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1231)立退料考1

 明渡立退料について、2,3記事を書く。

 居宅住宅についての明渡立退料を中心として論じるが、事務所、店舗の場合も、営業補償等を加算すればほぼ同じ考えの内容である。

 明渡立退料の求め方には種々ある。

 主な手法は、

   @ 比準方式
   A 借家権価格割合方式
   B 価格控除方式
   C 公共事業損失補償方式
   D 賃料差額方式

がある。

 他にもあるが、現在の不動産鑑定評価で使用されているのは上記の5方式である。

 それぞれの方式による求め方、マイナス点等を随時述べていく。

 その前に借家権価格と明渡立退料の違いについて、簡単に述べる。

 借家権価格とは、建物賃借人の権利価格である。
 明渡立退料とは、借家権価格の他に賃借人が立ち退くための費用を含めた価格である。

 即ち、明渡立退料は、

           借家権価格+移転費用

で求められるものである。

 借家権価格とは、賃借人が建物を長く借りていることによって発生する権利価格である。

 店舗の場合には、多額な一時金の授受によって生じる場合がある。

 移転費用とは、引越に伴う運送代等の費用である。

 最初は、比準方式について述べる。

 比準方式とは、明渡立退料の実例と比較して求める手法である。
 評価案件と類似した事例が近くにあればよいが、同じ条件の事例はまず無い。
 比準方式の適用は困難である。

 この方式の代替としてよく使われるのが、支払われた明渡立退料の総額をその時に支払われていた月額賃料で割って求められる倍率である。
 「支払賃料月数倍方式」とでも呼んでおこうか。
 実例を採用していることから、比準方式の一つの手法である。

 明渡立退の裁判において、その不動産鑑定評価で、この「支払賃料月数倍方式」はよく見かける手法である。

 例えば、居住住宅の明渡立退料として、裁判で次の様な判決例がある。

 イ、明渡立退料 102万円 、月額賃料17万円
      (平成25年10月10日 東京地裁 平成24(ワ)第16515号)

 ロ、明渡立退料 150万円 、月額賃料5万円 (平成23年6月23日 東京地裁 平成22(ワ)第45846号)
 ハ、明渡立退料 200万円 、月額賃料15.3万円 (平成22年4月13日 東京地裁 平成21(ワ)第15900号)
 ニ、明渡立退料 205万円 、月額賃料10.5万円 (平成19年8月29日 東京地裁 平成18(ワ)第14874号)
 ホ、明渡立退料 12.75万円 、月額賃料の5ヶ月 (平成15年11月28日 総合規制改革会議への法務省の回答書)
 ヘ、明渡立退料 112.8万円 、月額賃料の8ヶ月 (平成15年11月28日 総合規制改革会議への法務省の回答書)

 上記事例の明渡立退料を、立退時の月額支払賃料で除した月数倍は、下記である。

    イ、102万円÷17=6ヶ月
    ロ、150万円÷5=30ヶ月
    ハ、200万円÷15.3=13.1ヶ月
    ニ、205万円÷10.5=19.5ヶ月
        ホ、5ヶ月
        ヘ、8ヶ月

 上記6事例の平均等は、下記である。

         平均ヶ月   13.6
                  標準偏差       9.67

 この平均ヶ月の月数倍を使用して、月額賃料が12万円であった場合、その明渡立退料は、

        12万円×13.6≒163万円

と求められる。

 しかし、この求められた163万円の金額が、適正な金額であるという保証は無い。

 何故かと云えば、その理由は下記である。

 標準偏差の1倍の範囲は、約68%の確率で出現する値である。
 
              下限ヶ月    13.6−9.67=3.93ヶ月
              上限ヶ月        13.6+9.67=23.27ヶ月

 4ヶ月〜23ヶ月の範囲で出現する月数倍は、約68%の確率である。
 こうした大きな巾のある中で、13.6ヶ月の月数倍の金額は何の合理性もない。

    4ヶ月の月数倍の金額        12万円×4=48万円
        23ヶ月の月数倍の金額        12万円×23=276万円

 求められた48万円も276万円の金額も、確率では出現率68%で存在することから、いずれの金額も適正であると云うことになる。

 これでは163万円が唯一適正な明渡立退料であると主張することは出来無いであろう。

 上記は居宅住居の判決例であるが、事務所、店舗の場合を考える。

 例えば、事務所、店舗の明渡立退料として、裁判で次の様な判決例がある。

 チ、明渡立退料 896.6285万円 、月額賃料26.715万円
      (平成25年9月17日 東京地裁 平成24(ワ)第5987号)

 リ、明渡立退料 6000万円、 月額賃料19万円 (平成25年1月25日 東京地裁 平成23(ワ)第30891号)
 ヌ、明渡立退料 311.73万円 、月額賃料4.8812万円 (平成24年11月1日 東京地裁 平成23(ワ)第3599号)
 ル、明渡立退料 1400万円 、月額賃料57.6219万円 (平成24年8月28日 東京地裁 平成23(ワ)第1523号)
 ヲ、明渡立退料 769.2486万円 、月額賃料19.95万円 (平成24年8月27日 東京地裁 平成23(ワ)第3604号)
 ワ、明渡立退料 300万円、 月額賃料6.2万円 (平成22年9月1日 東京地裁 平成20(ワ)第14929号)
 カ、明渡立退料 1300万円、 月額賃料63.495万円 (平成19年6月26日 東京地裁 平成18(ワ)第16802号)

 上記事例の明渡立退料を、立退時の月額支払賃料で除した月数倍は、下記である。

    チ、896.6285万円÷26.715=33.6ヶ月
    リ、6000万円÷19=316ヶ月
    ヌ、311.73万円÷4.8812=63.9ヶ月
        ル、1400万円÷57.6219=24.3ヶ月
        ヲ、769.2486万円÷19.95=38.6ヶ月
        ワ、300万円÷6.2=48.4ヶ月
        カ、1300万円÷63.495=20.5ヶ月

 上記月数倍のうち、事例リの316ヶ月は他の月数倍から桁違いにかけ離れた月数倍であり、極めて特殊な例と思われ、除外する。
 事例リを除外した6事例の平均等は、下記である。

         平均ヶ月   38.22
                  標準偏差      16.08

 この平均ヶ月の月数倍を使用して、月額賃料が50万円であった場合、その明渡立退料は、

        50万円×38.22≒1911万円

と求められる。

 しかし、この求められた1911万円の金額が、適正な金額であるという保証は無い。

 何故かと云えば、その理由は下記である。

 標準偏差の1倍の範囲は、約68%の確率で出現する値である。
 
              下限ヶ月    38.22−16.08=22.14ヶ月
              上限ヶ月        38.22+16.08=54.3ヶ月

 23ヶ月〜54ヶ月の範囲で出現する月数倍は、約68%の確率である。
 こうした大きな巾のある中で、38.22ヶ月の月数倍の金額は何の合理性もない。

    23ヶ月の月数倍の金額       50万円×23=1150万円
        54ヶ月の月数倍の金額        50万円×54=2700万円 

 求められた1150万円も2700万円の金額も、確率では出現率68%で存在することから、いずれの金額も適正であると云うことになる。

 これでは1911万円が唯一適正な明渡立退料であると主張することは出来無いであろう。

 比準方式の一つである「支払賃料月数倍方式」より求められた居宅住宅、事務所、店舗の明渡立退料は、その求められた金額で決定することは困難である。

 「支払賃料月数倍方式」の金額は、決定採用には困難ではあるが、明渡立退料の水準とはどの位であるのかを知ること、明渡立退料の判例の直近を知ることは必要であり、又大切である。

 上記分析から、居宅住宅の明渡立退料は、支払賃料の4ヶ月〜23ヶ月の間にあり、事務所、店舗の明渡立退料は、支払賃料の23ヶ月〜54ヶ月の間にあるということが立証された。適正な明渡立退料は、このヶ月の間にあるということになる。

 これを利用して評価のまず最初に、案件の支払賃料に上記の上下限の月数倍を乗ずれば、当該明渡立退料の上限価格、下限価格が分かる。これを知ることは、その後の鑑定評価分析が非常に楽になる。

    (2014年7月10日開催の田原塾7月会の講話テキストに加筆して)



***追記 平成26年10月16日 立退料考2 鑑定コラム1264を転載

 立退料考1は、裁判の明渡立退料の判例に見る立退料の金額と月額支払賃料の関係について論じた。

 両者の間には、明確な相関関係は無かったが、立退料の金額の範囲は、ある程度の範囲にあることは分かった。

 立退料の求め方には、幾つかの手法があるが、そのうちの一つの「借家権価格割合方式」と呼ばれる手法について述べる。

 相続税において使用されている手法である。

 この手法の求める算式は、下記である。
  
  (土地価格×借地権価格割合+建物価格)×借家権価格割合=借家権価格

 例えば、土地価格を15,000万円、建物価格を5,000万円、借地権価格割合を60%、借家権価格割合を30%とすると、借家権価格は、次のごとく求められる。

  (15,000万円×0.6+5,000万円)×0.3=4,200万円

 この手法による求め方は、極めて簡単で分かり安い求め方であるが、問題点が多い。

 問題点を指摘すると、下記である。

 @ 土地価格に何故借地権価格割合を乗じた価格なのか。乗じる合理的根拠は何なのか。

 A 乗じる借地権価格割合をどの様にして決定するのか。

 B 借地権価格割合の合理的根拠を実証できるのか。

 C 建物賃貸借期間2年でも、30年でも、求められる借家権価格が同じであることになるが、それには合理性が欠けるのではないのか。

 D 土地価格・建物価格をベースにして、30%の借家権価格を掛けて求めるが、土地建物価格に何故30%もの割合を掛けなければならないのか。

 E 借家権価格が発生するのは、過大な一時金の授受からも発生するが、原則として、新規賃料と継続賃料の開差が原因して、新規賃料の利益減によって生じるものでは無いのか。

 F 借家権価格の算出ベースとなるものは、土地建物価格では無く、賃料利益ではないのか。それ故、借家権価格割合を乗じる客体は、土地建物の価格では無く、賃料利益では無いのか。

 G 土地建物の価格から30%の借家権価格割合を、どの様にして求めるのか。

 H 借家権価格割合30%の算出の合理的根拠を示せ。

 I 土地価格が借家権価格に及ぼす影響が大きすぎ、その為に借家権価格が過大に求められるのでは無いのか。

 これら問題点が存在する。

 それらに対する合理的な説明がなされないと、この手法で求められた借家権価格に信頼性は無い。

 明渡立退料の裁判で、立退料が著しく過大と思われる判決が出されるのは、ほとんどが、この借家権価格割合方式によって求められたものである。

 問題の多い借家権価格割合方式による金額を、不動産鑑定評価の立退料として安易に採用するべきものでは無い。

                   (鑑定コラム1264 立退料考2を転載)



***追記 平成26年11月13日 立退料考3 鑑定コラム1274を転載

 2014年11月9日の日曜日、神田駿河台の中央大学駿河台記念館の3階の貸教室で、朝9時半から夕方4時半までびっしり、昼食45分を除いて、鑑定のある分野の評価の研修が開催され、その研修に参加した。

 この研修に参加されていた一人の中堅の働き盛りの不動産鑑定士の方から、

 「田原さん、立退料考3はいつ書かれるのですか。」

と催促されてしまった。

 「そのうちに書きます。」

と返事はしたものの、コラム記事を待っていて下さるコラム訪問者がいることを知れば、のんびりとしている事も出来ず、立退料考3を書く。

 今迄に鑑定コラムに記した立退料考の記事は、立退料考1と2である。

 立退料考1は、裁判の明渡立退料の判例に見る立退料の金額と月額支払賃料の関係について論じた。

 立退料考2は、相続税路線価の借家権価格割合の採用は、土地価格の20%前後の価格が、借家権価格に入り込むため、求められる借家権価格は甚だ高いものとなると記した。

 では、その借家権価格割合の適正割合は、何パーセントかと云うことになる。
 立退料考3は、その借家権価格割合について述べる。

 借家権とは、借家人が賃借している建物を排他的に使用することが出来る権利である。

 借家権価格とは、その借家権から生じる価格である。

 借家権に価格が発生するのかと云うことになるが、通常は潜在化しているが、明渡立退など、借家人の不随意の立ち退きの状態になった時に、借家権価格は顕在化してくる。
 或いは、過大な一時金の授受がある場合に、借家権価格が発生する。

 長い期間に渡り賃貸借契約が続き、賃料(家賃)が低額に押さえ込まれている状態の場合、新規賃料と継続賃料の間に、開差が生じる。

 こうして形成された低い水準の継続賃料と新規賃料との開差から、借家権価格が求められる。

 このことから、新規賃料と継続賃料の各年の開差がどれ程かがわかれば、借家権価格は求められそうである。

 私は、いささか古いが、平成7年に、社団法人日本不動産鑑定協会東京会(現在の一般社団法人東京都不動産鑑定士協会の前身)が発行する「鑑定とうきょう46号」P51(平成7年1月発行)に、『継続家賃評価の粗利回りについて』という論文を発表した。36棟の売りビルのデータを、

            Y      年間支払賃料
            X1     価格
            X2     経年
                   ダミー変数 1 経年1〜3年
                   ダミー変数  2 経年4〜10年
                   ダミー変数 3 経年10年超

として分析した。Y、 X1、 X2の間には、

     Y=7.063+0.0402X1−2.1398 X2

重相関係数 R=0.941

の関係が認められた。

 データの売り価格の平均が5億円に近いことから、上記関係式より、5億円の価格の貸ビルを標準モデルとして、その標準モデルビルの賃料と経年の関係を分析した。

            Y    年間支払賃料  百万円
            X       経年

とすると、

    経年1〜7年      Y=25.876−0.428X  ・・・・・(1式)
        経年7年超       Y=24.7525−0.2675X ・・・・(2式)

の関係があると分析された。

 上記(1式)、(2式)より、経年と賃料の関係を分析すると、下記である。(論文では20年までしか求めていない。小数3位以下切りすて)
 経年1年の賃料を評点1.00として、賃料を評点化したのが、右欄の数値である。


賃料百万円 評点
1 25.448 1.000
2 25.020 0.983
3 24.592 0.966
4 24.164 0.949
5 23.736 0.932
6 23.308 0.915
7 22.880 0.899
7 22.880 0.899
8 22.612 0.888
9 22.345 0.878
10 22.077 0.867
11 21.810 0.857
12 21.542 0.846
13 21.275 0.836
14 21.007 0.825
15 20.740 0.814
16 20.472 0.804
17 20.205 0.793
18 19.937 0.783
19 19.670 0.772
20 19.402 0.762
21 19.135 0.751
22 18.867 0.741
23 18.600 0.730
24 18.332 0.720
25 18.065 0.709
26 17.797 0.699
27 17.530 0.688
28 17.262 0.678
29 16.995 0.667
30 16.727 0.657
31 16.460 0.646
32 16.192 0.636
33 15.925 0.625
34 15.657 0.615
35 15.390 0.604


 上記分析の各年の賃料は、新規賃料か継続賃料か、どちらの賃料であるのかと言うのが当然問題となる。そのことについては、前掲論文に述べていることから、その記述を部分的に引用する。


 「(新築建物で考えると、)経年1・2年の賃料は、建物の新築状態に近く、新規賃料といえる。
 経年7年、10年等の場合、入居者が建物の新築した時期より引き続き賃借していれば、当然賃料は継続賃料である。

 入居者全員が入れ替わって賃貸借契約したばかりというのであれば、それは新規賃料となる。

 しかし、入居者全員が入れ替わるということを採用データ36例全てに適用することは困難である。というのは、貸ビル等入居者の場合、一旦入居すると入居者は退去することはなかなかしないのが一般的である。
 部分的に入居者が変わるのが一般的である。

 経年1・2年の賃料を除いて、他の経年の賃料は、部分的には入居者の変更はあるとした状態の継続賃料と考える方が、妥当性があると思われる。

 経年1年の賃料は新規賃料、他の各年の賃料は継続賃料と考えられうるとすると、上記経年とその賃料の関係は、新規賃料と継続賃料の関係に置き換えられる。
 経年は賃貸借継続期間と置き変えられる。」


 上記賃料の経年による開差は、建物が古くなったことによる開差では無いかという疑問が生じる。その懸念は全く無くはない。

 しかし、建物が古くなることを原因とする賃料減額請求はあまり聞かない。
 建物が古くなったから賃料減額請求が裁判で認められたと云うことは、聞いたことが無い。

 借地借家法は、建物が古くなったという要因で、賃料減額請求が出来るとは書いてない。

 建物の経年劣化に伴って賃料が下がると云うことが例えあったとしても、賃料が上昇することもある。
 建物劣化による賃料減は、賃料の上昇で吸収されてしまうとも十分考えられる。

 それらを考えると、当初新規賃料で入居したが、20年間の賃借期間に、自然的に新規賃料との賃料差が24%近く生じたとする現象は、借家権価格の発生と考えざるを得ない。

 経年1年(賃借期間1年と読み替える)の賃料は新規賃料であるから、この賃料を1.00の評点として、各年の賃貸借継続期間の賃料を上記のごとく評点化する。

 各年の評点は、新規賃料(1.00)に対する割合である。
 その差が借家権価格割合と判断出来る。

 例えば、経年3年(賃借期間3年)の借家権価格割合を求めて見る。
 賃借期間3年の評点は、0.966である。

             1.00−0.966=0.034
             0.034×100=3.4%

 借家権価格割合は、3.4%である。
 以下同様にして、評点より求めた各経年の借家権価格割合の一覧を下記に記す。


評点 借家権価格割合
1 1 0.0
2 0.983 1.7
3 0.966 3.4
4 0.949 5.1
5 0.932 6.8
6 0.915 8.5
7 0.899 10.1
7 0.899 10.1
8 0.888 11.2
9 0.878 12.2
10 0.867 13.3
11 0.857 14.3
12 0.846 15.4
13 0.836 16.4
14 0.825 17.5
15 0.814 18.6
16 0.804 19.6
17 0.793 20.7
18 0.783 21.7
19 0.772 22.8
20 0.762 23.8
21 0.751 24.9
22 0.741 25.9
23 0.730 27.0
24 0.720 28.0
25 0.709 29.1
26 0.699 30.1
27 0.688 31.2
28 0.678 32.2
29 0.667 33.3
30 0.657 34.3
31 0.646 35.4
32 0.636 36.4
33 0.625 37.5
34 0.615 38.5
35 0.604 39.6
     


 上記借家権価格割合は、新規賃料に対する割合であり、土地建物の価格に対する割合でない。

 借家権価格の割合が30%(厳密には30.1%であるが、簡略化して30%とする)になるのは、賃借期間26年の時である。

 賃借期間5年とか10年では、借家権価格割合は、6.8%とか、13.3%である。

 上記割合算式を簡略化すれば、

                      賃借期間
           30%×  ─────   = 借家権価格割合                 
                       26年

と求めてもよいと思われる。

 借家権の価格割合は、税法が30%としている事から、その30%にはそれなりの根拠があって決められていることと思われ、余程のことが無い限り、新規賃料の30%を限度とした方がよいと思われる。

 次に、賃貸利益に対する借家権価格割合について、述べる。

 賃借期間26年の時、借家権価格割合は30.1%である。

 新規賃料の純賃料と必要諸経費の構成割合は、必要諸経費に減価償却費を含めて考えると、事務所ビルの場合、

        純賃料     65%
                必要諸経費   35%

である。

 借家権価格が発生し、その価格が大きくなることは、賃貸人にとっては自分の取り分である純賃料部分が減少することを意味する。

 借家権価格割合30.1%は、26年間で、新規賃料の純賃料がそれだけ少なくなることに相当する。

 30.1%が、純賃料65%に占める割合は、

                      30.1%
                   ───── = 46.31%                           
                      65%

46.31%である。

 純賃料の46.31%が、借家権価格30.1%に相当する。
 それだけの借家権価格になるには、26年かかる。

            Y   純賃料に占める借家権価格割合 %
            X      賃借期間 年

とする。XYの間には、

           Y=aX

の直線の関係式が成立すると考える。

 係数aの値は、

              46.31
         ────── = 1.781                                     
               26

である。

 関係式は、

               Y=1.781X        ・・・・・・(3式)

である。

 Xに賃借期間の数値を代入して、純賃料に占める借家権価格割合を求めると、下記の一覧のとおりである。


借家権価格割合% 小数切り捨て%
1 1.781 1
2 3.562 3
3 5.343 5
4 7.124 7
5 8.905 8
6 10.686 10
7 12.467 12
8 14.248 14
9 16.029 16
10 17.810 17
11 19.591 19
12 21.372 21
13 23.153 23
14 24.934 24
15 26.715 26
16 28.496 28
17 30.277 30
18 32.058 32
19 33.839 33
20 35.620 35
21 37.401 37
22 39.182 39
23 40.963 40
24 42.744 42
25 44.525 44
26 46.306 46


 賃借期間26年の場合、借家権価格割合は、賃貸利益の46%である。

 上記割合の求め方算式を簡略化すれば、賃貸利益に対する借家権価格割合は、

                      賃借期間
              46%×──────                                    
                         26

である。

 上記分析は、事務所ビルの賃料で分析した借家権価格割合であるが、賃貸住宅にもこの借家権価格割合は、援用できると判断する。

 例題で借家権価格を求める。

 例えば、木造2階建ての賃貸住宅があるとする。

 賃借期間は20年経っているとする。

 今、対象建物の新規賃料、或いは同等程度の建物の新規賃料は、月額20万円の家賃とする。

 この住宅の借家権価格は、次のごとく求められる。

 支払賃料での賃料収入は、

                20万円×12ヶ月=240万円
である。

 必要諸経費率を35%とする。

 純利益は、

      240万円×(1-0.35)=156万円 である。

 賃借期間は20年であるから、


           156万円×0.3562=55.57≒55万円(小数以下切り捨て)

借家権価格は55万円である。

 賃借期間26年の場合は、借家権価格は72万円となる。

 純賃料156万円の場合の、各賃借期間における借家権価格一覧を、下記に記す。


借家権価格金額万円 小数切り捨て万円
1 2.77836 2
2 5.55672 5
3 8.33508 8
4 11.11344 11
5 13.8918 13
6 16.67016 16
7 19.44852 19
8 22.22688 22
9 25.00524 25
10 27.7836 27
11 30.56196 30
12 33.34032 33
13 36.11868 36
14 38.89704 38
15 41.6754 41
16 44.45376 44
17 47.23212 47
18 50.01048 50
19 52.78884 52
20 55.5672 55
21 58.34556 58
22 61.12392 61
23 63.90228 63
24 66.68064 66
25 69.459 69
26 72.23736 72


 上記分析によって、借家権価格割合が求められた。

 純賃料からの借家権価格は、賃貸人の純賃料の減少の裏返しのものと述べたが、賃借人から考えれば、長い間賃借していることによって、賃貸人の財産の形成に寄与して来たということになる。
 財産形成に寄与したことに対する借家人への配当と云う見方も出来る。

 純賃料に対する借家権価格割合は、企業純収益の営業権価格にも応用できるのでは無かろうかと思われる。


                   (鑑定コラム1274 立退料考3を転載)



****追記 2014年12月10日 立退料考 4 価格控除方式  鑑定コラム1287転載

 借家権価格の求め方の1つに、価格控除方式という手法がある。
 その求め方の算式は、下記である。

 (算式)
  自用の建物及びその敷地の価格−貸家及びその敷地の価格=借家権価格

 自用の建物及びその敷地を「自建」、貸家及びその敷地を「貸建」と呼び、それらの価格を「自建価格」、「貸建価格」と、以後呼ぶことにする。

 自建は、所有者自らが居住し、使用していることから、賃借人はいない。

 貸建には、賃借人がいる。
 賃借人がいることから、その貸建には借家権が附着していると判断される。

 そうすると、自建価格から貸建価格を差し引けば、貸建に附着している借家権価格が求められると云うことになる。

 例えば下記のごとくである。

 自建価格を4,800万円とする。
 貸建価格を4,200万円とする。

       4,800万円 − 4,200万円  = 600万円

600万円が借家権価格ということになる。

 上記の求め方を知れば、簡単に求められてよいではないかと思われるであろうが、この求め方には、問題点が潜んでいる。

 上記算式を見ると、あたかも自建の建物と貸建の建物が別々に存在しているごとく錯覚するが、そうでは無い。

 存在しているのは、貸建の建物一つのみである。

 ここで考えている自建価格と云うのは、貸建を自建と想定した場合の価格なのである。

 では、自建の価格をどの様にして求めるかというと、原価法、収益還元法、取引事例比較法で求めることになる。

 他方、貸建の価格は、どの様にして求めるかと云えば、これも原価法、収益還元法、取引事例比較法で求めることになる。

 求められた自建の原価法の価格と、貸建の原価法の価格に相違があるかと云えば、相違は無い。同一価格となる。

 収益還元法の価格はどうかと云えば、自建の収益価格は、第三者への新規賃貸想定を考え、新規賃料による賃料から求められた価格である。

 貸建の収益価格は、賃貸借契約が継続している現行の実際実質賃料で求められた価格である。

 自建と貸建の収益還元法の価格には、上記賃料の種類の違いから、価格差が出て来る。

 しかし、価格差がプラスばかりで無く、マイナスの価格差が出て来る場合もある。
 マイナスの価格差とは何かということになる。

 それは、継続賃料の方が新規賃料より高い場合である。
 新規賃料が、常に継続賃料より高いというものではない。

 継続賃料が新規賃料より高い場合があるのかという疑問があるかもしれないが、賃料減額訴訟が数多く引き起こされるということは、そうした事例はあると云うことを示している。

 マイナスの価格差の存在があり得ると考えると、新規賃料と継続賃料によって求められた収益価格に価格差があるから、その差が借家権価格と云う主張も無理がある。

 自建の取引事例比較法は難しくないが、貸建の取引事例比較法はその附着する借家権価格をどう判断するかで難しい。

 そもそも、類似の貸建の取引事例が近くに存在するのかということになる。
 類似の貸建の取引事例を捜すことの方が困難である。

 此処で、考えを大きく変えてみる。

 鑑定評価上の3つの価格、即ち原価法の積算価格、収益還元法の収益価格、取引事例比較法の比準価格は、鑑定評価の理論上は一致することになっている。

 とすると、求められている積算価格、収益価格、比準価格は、同一価格になると云うことから、それぞれの価格差から借家権価格が発生するという考えは、理論的にはあり得ないと云うことになる。

 自建の積算価格から、貸建の収益価格を控除して、その価格が借家権価格という主張は、理論的には無理のある主張ということになる。

 こうした問題が潜んでいることから、この控除方式の借家権価格の求め方は、やらない方がよい。

    (2014年7月10日開催の田原塾7月会の講話テキストに加筆して)



  鑑定コラム859)
「明渡し立退料の鑑定」

  鑑定コラム1264)「立退料考 2」

  鑑定コラム1274)「立退料考 3 借家権価格割合」

  鑑定コラム1287)「立退料考 4 価格控除方式」


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