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601)日本航空(JAL)はどこへ行く

 「暖かいスープかお飲み物をお持ちしましょうか ?」
 若い女性の声がした。
 見上げるとスチュワーデスであった。

 羽田発の朝早くのフライトで、朝食を食べる時間が無く、羽田を飛び立った。
 機内で朝食を食べる為に、羽田空港内の売店で「空弁(そらべん)」を買った。

 日本航空の飛行機が十分な上空に達し、水平飛行に入ったのを見届けて、私は「空弁」をあけて、朝食をとっていたのである。

 乗客の中で、「空弁」を食べている人は殆どいない。私一人くらいである。

 乗客の人々は、朝食を食べて飛行機に乗っているのであろうか。
 或いは、飛行機の中で弁当を広げて食べてはいけないと思っているのであろうか。今回に限らず、いつのフライトでも弁当を食べているのは、私一人くらいである。

 暖かいスープをお持ちしましょうかと声を掛けてくれたスチュワーデスの背後の機内用テレビには、朝7時に放映されたNHKニュースが流れていた。

 その画面では、アナウンサーが、

 「政府は、日本航空の経営危機を救うため、国の資金を投入することを決めた模様です。」

と伝える。

 スチュワーデスが、弁当を食べる乗客に、「暖かいスープをお持ちしましょうか」と気遣ってくれるその後ろのテレビ画面では、当の日本航空への国の資金導入の検討画面が流れる。

 JAL機上での現実のスチュワーデスの姿と、JAL機内のテレビで流れるJALのニュースの映像を同時に見せつけられると、なんとも妙な気持ちにさせられる。

 目的地の空港にJALの飛行機は着陸した。

 主任スチュワーデスの機内放送が流れる。

 「・・・・・・本日は、日本航空をご利用頂き有り難う御座います。
 現在、日本航空は、全社員一丸となって問題に取り組んでおります。
 皆様のご理解と御協力を御願い申し上げます。」

と言って機内放送は終わる。

 日本航空は、政府の資金援助による救済の状態まで、どうして行ってしまったのか。
 そこまで経営が、何故悪くなってしまったのか。
 日本航空の経営危機をマスコミが伝えるようになったのは、ごく最近である。 マスコミは、にわかに、日本航空の経営危機を伝えだした。
 何故、もっと早く、経営危機を国民に伝えなかったのか。
 誰が情報を隠していたのか。

 日本航空は、そもそも「政官業」癒着の見本のごとくの会社である。
 戦後60年続いた自民党政治の「政官業」癒着政治の良い意味でも、悪い意味でも、その見本と言えよう。
 
 日本航空の売上高等は、どれ程であろうか。

 日本航空のホームページに発表されている財務諸表によれば、下記のごとくである。連結決算である。単位百万円。

        年度     売上高    営業利益  当期純損益
      2002年度   2,083,480       10,589       11,645
      2003年度   1,931,742     ▲67,645     ▲88,619
      2004年度   2,129,876       56,149       30,096
      2005年度   2,199,385     ▲26,834     ▲47,243
      2006年度   2,301,915       22,917     ▲16,267
      2007年度   2,230,416       90,013       16,921
      2008年度   1,951,158     ▲50,884     ▲63,194

 2009年3月期の売上高は、1兆9511億円であり、508億円の赤字である。
 赤字と黒字を一年毎に繰り返しているみたいである。

 営業外費用として、支払利息・社債利息として、175.36億円支払っている。
 この利息を支払う借入金・社債は、

                借入金     6993.00億円
                社債       502.29億円
                 計       7495.29億円
  である。

 売上高に対する割合は、

       7495.29億円÷19511.58億円 = 0.384

38.4%である。この割合を大きいと見るか、小さいと見るか、通常と見るかは、人それぞれであろう。

 日本航空の経営再建のネックになっているのが、OB社員を含めた社員の未手当ての状態の企業年金という。その金額は巨額である。

 企業年金とはどういうものか。国民年金、厚生年金とどう違うのかと云う点については、それらを解説するホームページがあろうと思うから、そちらに任す。

 未手当ての状態の企業年金は、3000億円とマスコミは伝える。
 その数値から推定すると、その該当項目は、「退職給付未認識債務期末残高」という項目では無かろうかと思う。

 2008年度では、331,476百万円の数値が記載されている。分かり易く表示すれば、3314億76百万円である。
 この未手当ての状態の企業年金を借入金・社債の金額と比較すると、その巨額が分かろう。

       3314億76百万円÷7495.29億円≒0.44

 借入金・社債の44%に相当する金額である。

 国が日本航空の支援として3000億円投入しても、その金額は、社員・OB社員の企業年金の補填にされることになってしまう。そのことを国民が知ったら、黙っていないであろう。

 日本航空は民間会社である。
 民間会社が資金援助を国に求めてきたということは、それは経営が行き詰まったということである。即ち倒産状態か、若しくはそれに近い状態と云うことであろう。

 資本主義は利益の出ている時は、企業・株主に対して甘い顔を見せるが、利益が出なく経営に行き詰まった時には、冷徹な顔を見せる。

 日本航空は今迄、政官業の癒着を利用しながら資本主義の世界の甘い面を味わってきた。今後は資本主義の冷徹な面を味わうことになる。

 経営が行き詰まったと云うことは、即ち借入金あるいは社債の返済の資金手当てが出来なくなったことであろう。それは企業倒産への道である。

 日本航空が資金繰りに困って、政府に資金援助を要請したからと云って、政府は、「はいそうですか。資金を提供しましょう」と安易に考えて、資金提供するものでは無い。

 日本航空を倒産させる訳には行かない、企業の存続を計るということを考えるならば、民事再生法による企業再建を考えるべきであろう。

 政府は、日本航空に民事再生法の適用申請を東京地裁に提出させ、東京地裁の同法適用許可が出たと同時に、日本航空の資金援助にまわるべきである。

 株式は、99%減資する。それは株主責任である。
 債権者は、99%の債権カットとなる。それが資本主義の自由競争の原理である。

 企業年金は、全額カットとなる。
 社員の給料は、大幅な減額となる。勿論ボーナスなどない。
 赤字の地方空港の運行営業は、全て廃止となる。
 子会社の整理、資産の整理が厳しく行われることになる。

 現経営陣は、全員退陣する。
 退陣する現経営陣は、OB社員から倒産の責任を問われ、企業年金の返済訴訟を起こされるリスクを背負うことになるかもしれない。これも資本主義の自由競争の原理である。

 今迄に、現日本航空の経営をしていては、会社倒産すると経営批判の発言をした為にパージを食らって、左遷された心ある幹部社員は必ずいるはずである。

 新経営陣には、そうした人を呼び戻し、そしてプロパーの若い人を抜擢して新しい経営感覚で、新生日本航空の経営を委ねることだ。

 第二次大戦後大企業の経営者がパージされ、若いプロパーの人が経営者になって、先頭になって会社を引っ張り、日本の経済・会社をよみがえらしたことを思い出せ。その彼らが、のちに経団連等の会長になったのである。

 日本航空に資金を出す国、銀行等は、提供資金の全額若しくは半額を株式化し、経営が立ち直った暁には株式再上場して、所有株式を売却することによって資金の回収を図る。

 主任スチュワーデスが、着陸時に機内放送で云う、

 「・・・・・・日本航空は、全社員一丸となって問題に取り組んでおります。
 皆様のご理解と御協力を御願い申し上げます。」

の言葉は、そうしたことで、初めて実のある言葉として生きてくる。


(追加 2009年1月26日)
 日本航空は、2009年1月19日、会社更生法の申請を東京地裁に申請した。
 企業再生支援機構は、日本航空の会社更生法申請直後に日本航空の支援を決定した。
 関連企業を含めて負債額は、2兆3221億円と発表された。


 鑑定コラム602)「日経社説(2009年11月12日)の日航再生論」

 鑑定コラム623)「日本航空株価7円」

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