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746)鉄道交通インフラを停めてはいけない

 大地震、大津波、大災害、多くの死者の発生そして原子力発電所の事故発生、原子炉のメルトダウンと次々と日本の東日本の太平洋側地域に不幸が襲った。

 東京電力の福島第一原子力発電所の事故については、後日、日を改めて述べたい。

 今回は、東京電力による首都圏の「計画停電」について、述べる。

 東京電力の福島第一原子力発電所の原子力発電機3機の大地震を原因とする事故によって、電力供給が満足に出来ないということで、東京電力は首都圏の配電地域を5つに区分して、輪番制で3時間の停電を行うということを、2011年3月13日の夜8時過ぎに発表した。

 計画停電の実施は、翌14日月曜日より行うというのである。
 各グループの停電時間は、下記のごとくである。

 第一グループ  午前6時20分〜同10時、
                  午後4時50分〜同8時30分

 第二グループ  午前9時20分〜午後1時、 午後6時20分〜同10時
 第三グループ  午後0時20分〜同4時
 第四グループ  午後1時50分〜同5時30分
 第五グループ  午後3時20分〜同7時

 範囲グループは変わらないが、停電時間は毎日変更するという。
 そしてこの停電は、東京駅を中心にして、首都圏に網のごとく張り巡らされている鉄道にも例外にせず、交通インフラの電車の運行を止めるものという。

 この計画停電を知らずに、月曜日の朝各駅に行った通勤客の多くの人は、電車が動いていないということを、初めてそこで知って大騒ぎになった。

 暴動は発生しなかったが、動いている他の交通手段に殺到し、大混乱を引き起こした。

 例えば、JR東日本で東京で動いているのは、山手線と中央線の東京〜立川間、京浜東北線の赤羽〜蒲田の間のみである。京浜東北線の蒲田の延長にある川崎、横浜まで電車は行かないのである。

 私鉄もかなりの運行停止・制限を行った。
 突然のこの様な鉄道交通のインフラの運行停止行為は、通勤客に対して大混乱を引き起こさせるのは、当然のことである。

 東京電力は、この「計画停電」の実施について、菅首相に事前に相談し、首相の了解を得て実施したという。

 原子力発電所の発電機3機の事故により、電力供給が困難になったこと故、協力して下さいというものである。

 しかし、日曜日の夜に決めて、翌日の月曜日の早朝から実施ということは、あまりにも身勝手な強引な行為ではなかろうか。

 東京電力から「計画停電」の実施について相談があった時、菅首相は「鉄道交通インフラの運行停止することはまかり成らぬ」と、何故指導しなかったのか。

 モータを使用するものが、最も電力を消費することは知っている。
 だが、首都圏の鉄道交通インフラである電車を停めるということは、どれ程の日本の経済生産活動、社会生活に与える影響が大きいかということが分からないのか。

 産業生産経済は人が作るものであり、人がいなかったら産業生産経済活動は出来ない。
 その人の大半を運んでいるのが、鉄道である。

 その鉄道を停めてしまうことは、産業生産経済活動を停めてしまうことに等しい。
 この理屈が、菅首相には分からないのか。

 菅首相が一言、
 「鉄道交通インフラは例外とすること」
といえば良かったのである。

 それを云えないとは、洞察力に欠ける首相と云わざるを得ない。

 東京電力の供給電力が不足すると分かれば、他の電力会社の電力の融通で乗り切ることは可能である。

 中部電力、関西電力より、電力供給を受ければ電力需要はまかなえることが出来る。

 しかし、ここに西と東の電力会社の電力のヘルツの差がある。
 東京電力の50ヘルツ、関西電力の60ヘルツの違いである。

 このヘルツを交換する装置が、中部電力と東京電力の間にある。

            新信濃FC    60万KW
            佐久間FC    30万KW
            東清水FC    10万KW
             計       100万KW

である。

 100万KWが限界である。
 この程度の電力融通しか出来ない現状では仕方無かろう。

 今回東京電力で起きたことが、名古屋或いは大阪で生じた場合でも、逆に同じことになるのである。

 電力のヘルツ統一に莫大な金がかかることからといって反対する人が出るであろうが、今回の事故を教訓にして、日本全国同一のヘルツにして、電力の融通が自由に出来るようにしなければならない。

 東京電力の今回の「計画停電」で私が分からないのは、本当に東京電力は電力の供給不足であったのかと云うことである。私には、これは疑問が残る。

 東京電力の電力供給力は、同社のホームページ(以下同じ)によれば、平成21年で、6,448万KWである。平成22年は6,132万KWである。

 このうち、福島第一原子力発電所の供給出力は、

       1号機      46万KW
       2号機    78.4万KW
       3号機    78.4万KW
       4号機    78.4万KW
       5号機    78.4万KW
       6号機     110万KW
        計     469.6万KW

である。

 このうち4〜6号機は休止中であり、稼働中であったのは、1〜3号機であり、その供給出力電力は202.8万KWである。

 1〜3号機が稼働出来なくなったのであるから、この分の供給出力電力に対する割合は

                 202.8万KW
              ─────── =0.033・・・・・3.3%                 
                6,132万KW

である。

 過去の電力供給と需要、予備率を見ると、

       年          供給万KW        需要万KW     予備率%
    平成20年    6,346     5,891     7.7     
    平成21年    6,459     5,025     28.5     
    平成22年(計画) 6,132     5,665     8.3

である。

 予備率として、7.7%〜28.5%の余裕がある。
 平成21年は、リーマンブラザーズの倒産による景気低迷の要因が反映されていると推測され、これは特別と考えれば、8%前後の予備率がある。

 福島第一原子力発電所の1〜3号機が休止しても、それは3.3%であり、

      8.0%−3.3%=4.7%

4.7%の予備率があり、4.7%の予備率は不足電力3.3%よりも大である。このことから予備率電力を使用すれば、電力不足は生じないと予測される。

 それでもなお、いざと云う時には、中部電力或いは関西電力から、最大100万KWの直交流電力支援を得ることも可能である。

 これらを考えると、どうも今回の東京電力の計画停電には、理解しがたい。

 それに加えて、JR東日本は、自力発電所を2つ持っている。

          川崎火力発電所             655,000KW
          信濃川水力発電所   千手発電所     120,000KW
                                小千谷発電所   123,000KW
                                小千谷第二発電所  206,000KW
              合計                              1,104,000KW

 JR東日本のホームページによれば、JR東日本の2009年度の総使用電力量は61.3億KWhで、このうち自営電力として、34.4億KWh(56%)を供給している。

 JR東日本は、東京電力から全供給電力カットの通知を受け入れたとしても、56%の運行は出来るのである。

 過去のデータより推測すれば、予備率の電力の活用と中部電力或いは関西電力から、最大100万KWの直交流電力支援を得ることで、不足電力は解消出来、「計画停電」は必要無かったと私には思われるが、現実には東京電力は計画停電を行ったのである。

 平成21年の需要実績に対する配電5025万kw、平成22年供給6,132万kw、需要5,665万kwが、今回出来ないという何か私の理解を超えた要因(火力発電所の新たな故障等)があったかも知れない。

 しかし、停電が必要であったとしても、鉄道交通インフラを停めてはいけない。


 平岩外四氏が東京電力会長の時、公益事業を預かる経営者としての自分を戒めた言葉として、次の様な言葉を言っている。

 「孔子の言葉に「利によって行えば恨み多し」というのがある。現在、地球上に起こっている様々な事象は、多かれ少なかれ当事者たちが「利によって行ってきた」結果である。」と。


 鑑定コラム747) 「田中美知太郎教授はどう云うであろうか(福島第一原子力発電所事故)」


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