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1274)立退料考3  借家権価格割合

 2014年11月9日の日曜日、神田駿河台の中央大学駿河台記念館の3階の貸教室で、朝9時半から夕方4時半までびっしり、昼食45分を除いて、鑑定のある分野の評価の研修が開催され、その研修に参加した。

 この研修に参加されていた一人の中堅の働き盛りの不動産鑑定士の方から、

 「田原さん、立退料考3はいつ書かれるのですか。」

と催促されてしまった。

 「そのうちに書きます。」

と返事はしたものの、コラム記事を待っていて下さるコラム訪問者がいることを知れば、のんびりとしている事も出来ず、立退料考3を書く。

 今迄に鑑定コラムに記した立退料考の記事は、立退料考1と2である。

 立退料考1は、裁判の明渡立退料の判例に見る立退料の金額と月額支払賃料の関係について論じた。

 立退料考2は、相続税路線価の借家権価格割合の採用は、土地価格の20%前後の価格が、借家権価格に入り込むため、求められる借家権価格は甚だ高いものとなると記した。

 では、その借家権価格割合の適正割合は、何パーセントかと云うことになる。
 立退料考3は、その借家権価格割合について述べる。

 借家権とは、借家人が賃借している建物を排他的に使用することが出来る権利である。

 借家権価格とは、その借家権から生じる価格である。

 借家権に価格が発生するのかと云うことになるが、通常は潜在化しているが、明渡立退など、借家人の不随意の立ち退きの状態になった時に、借家権価格は顕在化してくる。
 或いは、過大な一時金の授受がある場合に、借家権価格が発生する。

 長い期間に渡り賃貸借契約が続き、賃料(家賃)が低額に押さえ込まれている状態の場合、新規賃料と継続賃料の間に、開差が生じる。

 こうして形成された低い水準の継続賃料と新規賃料との開差から、借家権価格が求められる。

 このことから、新規賃料と継続賃料の各年の開差がどれ程かがわかれば、借家権価格は求められそうである。

 私は、いささか古いが、平成7年に、社団法人日本不動産鑑定協会東京会(現在の一般社団法人東京都不動産鑑定士協会の前身)が発行する「鑑定とうきょう46号」P51(平成7年1月発行)に、『継続家賃評価の粗利回りについて』という論文を発表した。36棟の売りビルのデータを、

            Y      年間支払賃料
            X1     価格
            X2     経年
                   ダミー変数 1 経年1〜3年
                   ダミー変数  2 経年4〜10年
                   ダミー変数 3 経年10年超

   (注) X1、X2の右側1、2は、下付き添え字です。小文字変換が適切に出来ませんので。

として分析した。Y、 X1、 X2の間には、

     Y=7.063+0.0402X1−2.1398 X2

重相関係数 R=0.941

の関係が認められた。

 データの売り価格の平均が5億円に近いことから、上記関係式より、5億円の価格の貸ビルを標準モデルとして、その標準モデルビルの賃料と経年の関係を分析した。

            Y    年間支払賃料  百万円
            X       経年

とすると、

    経年1〜7年      Y=25.876−0.428X  ・・・・・(1式)
        経年7年超       Y=24.7525−0.2675X ・・・・(2式)

の関係があると分析された。

 上記(1式)、(2式)より、経年と賃料の関係を分析すると、下記である。(論文では20年までしか求めていない。小数3位以下切りすて)
 経年1年の賃料を評点1.00として、賃料を評点化したのが、右欄の数値である。


賃料百万円 評点
1 25.448 1.000
2 25.020 0.983
3 24.592 0.966
4 24.164 0.949
5 23.736 0.932
6 23.308 0.915
7 22.880 0.899
7 22.880 0.899
8 22.612 0.888
9 22.345 0.878
10 22.077 0.867
11 21.810 0.857
12 21.542 0.846
13 21.275 0.836
14 21.007 0.825
15 20.740 0.814
16 20.472 0.804
17 20.205 0.793
18 19.937 0.783
19 19.670 0.772
20 19.402 0.762
21 19.135 0.751
22 18.867 0.741
23 18.600 0.730
24 18.332 0.720
25 18.065 0.709
26 17.797 0.699
27 17.530 0.688
28 17.262 0.678
29 16.995 0.667
30 16.727 0.657
31 16.460 0.646
32 16.192 0.636
33 15.925 0.625
34 15.657 0.615
35 15.390 0.604


 上記分析の各年の賃料は、新規賃料か継続賃料か、どちらの賃料であるのかと言うのが当然問題となる。そのことについては、前掲論文に述べていることから、その記述を部分的に引用する。


 「(新築建物で考えると、)経年1・2年の賃料は、建物の新築状態に近く、新規賃料といえる。
 経年7年、10年等の場合、入居者が建物の新築した時期より引き続き賃借していれば、当然賃料は継続賃料である。

 入居者全員が入れ替わって賃貸借契約したばかりというのであれば、それは新規賃料となる。

 しかし、入居者全員が入れ替わるということを採用データ36例全てに適用することは困難である。というのは、貸ビル等入居者の場合、一旦入居すると入居者は退去することはなかなかしないのが一般的である。
 部分的に入居者が変わるのが一般的である。

 経年1・2年の賃料を除いて、他の経年の賃料は、部分的には入居者の変更はあるとした状態の継続賃料と考える方が、妥当性があると思われる。

 経年1年の賃料は新規賃料、他の各年の賃料は継続賃料と考えられうるとすると、上記経年とその賃料の関係は、新規賃料と継続賃料の関係に置き換えられる。
 経年は賃貸借継続期間と置き変えられる。」


 上記賃料の経年による開差は、建物が古くなったことによる開差では無いかという疑問が生じる。その懸念は全く無くはない。

 しかし、建物が古くなることを原因とする賃料減額請求はあまり聞かない。
 建物が古くなったから賃料減額請求が裁判で認められたと云うことは、聞いたことが無い。

 借地借家法は、建物が古くなったという要因で、賃料減額請求が出来るとは書いてない。

 建物の経年劣化に伴って賃料が下がると云うことが例えあったとしても、賃料が上昇することもある。
 建物劣化による賃料減は、賃料の上昇で吸収されてしまうとも十分考えられる。

 それらを考えると、当初新規賃料で入居したが、20年間の賃借期間に、自然的に新規賃料との賃料差が24%近く生じたとする現象は、借家権価格の発生と考えざるを得ない。

 経年1年(賃借期間1年と読み替える)の賃料は新規賃料であるから、この賃料を1.00の評点として、各年の賃貸借継続期間の賃料を上記のごとく評点化する。

 各年の評点は、新規賃料(1.00)に対する割合である。
 その差が借家権価格割合と判断出来る。

 例えば、経年3年(賃借期間3年)の借家権価格割合を求めて見る。
 賃借期間3年の評点は、0.966である。

             1.00−0.966=0.034
             0.034×100=3.4%

 借家権価格割合は、3.4%である。
 以下同様にして、評点より求めた各経年の借家権価格割合の一覧を下記に記す。


評点 借家権価格割合
1 1 0.0
2 0.983 1.7
3 0.966 3.4
4 0.949 5.1
5 0.932 6.8
6 0.915 8.5
7 0.899 10.1
7 0.899 10.1
8 0.888 11.2
9 0.878 12.2
10 0.867 13.3
11 0.857 14.3
12 0.846 15.4
13 0.836 16.4
14 0.825 17.5
15 0.814 18.6
16 0.804 19.6
17 0.793 20.7
18 0.783 21.7
19 0.772 22.8
20 0.762 23.8
21 0.751 24.9
22 0.741 25.9
23 0.730 27.0
24 0.720 28.0
25 0.709 29.1
26 0.699 30.1
27 0.688 31.2
28 0.678 32.2
29 0.667 33.3
30 0.657 34.3
31 0.646 35.4
32 0.636 36.4
33 0.625 37.5
34 0.615 38.5
35 0.604 39.6
     


 上記借家権価格割合は、新規賃料に対する割合であり、土地建物の価格に対する割合でない。

 借家権価格の割合が30%(厳密には30.1%であるが、簡略化して30%とする)になるのは、賃借期間26年の時である。

 賃借期間5年とか10年では、借家権価格割合は、6.8%とか、13.3%である。

 上記割合算式を簡略化すれば、

                      賃借期間
           30%×  ─────   = 借家権価格割合                 
                       26年

と求めてもよいと思われる。

 借家権の価格割合は、税法が30%としている事から、その30%にはそれなりの根拠があって決められていることと思われ、余程のことが無い限り、新規賃料の30%を限度とした方がよいと思われる。

 次に、賃貸利益に対する借家権価格割合について、述べる。

 賃借期間26年の時、借家権価格割合は30.1%である。

 新規賃料の純賃料と必要諸経費の構成割合は、必要諸経費に減価償却費を含めて考えると、事務所ビルの場合、

        純賃料     65%
                必要諸経費   35%

である。

 借家権価格が発生し、その価格が大きくなることは、賃貸人にとっては自分の取り分である純賃料部分が減少することを意味する。

 借家権価格割合30.1%は、26年間で、新規賃料の純賃料がそれだけ少なくなることに相当する。

 30.1%が、純賃料65%に占める割合は、

                      30.1%
                   ───── = 46.31%                           
                      65%

46.31%である。

 純賃料の46.31%が、借家権価格30.1%に相当する。
 それだけの借家権価格になるには、26年かかる。

            Y   純賃料に占める借家権価格割合 %
            X      賃借期間 年

とする。XYの間には、

           Y=aX

の直線の関係式が成立すると考える。

 係数aの値は、

              46.31
         ────── = 1.781                                     
               26

である。

 関係式は、

               Y=1.781X        ・・・・・・(3式)

である。

 Xに賃借期間の数値を代入して、純賃料に占める借家権価格割合を求めると、下記の一覧のとおりである。


借家権価格割合% 小数切り捨て%
1 1.781 1
2 3.562 3
3 5.343 5
4 7.124 7
5 8.905 8
6 10.686 10
7 12.467 12
8 14.248 14
9 16.029 16
10 17.810 17
11 19.591 19
12 21.372 21
13 23.153 23
14 24.934 24
15 26.715 26
16 28.496 28
17 30.277 30
18 32.058 32
19 33.839 33
20 35.620 35
21 37.401 37
22 39.182 39
23 40.963 40
24 42.744 42
25 44.525 44
26 46.306 46


 賃借期間26年の場合、借家権価格割合は、賃貸利益の46%である。

 上記割合の求め方算式を簡略化すれば、賃貸利益に対する借家権価格割合は、

                      賃借期間
              46%×──────                                    
                         26

である。

 上記分析は、事務所ビルの賃料で分析した借家権価格割合であるが、賃貸住宅にもこの借家権価格割合は、援用できると判断する。

 例題で借家権価格を求める。

 例えば、木造2階建ての賃貸住宅があるとする。

 賃借期間は20年経っているとする。

 今、対象建物の新規賃料、或いは同等程度の建物の新規賃料は、月額20万円の家賃とする。

 この住宅の借家権価格は、次のごとく求められる。

 支払賃料での賃料収入は、

                20万円×12ヶ月=240万円
である。

 必要諸経費率を35%とする。

 純利益は、

      240万円×(1-0.35)=156万円 である。

 賃借期間は20年であるから、


           156万円×0.3562=55.57≒55万円(小数以下切り捨て)

借家権価格は55万円である。

 賃借期間26年の場合は、借家権価格は72万円となる。

 純賃料156万円の場合の、各賃借期間における借家権価格一覧を、下記に記す。


借家権価格金額万円 小数切り捨て万円
1 2.77836 2
2 5.55672 5
3 8.33508 8
4 11.11344 11
5 13.8918 13
6 16.67016 16
7 19.44852 19
8 22.22688 22
9 25.00524 25
10 27.7836 27
11 30.56196 30
12 33.34032 33
13 36.11868 36
14 38.89704 38
15 41.6754 41
16 44.45376 44
17 47.23212 47
18 50.01048 50
19 52.78884 52
20 55.5672 55
21 58.34556 58
22 61.12392 61
23 63.90228 63
24 66.68064 66
25 69.459 69
26 72.23736 72


 上記分析によって、借家権価格割合が求められた。

 純賃料からの借家権価格は、賃貸人の純賃料の減少の裏返しのものと述べたが、賃借人から考えれば、長い間賃借していることによって、賃貸人の財産の形成に寄与して来たということになる。
 財産形成に寄与したことに対する借家人への配当と云う見方も出来る。


  鑑定コラム1231)
「立退料考1」

  鑑定コラム1264)「立退料考 2」

  鑑定コラム1287)「立退料考 4 価格控除方式」


  

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