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1260)寺の貸地の地代は公租公課の3倍以下

 平成26年(2014年)の9月下旬、東京地裁の18階大会議室で、鑑定委員協議会が開かれた。

 年一回開かれる恒例の会議である。

 借地非訟事件を扱う裁判官と鑑定委員による課題案件の討議である。
 鑑定委員は、弁護士、不動産鑑定士、建築士等民間精通者である。

 大学の講義日で無かったことから、今年も協議会に参加した。

 所長代行、総務課長を従えて、東京地裁の所長が会議室に入場し、席に着席すると会議は始まる。

 東京地裁の所長の挨拶が最初に行われる。

 所長は荒井勉裁判官であった。

 借地非訟事件の90%は解決しており、鑑定委員の判断が、裁判官の決定を経て、国民の生活、経済活動の指針、基準になっていると述べる。

 全国の借地非訟事件のうち、半分以上を東京地裁が担っていると報告される。

 去年は小池裕所長裁判官、一昨年は岡田雄一所長裁判官の話であった。

 岡田雄一所長裁判官は、その後名古屋高裁長官への転任となった。
 小池裕所長裁判官は、その後東京高裁長官への転任となった。

 今、話をされている荒井勉所長裁判官も、いずれ高裁長官そして最高裁判事の道を歩まれるのか。

 そんな気持ちを抱いて、荒井勉所長裁判官の話を聞いた。

 所長、所長代行、総務課長が退室後、借地非訟を職掌する部統括裁判官が議長となって協議会の討議が始まった。

 検討課題は4問あった。

 そのうちの一つに、借地条件変更承諾料の問題があった。

 現行借地借家法17条1項は、次のごとく規定する。

 「建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立により、その借地条件を変更することができる。」

 この条文の「用途の変更」による場合には、どう対処すべきかということが、検討課題になった。

 用途指定が自宅利用として貸した土地が、貸家の用途の土地に変更されたり、店舗用途になった場合、どう判断処理すれば良いのかということである。

 この検討課題で、一人の弁護士が挙手して、自分の考えを述べた。

 「・・・・寺の貸地は、公租公課の3倍以下である場合には、その地代には収益性が無いと確か税法にある・・・・」

という類の発言であった。

 その発言を聞いた時、

 「お、この弁護士、良く勉強している。
 借地関係に明るそうだ。
 なかなかの弁護士だ。 ・・・・・」

と私は思った。

 そして、一つのコラム記事を思い出した。

 宗教法人の貸地の住宅地の地代が、公租公課の3倍以下の低水準の地代にあることに関して、

 「その理由は、宗教法人(公益法人)に関しては、(法人税施行規則第4条)において、住宅用土地の貸付業で収益事業に該当しないものの要件として、住宅用土地に課される固都税の3倍以下という規則があるためです。」

と記するコラムを思い出した。

 このコラム記事は、公益社団法人東京都不動産鑑定士協会研究研修委員会(委員長 杉浦綾子氏)が、平成25年3月に発行している『平成24年度 継続地代の調査分析』P23に掲載されている。

 コラム記事の著者は無記名であるため、執筆者はどなたか私には分からない。
 不動産鑑定士であることは間違いないが、税務関係の知識にも造詣が深いと思われることから、税理士の資格も持っておられる方ではなかろうかと推測する。

 お寺は、地代が公租公課の3倍以下であるならば、宗教法人の非課税の特権を受けるのであれば、貸地の地代を公租公課の3倍以下にするであろう。

 都内の借地には、寺の貸地が多い。
 このことから、コラム氏は、寺の貸地の地代が、

 「地域の地代相場を牽引する」

こともあるという。

 そしてこうも云う。

 「住宅地の公租公課の「3倍以下」という水準は、収益事業とは言えない程、「低廉な地代」という意味だったのです。」

と。

 寺の貸地の地代が何故安いのか。
 地代は公租公課の3倍と巷間何故云われているのか。
 公租公課の3倍の地代は高いのか安いのか。

 それらの原因を教えてくれたコラム氏は、識見の高い不動産鑑定士と私は思う。

 コラム氏が根拠を示した法人税施行規則第4条を、下記に記す。

(住宅用土地の貸付業で収益事業に該当しないものの要件)
第四条  令第五条第一項第五号 ヘ(不動産貸付業)に規定する財務省令で定める要件は、同号 ヘに規定する貸付業の貸付けの対価の額のうち、当該事業年度の貸付期間に係る収入金額の合計額が、当該貸付けに係る土地に課される固定資産税額及び都市計画税額で当該貸付期間に係るものの合計額に三を乗じて計算した金額以下であることとする。


法人税法施行令(昭和四十年三月三十一日政令第九十七号) 「第五条第一項第五号」
五  不動産貸付業のうち次に掲げるもの以外のもの
 イ 特定法人が行う不動産貸付業
 ロ 日本勤労者住宅協会が日本勤労者住宅協会法第二十三条第一号及び第二号に掲げる業務として行う不動産貸付業
 ハ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人が同法第二条第三項第八号(定義)に掲げる事業として行う不動産貸付業
 ニ 宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)第四条第二項(宗教法人の定義)に規定する宗教法人又は公益社団法人若しくは公益財団法人が行う墳墓地の貸付業
 ホ 国又は地方公共団体に対し直接貸し付けられる不動産の貸付業
 ヘ 主として住宅の用に供される土地の貸付業(イからハまで及びホに掲げる不動産貸付業を除く。)で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の財務省令で定める要件を満たすもの



****追記  平成27年5月23日

 日本経済新聞の2015年(平成27年)5月22日夕刊は、次の人事を伝える。

 「政府は、22日の閣議で、荒井勉東京地裁所長を高裁長官に任命することを決めた。
  これを受けて、最高裁は、福岡高裁長官に荒井氏を充てる人事を決めた。」
と。

 荒井勉東京地裁所長は、福岡高裁の長官に栄転だ。

 後任の東京地裁所長は誰になるのか。今年の秋の鑑定委員会協議会で新任の所長の話を聞くことになる。


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