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166)近親者の関係が無くなった場合の地代の東京高裁判決

 夫婦などの親密な近親者間で土地が賃貸されていたものが、相続により賃貸人と賃借人の間の親密な近親者としての関係が終了した時、あるいは土地の賃貸人が所有する個人会社が、その土地の賃借人となっていたが、相続によって賃貸人と賃借人間の実質的な同一性が消滅した時は、その時の地代は、他人の第3者間で土地を賃貸借する場合の地代の額になるまで調整しなければならないという判決が東京高裁より出された。(平成12年7月18日、平成11年(ネ)第5198号不当利得返還等請求控訴事件、原審平成11年9月27日東京地裁判決平成9年(ワ)第18453号) (「金融・商事判例」(1097-3、2000年8月15日号)

 この判決の裁判長は浅生重機裁判官である。
 平成14年10月22日の横浜の地代の判決で、地代の鑑定評価の差額配分法等の評価手法を全面的に否定した裁判官である。

 私は前記平成12年の判決を知ったのは、ごく最近(2004年5月)である。判決後4年間知らなかった。
 誠にはずかしい話である。

 家賃の鑑定評価の依頼があった弁護士に、鑑定書提出後、
 「差額配分法を否定した東京高裁の判決があります。」
と平成14年10月22日の判例を教えたところ、その判決文に浅生裁判官が先例判決として引用している3つの判決文を、その弁護士が送ってくれたのである。

 3つの浅生判決のうち、ある一つを読んでいたら、どうも記憶を蘇らせる語句が出てくる。

   「世田谷上用賀、地積910平方メートル(約300坪)、相続、土地の所有者は個人、上物の建物は土地所有者が経営する個人会社、地代の争い、上物建物は共同住宅、東京地裁・・・・」
の語句である。

 「・・・・待てよ。これは私が東京地裁で鑑定人として鑑定した案件では無いのか。」
と思い、過去の鑑定評価書発行歴の書類より鑑定書を引っ張り出して、一審の事件番号を照らし合わせた。
 鑑定書記載の事件番号と一致した。

 東京地裁で私が行った鑑定の事件が控訴され、東京高裁で判決され、その判決が「金融・商事判例」(1097-3、2000年8月15日号)に掲載されていたと初めて知った。

 一審の東京地裁は、近親者間の関係が無くなっても、土地賃貸借契約が継続しているから、継続地代と認め、地代は通常の借地権の状態の継続地代と判決した。

 東京高裁の浅生判決は、近親者間の関係が無くなれば、それは新規賃貸借関係になり、地代はその要因の地代に調整されるべきと判示した。

 私の鑑定は、賃貸借の契約に当たって権利金の授受等は一切なく、税務署は借地権の存在を認めていないことから、新規地代として評価した。
 鑑定地代は、結果としてみると、浅生判決の地代よりも、およそ8%程度高い地代水準である。

 浅生判決は、対象地上の建物が賃貸建物であることに着目し、その家賃より地代を求めて決定している。

 この求め方は、私も以前より行っていた手法である。
 但し、土地所有者と借地権者との配分のやり方は浅生判決とは全く考え方が異なる。

 地代は果実であり、元本は土地であるが、土地は建物を建てることにより収益が生まれるのであるから、その建物の家賃の存在があって地代はあると考え、地代の評価にあっては家賃収入より地代を求めてきた。
 もちろん他の地代の求め方である賃貸事例比較法、スライド法等の手法も行った。

 しかし、この家賃収益から地代を求める手法の前に大きな壁があって、求め方を妨害した。
 それは皮肉にも、全くと言っていいほどお粗末な『不動産鑑定評価基準』である。
 『不動産鑑定評価基準』の地代の求め方には、家賃収入より地代を求めて良いと書いて無い。
 家賃収入から地代を求める鑑定書を出すと、鑑定評価額に不満な側の代理人弁護士から必ずといって良いくらい、
 「この評価手法は、『不動産鑑定評価基準』に決められていない手法で、田原不動産鑑定士独自の求め方であって、規範性が無い。
 不当鑑定である。
 求められている地代を容認することは出来ない。」
という批判を浴びせてくる。

 「土地利用からの収入、家賃収入もその一つであるから、家賃収入があってこそ地代が発生するのである。
 この求め方によって地代が何故発生するのか分かるのである。
 地代を求める賃貸事例比較法やスライド法では、地代が何故発生するのか、それがさっぱり分からない。
 この求め方こそが、適正地代を説明するのに最も良い方法である。」
と、いくら説明しても聞き入れてくれない。

 その最大の理由は 、全く腹立たしいが、 『不動産鑑定評価基準』に手法が明記していないからというのが、大きなウエイトを占めている。

 非難・批判する言葉は、
 「今迄見たことが無い求め方だ。」
 「そのやり方は、他の人々が行っているのか。」
 「 『不動産鑑定評価基準』では明記されていないことから、認められない求め方である。」
 「田原不動産鑑定士の独自の求め方であり、一般に使われていない手法を認めることは出来ない。」
等である。

 要は、『不動産鑑定評価基準』に書いてない。見たことが無い。誰もやっていないからダメというのである。
 求め方が優れているのか優れていないのかというものでなく、形式論で良し悪しを判断しょうとしているのである。

 家賃から地代を求める手法を認容した地代改定の判決が出されたという事は、私の知る限りでは無い。
 ただ一つ、借地非訟事件で、相当地代を求めるのに使用された決定例がある。 増改築許可申立事件で、東京地裁決定番号400の45 平成3年8月5日(『借地非訟事件便覧』第3卷p1300-820 新日本法規)である。

 この借地非訟事件の鑑定意見書を書かれた不動産鑑定士がどなたかは、私は知らないが、勇気ある識見の高い不動産鑑定士の方であると私は尊敬したい。

 法廷の鑑定尋問で代理人弁護士より批判されるたびに、『不動産鑑定評価基準』の不備をどれ程嘆いたものか。
 監督官庁の旧国土庁(現国土交通省)の地価調査課の官僚・役人達には、この悔しさなど分からないであろう。
 『不動産鑑定評価基準』を作成した人々は、賃料について、どれ程の知識、重要性の認識を持っていたのだろうか。
 何も知らずとは言わないが、
 「役に立たない賃料の『鑑定評価基準』を作りおって」
と何度思ったことか。

 日本の裁判所でも革新的で、新しい判断を示す東京地裁ですら、私の家賃からの地代の求め方を認めてくれない事に失望して、どうせ家賃からの地代分析をしても、裁判官は取り上げてくれず、代理人弁護士から不当鑑定と批判されることにいささか嫌気がさしてきていたので、本件世田谷上用賀の事件の地代評価においては、家賃からの地代の求め方を行わなかった。
 通常の借地権のある継続地代をベースにして、新規地代という要因を分析加算して、新規地代の鑑定書を裁判所に提出した。

 そしたら、上級裁判所である東京高等裁判所の浅生裁判官が、自ら家賃からの地代の求め方を判決文に展開して判決してしまったのである。
 大胆な行為というべきか。

 東京高裁の裁判官が、家賃からの地代の求め方によって判決を書いてくれたのであるから、今迄、さっぱり役に立たなく、逆に私の鑑定の足を引っぱり、壁になっていた現行の『不動産鑑定評価基準』などは、これからは必要なくなる。

 『不動産鑑定評価基準』に手法が書いてないという批判の大きな障害は、東京高裁の判決で吹き飛ばせることが出来そうだ。
 『不動産鑑定評価基準』より、東京高裁の判決の方が、ぐっと重みがあり、抗弁力がはるかにある。

 浅生裁判官は私の鑑定書によって、権利金を支払っていない状態の適正地代はどれ程か前もってわかっていた。
 その鑑定評価額の地代の範囲内であれば、いかようにも自分の地代論を展開出来たのである。
 もし適正地代が提示されていなく分からなかったら、裁判官は適正地代の水準が何処にあるのか、さっぱりわからないのであるから、果たして今回のごとくの思い切った自説の家賃からの地代を求める手法を、判決文に展開出来たかどうか。

 浅生判決の家賃からの地代の求め方は高く評価するが、同裁判官の借地権価格は発生しないという考え方は受け入れることは出来ない。

 とはいえ、私の鑑定が一つの判例作成に関与出来たということは、不動産鑑定士としては光栄なことである。
 不動産鑑定を職にしたことの喜びを、しみじみと感じるひと時である。

 この判例はかなりの影響力のある判例と私は思う。

 中小企業の社長所有の土地に、企業が安い地代を支払って建物を建てている場合などは数多く見られる。
 その社長が亡くなった場合、土地が相続され賃借している企業と近親者間の関係が無くなった場合、その地代は権利金を支払っていない状態で賃借しているから甚だ安い地代である場合が多い。
 その場合には、権利金の支払いが無い新規地代の水準まで引き上げられるということになる。

 親子の場合でも、同じ事情が発生すれば、同様に地代の上昇が可能であるという判例である。
 これら要因のある場合には、継続地代であるからといって、周辺の借地権のある継続地代と同じ水準の地代が相当地代にはならない。

 一審の東京地裁の地代は、周辺の継続地代を相当地代とした。その額は月額240,777円である。
 控訴審の東京高裁は一審の継続地代を認めず、近親者間の関係が無くなったから、それは新規地代になると認定し、月額494,756円とした。

 このことから、権利金を支払わない新規地代と、通常の借地権のある継続地代の割合関係が判明する事になった。

    新規地代÷継続地代=494,756円÷240,777円
             =2.05≒2.0

 権利金を支払わない場合の新規地代は、継続地代の2.0倍が妥当と分かったのである。
 この割合関係の判明に、私の不動産鑑定が寄与していることは、二重の喜びである。

 家賃或いは収益からの地代の求め方に付いては、本『鑑定コラム』の23) 「ある工場地の地代」 、41) 「田の還元利回り4.2%」 の記事で少し書いてある。


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****追記 27年11月22日

 不動産鑑定基準が、平成26年5月1日に改正され、平成26年11月1日より施行されることになった。

 上記コラムで私が嘆いていた家賃より地代を求める手法が、改訂鑑定基準に取り入れられた。

 それは、「賃貸事業分析法」という新しい名前で、手法に加わった。

 その新しい手法については、26年改正国交省版鑑定基準P51に、次のごとく述べられている。

 「建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法」であると云う。

 鑑定コラム166)は、2004年(平成16年)6月9日に発表している。

 10年の時間の経過によって、家賃より地代を求める手法が公に認められた。

 裁判所の訴訟で、代理人弁護士、不動産鑑定士よりさんざん田原鑑定の地代の求め方は間違っている、鑑定評価基準違反の求め方と批判され、挙げ句に鑑定評価基準違反の鑑定を行う田原鑑定士は専門家として失格と迄云われて、悔しい思いをして来たが、その思いも無駄では無かったことになる。

 誰かが言わなければ、鑑定評価基準は改定されるものでは無い。

 私が主張したから、鑑定評価基準に「賃貸事業分析法」の手法が取り入れられたと云うつもりは無いが、手法採用には少しは影響を与えたのでは無かろうかと少しは思いたい。

 しかし、鑑定基準は「賃貸事業分析法」を新規地代の求める手法としているが、それは間違っている。新規地代に適用出来るのみで無く、継続地代にもその手法は適用出来るのである。

 新規地代、継続地代は、賃貸借契約が新規契約か継続している契約かによる地代の分類であって、収益分析法に属する「賃貸事業分析法」の地代は、契約とは別の分野に基づくものであるから新規、継続の分類とは関係無い。

 再び、裁判でそのことを主張していかなければならない。

 それを主張すると、「改訂鑑定基準は新規地代を求める手法と明記してあり、それを継続地代に採用している田原鑑定は、鑑定基準違反である」という批判を、再び同じ職業の不動産鑑定士から浴びることになろうか。


  鑑定コラム884)「定期借地権の地代は、公租公課の7倍前後」

  鑑定コラム1273)「鑑定基準に「賃貸事業分析法」という新しい地代手法が導入された」

  鑑定コラム1552)「賃貸事業分析法の具体的な求め方」

  鑑定コラム1554)「改定増補『賃料<地代・家賃>評価の実際』のはしがき」


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