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1802)借地権付建物価格を基礎価格にするビル賃料の鑑定書に出くわした

 借地権付建物の賃料の基礎価格は、自用の土地建物価格(更地価格+建物価格)であると私は思っているが、最近、借地権付建物の賃料の基礎価格は、借地権価格+建物価格であるという賃料鑑定書に出くわした。

 その賃料鑑定書の基礎価格は、

       更地価格30億円×0.8(借地権割合)+9億円(建物価格)=36億円

と求めるものであった。

 期待利回りは、借地権価格に5%の利回りを使用する。その理由として地価公示価格で採用されている土地基本利回りを標準として、借地権であること、類似不動産の取引利回り、不動産投資のリスクプレミアム、市中金利の動向等を考慮して求めたと云う。

 建物の期待利回りは、基本利回りに建物の経済的残存耐用年数を考慮した償還基金率を加味して8.2%と求めたと記す。

 私は土地の期待利回り・還元利回りは、当該不動産の属する地域が形成している賃料と、地域が形成している土地価格と対象建物価格とによって求められる総合還元利回りが分かって、その総合還元利回りから求められるものと思っているが、総合還元利回りと関係無く、当該土地の基本利回りは単独で既に決められているものであろうか。決められているとすれば、それはどのようにして決められているのか。

 地価公示で、借地権であることの期待利回りをどの様にして求めるのかが決められているのであろうか。決められているのであれば、是非その利回り及び求め方を証拠として記して頂きたい。

 「類似不動産の取引利回り」と記しているが、それは借地権付建物の不動産取引利回りということになるが、その利回りが分かれば、何も地価公示云々の記述など必要では無かろう。

 鑑定書には、借地権付建物の不動産取引利回りの具体的事例の記載など全く無かった。

 5%の期待利回りについては、文言の羅列である。文言の羅列から5%という具体的利回りをどうして求められるのか。

 比準賃料も求められていたが、積算賃料の基礎価格を、借地権価格+建物価格とするのであれば、その比準事例は、借地権付建物の賃料の事例で無ければならない。

 現実に行っている賃貸事例は、土地建物の所有者が同じ建物の賃料の事例である。

 何をやっているのかと云いたくなる。

 基礎から賃料評価の勉強をやり直した方がよいと忠告、否叱り飛ばしたくなる賃料鑑定書である。

 こうした不動産鑑定書を発行していて、今迄に他の不動産鑑定士或いは代理人弁護士から、厳しくとがめられなかったのであろうか。不思議である。

 裁判であれば、上記のごとくの批判は、もっと厳しく当然のごとくなされ、それに合理的根拠で回答しなければならないが。その経験がないので、学習する機会が無かったのであろうか。

 私が「借地権付建物の賃料の基礎価格は、自建の土地建物の価格である」と一部の人の間では田原説と囁かれる考えを公表したのは、今から15年前の2003年11月28日発表の鑑定コラム133)「借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか」においてである。

 東京地裁の法廷で、論争をくり広げた。

 それから15年経っても、未だに借地権付建物の賃料の基礎価格を、借地権付建物の価格であると信じて、家賃を求めている鑑定書が出回っていることに驚かざるを得ない。

 結局、その出くわした賃料鑑定書は、比準賃料を100とすると、積算賃料は65と求めていた。

 積算賃料と比準賃料の平均の賃料を新規実質賃料として鑑定されては、求められる賃料は、とんでもなく安い賃料となる。

 賃貸人は冗談では無いと不動産鑑定士に対して、強い不信を募らせることになろう。

 拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P39〜41(プログレス 2017年2月)に、借地権付建物の基礎価格について論じている。その一部を下記に転載する。

 『借地権上貸ビルの基礎価格は、所有権の貸ビルの基礎価格と同じ所有権土地建物価格が基礎価格である。

 借地権付建物の賃料を求める時の基礎価格について、日本不動産鑑定士協会の不動産鑑定士3次試験実務研修のテキストがどの様に変わってきたか、変遷推移を見てみる。

 平成11年(1999年)においては、基礎価格について「借地権付建物」の概念を特別に設けていなく、建物及びその敷地の賃料(家賃)を求める場合に含めて、次の様に記述する。

 「建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格」を基礎価格と記述する。(平成11年「積算法・賃貸事例比較法・収益分析法」テキストP3)

 平成15年(2003年)の同じく実務研修のテキストでは、基礎価格を複数の形態に区分する。

     イ、最有効使用が制限されている場合
     ロ、借地権付建物の場合
     ハ、以下省略

 このうち、ロの借地権付建物の場合については、次のごとく記述し、指導している。

 「借地権付建物の場合の基礎価格は、当該建物及び借地権の一体価格である。」と規定する。

 そして、基礎価格を「自用の建物及びその敷地の価格」として差し支えないという考え方もあると紹介しながらも、

 「しかし、理論的には、あくまでも借地権付建物としての基礎価格を求めた上で、これに必要諸経費を加算したものが、当該類型における積算法による試算賃料であると考えられる。」

 そして、2010年の実務修習テキストP315では、借地権付建物の基礎価格について、次の様に記述されている。

 「借地権付建物の基礎価格については、現況どおりに借地権付建物としての価格を基礎価格とする考え方のほかに、当該不動産の自用の建物及びその敷地としての価格を基礎価格とする考え方も実務上存在する。

 自用の建物及びその敷地としての価格を基礎価格とする考え方は、借地権、所有権といった敷地の利用権限の違いは、家賃形成に影響を及ぼすものではなく、家賃はあくまで賃貸部分の需給関係において決まるものであることから、これらを区別する必要はないとすることや、借家人側としては、自用地上の建物を賃借する場合と何ら変わりない効用を享受できるのであるから、基礎価格を「自用の建物及びその敷地」価格として差し支えないとすること等が論拠となっている。

 いずれの考え方に基づいて基礎価格を査定する場合においても、査定根拠について十分な説明責任を果たすことが求められる点に留意しなければならない。」

 2003年と2010年の内容を読み比べれば、扱い方が甚だしく異なっている。

 いつの間にか、「実務上存在する」という文言を入れて、私の理論が取り入れられているようである。だが未だ充分ではない。』

 その後いつの間にか、鑑定協会の実務研修のテキストから、借地権付建物を基礎価格にした家賃評価例は無くなってしまった。


  鑑定コラム639)
「借地権付建物の基礎価格」

  鑑定コラム133)「借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか」

  鑑定コラム134)「鑑定協会会長の迅速な対応に感謝する」


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