦労している。
 特に山林・原野の鑑定には。

 中には違った場所を評価地として間違えて評価してしまい、損害賠償を受けた評価人も居ると聞く。

 何十町歩かの山林・原野の境界が、果たして明確に分かるのであろうか。
 山林・原野を問わず当該対象地の所有者に現地案内を受け、それで対象地の確認をするのが原則であろう。

 所有者がここだと云えば、他の証拠書類でそこが対象地と考えられれば、それで評価地の確定は終わりとすべきであろう。
 山林の境界を探し求めて、一日中、山の中を歩いていても仕方無かろう。

 2つ目は、1つの土地に抵当権が20も30もつける制度はおかしいと指摘すべきであろう。平成バブル崩壊の教訓があるのでは無かろうか。それが全く活かされていない。
 抵当権の設定は1つの土地建物で3つまでで充分であろう。それ以上の抵当権の設定は認めないという法制化が必要であろう。

 3つ目は、戸建住宅とかビルなど一棟の建物の場合、土地建物別々に競売対象にするのでなく、土地建物を1つの不動産と考え、分離することなく競売の価格をつけるべきであろう。
 土地建物を別々に分離して、建物に法定地上権を設定する現行競売制度は、非現実的な法律手続では無かろうか。

 4つ目は、更地状態の土地であったため、その土地に抵当権を設定していたが、土地所有者がその後その土地上に建物を建てた。
 その建物に債権者は抵当権を設定していなかった。そして債務者の債務滞納によって債権者が土地の抵当権を実行した場合、土地価格は更地の時は100であったにも係わらず、建物が建っているために、土地価格は30になってしまう。
 建物価格に地上権が付着して、土地価格の60とか70の価格が、建物価格に付着してしまう為である。

 この地上権の価格発生はおかしな法律理論である。
 上記例の場合、建物に付着する権利は定期借地権の発生に考え方を変換するべきであろう。
 定期借地権という制度が出来たのである。その法律制度を導入して法定地上権の適用は廃止すべきと考える。

 定期借地権では土地利用の借地権は発生するが、定期借地権には価格は発生しない。価格ゼロである。
 即ち上記例で言えば、抵当権設定していない建物が建ったとしても、その土地価格は100であり、30の価格にはならない。

 5つ目は、競売、競売関係者は債権者、債務者の関係しか考えていないが、賃貸不動産の場合には、その不動産には建物賃借人がいる。この建物賃借人の立場、権利を十分考える必要があろう。

 貸ビル入居の為に、保証金として支払賃料の100ヶ月分相当の金額を支払って賃貸借契約を結んでいる賃借人の場合を考えてみよう。

 賃貸人が債務不履行になって、当該賃借ビルが競売にかかった場合、賃借人が賃貸人に預けている保証金は、金銭消費貸借契約であるからといって、賃借人に返還されなくなってしまう。

 賃貸人の債務不履行と賃借人のビル賃貸借契約とは、何の法律関係が無い。それにも係わらず、賃貸人に預けた支払賃料の100ヶ月分相当の保証金が、賃借人に戻されないという現象が生ずる。
 保証金が0円になってしまうという現在の法律制度、法解釈はおかしいと思われないであろうか。 それは間違いであろう。

 その1つの原因を作っているのが、競売評価人の勝手な根拠薄弱な、敷金の性格のある一時金は10ヶ月等程度であるという三点セットとやらの評価書の記述である。

 賃借人が賃貸人に預けている保証金等の一時金は、当該建物の賃貸借契約に伴う金額である。
 競売落札者にもその金額は引き継がれるべきものである。法律にその様に明記する政策提言をすべきでは無かろうか。

 その他考えれば、現行の競売制度の問題点は多くあるであろう。それを改善する提言を不動産鑑定士は何故行わないのか。
 同じ職業人として、私はいささか失望する。
 

  鑑定コラム1902)「著書の中の保証金についての著述」


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