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122)岐阜県の林地価格

 岐阜県の山奥の標高1400メートルにある林地の評価の依頼があった。
 スキー場とゴルフ場を築造する予定でバブル時に購入したが、バブル崩壊によって、その開発の夢も破れてしまった広大な林地である。

 購入価格は馬鹿高い価格で購入したものであるが、現在の価格は、林地としての価値しかない山林である。

 林地の価値しかない土地とはいえ、その林地価格をどの様にして求めるのか。
 林地の取引事例比較法で求めるのは当然としても、林地の取引事例価格は、甚だ価格差があり、比較も簡単でなく、かなりむつかしい。
 林地の取引事例比較法を行うにしても、その他の方法として、当たらず遠からずで、ある程度の林地価格を合理的に求める方法は無いものかと考えた。

 県が発表している基準地価格の中で、「林地基準地価格」が特別に発表されている。

 岐阜県の場合、全県を網羅的に27の林地価格が発表されている。
 折角発表されているのであるから、この林地基準地価格を利用出来ないものか、27データの平成14年価格をじっと眺めてみた。27データの価格は、平方メートル当り37円から2710円と随分と価格巾がある。

 「岐阜」は字が現すごとく、険しい山が分(岐)かれ、その谷間の土砂が押しだされて、とぎれた山裾から扇状地のごとく広がるゆるやかにつくられた丘(阜)という意味の地域を指す。山脈を削りとった土砂は、揖斐、長良、木曽三川と支流によって「阜」をつくり、水は伊勢湾に注ぐ。

 低地の名古屋に向かって水は流れるが、林地の価格は、名古屋から遠ざかり、高地になるにつれて安くなっている。
 名古屋からの距離と高低差によって、岐阜県の林地の価格は形成されているのではないかと、甚だ荒っぽく判断した。

 各林地基準地の海抜高、名古屋からの距離を知ることは困難であることから、林地の所在する市町村役場の位置で、それを代替することにした。

 市町村の緯度、経度は発表されている。
 各市町村役場の標高位は、それぞれの役所に電話で聞き海抜高を聞きだした。
 名古屋市役所の高さ(海抜14m)を基点にして、岐阜林地基準地27のある市町村役場の海抜差を求める。

 距離は、名古屋市役所の緯経度と各役所の緯経度より求めることにした。
 現在は緯経度を代入すれば、地球の丸味を修正して、2点間の距離をパソコンを利用してたちどころに求めることが出来る。

 こうして例えば、岐阜林地24の丹生川村の平成14年林地基準地価格は、反当り(10アール)81,000円(平方メートル当り81円)であるが、その説明データの標高差は、丹生川村役場の標高は635mあり、名古屋市役所14mとの差の621mである。
 緯経度による距離は、名古屋市役所より115.71kmと求められる。

 名古屋市役所と丹生川村役場の三角形の断面積を求めると、
       底辺×高さ÷2=三角形の面積
であるから、
      (115.71×0.621)×1/2=35.93平方キロメートル
である。

 丹生川村の林地の価格は、平方メートル当り81円である。
 同じように岐阜林地6の土岐市の平成14年林地価格は、平方メートル当り2310円(反当り231万円)で、標高差116m、距離31.44kmより、三角形の断面積は1.82平方キロメートルである。

 即ち、各林地価格を名古屋市役所からの三角形の断面積で分析してみようと考えたのである。

 役所の位置と林地基準地の位置とは同じではないから、正確にいえば、求められた三角形の断面積は、当該林地の三角形の断面積とはならない。
 しかし、いずれの林地基準地も役所とは離れているであろうことから、それは当然の誤差と考えて、断面積は当該林地の断面積とみなし、27件の林地基準地を同じ方法で分析してみた。

 縦軸に林地価格、横軸に三角形の断面積をとって図示すると、27データはL字形曲線を描いた。

 細かく分析すると、27林地のうち大きく2つのグループに価格が分かれた。
 L字の縦の字の部分と下位の横の字の2つのグループである。
 L字形曲線の縦の字の部分に位置するもの(@のグループ)は、都市近郊林地と呼ばれる林地である。

 もう1つのL字形の下位の横の字の部分に位置するものは、より拡大してグラフ化すると、平方メートル当り120円〜220円のグループ(Aのグループ)と、平方メートル当り120円以下のグループ(Bのグループ)に分かれた。
 Aのグループは、Bのグループよりも人里に近い里山の林地と思われる。

 Bのグループは、断面積4平方キロメートルから53平方キロメートルまでにデータが散らばる。
 断面積が小さければ、林地価格は平方メートル当り100円に近くなって高くなり、断面積が大きくなるに従い、林地価格は逓減して平方メートル当り40円に近くなっている。
 このグループは、山村奥地の全くの林地価格ということとわかった。

 評価対象林地はBグループに属していると判断されたことから、Bグループのデータより回帰方程式を求める。
 回帰式は、

      X 得られた断面積 平方キロメートル
      Y 林地価格    平方メートル当り円
とすると、 
      Y=93.726−0.688X
と求められた。

 対象林地の標高位と村役場からの距離より、対象林地の村役場からの断面積を求める。それを当該村役場の三角形の断面積に加算して、対象林地の名古屋市役所からの断面積とする。

 その断面積を上記回帰式のX値に代入して、対象地の林地価格を求める。
 平方メートル当り45円程度(反当り45,000円)であった。

 岐阜県林地基準地価格は、名古屋からの距離と標高から得られる三角形の断面積と無関係でなく、L字形双曲線でかなり説明されるのではないかと推測して、山林価格にも経済合理性に裏づけられて形成されているという価格の客観性を持たせようとして分析してみた。
 この分析方法が、他県の林地価格に適用出来るかどうかはわからない。多分考え方は応用出来ると私は思うが。

 分析した岐阜県の林地のある都市は、高山市、多治見市、中津川市、瑞浪市、美濃加茂市、土岐市、関ヶ原町、春日村、根尾村、美山町、武儀町、白鳥町、高鷲村、川辺町、八百津町、白川町、東白川村、御嵩町、福岡町、明智町、小坂町、下呂町、金山町、丹生川村、荘川村、高根村、古川町の27市町村であった。

 山林の価格を平方メートル当り45円程度と求めたが、山村奥地の林地にあっては、薪炭林としての価格存在のみでなく、山林の二酸化炭素排出権の価値を無視することは出来ない。

 日本の企業は、「京都議定書」の公約によって環境への配慮を考えなければならなくなり、オーストラリア等で二酸化炭素排出権を購入している。

 しかし、日本の企業は、外国での二酸化炭素排出権購入に目を奪われるのではなく、日本の山林を二酸化炭素の排出権の対象として見直してよいのではなかろうか。

 杉、檜の二酸化炭素の吸収量を分析したものはあるが、雑木林の繁茂する山林の二酸化炭素の吸収量をはっきりと分析したものはない。
 当たらず遠からず、およそ山林1ヘクタール当り3.4トン程度と推定される。

 二酸化炭素排出権はロンドンの取引相場で、トン当り1,000円程度といわれている。

 1ヘクタールの二酸化炭素排出権価値は、
       1,000円×3.4=3,400円
である。1平方メートル当りでは、
       3,400円÷10,000平方メートル=0.34円
0.34円である。

 これを現行の国債利回り、長期債の利回り等より考えて、1.5%の利回りで還元すれば、
       0.34円÷0.015=22.7円
 二酸化炭素排出権の山林換算価格は、平方メートル当り22.7円である。

 山林の価格に占める二酸化炭素の価格は、
       22.7円÷45円=0.50
である。
 山村奥地林地の山林の価格の50%は、二酸化炭素排出権の価格ということになる。

 この他、尾根を持つ広大な山林の場合、風力発電の土地利用も可能である。

 経済中心地からの断面積で林地価格を考えるという、考え様によっては突飛と思われる考え方による林地価格の求め方を紹介し、かつ、山林の二酸化炭素排出権による潜在的価格の存在、風力発電用地の可能性と、新しい山林の価格の切り口を述べた。

 論理はかなり荒っぽいが、新しい時代を切り拓いて行くうえでの、1つの考え方のヒントになるのではないだろうかと思う。


 山林の価格についての記事は、下記の鑑定コラムにも有ります。
  鑑定コラム53) 「オオタカ保護と山林価格」


  鑑定コラム832)「六ヶ所村の山林」



 山林の二酸化炭素についての記事は、下記の鑑定コラムにも有ります。
  鑑定コラム380) 「国内で森林を所有する民間企業ベスト4」



  鑑定コラム819)「三井物産の森が二酸化炭素排出権売買に」


 

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