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639)借地権付建物の基礎価格

 不動産鑑定評価において「基礎価格」というのは、積算賃料を求める為の基礎となる価格をいう。

 ここで問題となる類型として、借地上の貸ビル(借地権付建物)の場合、その基礎価格は、土地部分の価格を、

    イ、借地権価格とする
    ロ、所有権価格とする
の2つの考え方がある。私はロの考えを主張しているが。

 平成11年(1999年)の不動産鑑定士3次試験実務研修のテキストにおいては、基礎価格について「借地権付建物」の概念を特別に設けていない。
 建物及びその敷地の賃料(家賃)を求める場合に含めて、次の様に記述する。

 「建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格」を基礎価格と記述する。(平成11年「積算法・賃貸事例比較法・収益分析法」テキストP3)

 平成15年(2003年)の同じく実務研修のテキストでは、基礎価格を複数の形態に区分する。

     イ、最有効使用が制限されている場合
     ロ、借地権付建物の場合
     ハ、以下省略

 このうち、ロの借地権付建物の場合については、次のごとく記述し、指導している。

 「借地権付建物の場合の基礎価格は、当該建物及び借地権の一体価格である。」と規定する。

 そして、基礎価格を「自用の建物及びその敷地の価格」として差し支えないという考え方もあると紹介しながらも、

 「しかし、理論的には、あくまでも借地権付建物としての基礎価格を求めた上で、これに必要諸経費を加算したものが、当該類型における積算法による試算賃料であると考えられる。」

と研修テキストは述べ、不動産鑑定士3次試験受験者を指導する。

 つまり、借地権付建物の基礎価格を、理論的云々と言って「自用の建物及びその敷地の価格」で行うことを否定する。

 この考え方に、真っ向から「理論的には借地権付建物を基礎価格とテキストは言うが、その理論的そのものが間違っている」と反対したのは、私である。

 借地権付建物の価格を求める時には、積算価格として、

     借地権価格+建物価格=借地権付建物価格

で良い。

 しかし、その建物の賃料を求める時には、その借地権付建物価格は基礎価格にはなり得ない。基礎価格という概念が、賃料の時に何故出てくるのかが根本的に分かっていないと反論した。

 ことのおこりは、借地上の貸ビルの賃料の争いで、東京地裁の鑑定人不動産鑑定士が、借地権を基礎価格にして賃料を求め、著しく低額な鑑定賃料を求め、大幅な減額賃料が妥当である不動産鑑定書が提出された。

 この大幅減額の賃料が正しいんだと、東京地裁指定の鑑定人不動産鑑定士と賃借人である大手不動産業者側が主張してきたのである。

 その大手不動産会社は、私も所属する社団法人日本不動産鑑定協会の幹部を輩出している会社である。

 東京地裁の裁判官は、賃料の求め方等について何も知らなく、自らが鑑定人として指定した不動産鑑定士が書いた不動産鑑定書を、ほぼ100%盲目的に信用してしまう。
 これも困った現象であるが、現実の裁判ではそうであるから仕方が無い。
 私は、裁判官は不動産鑑定評価についてもっと勉強せよと主張しているが、それに反応してくれる裁判官はあまりいないようだ。
 まあ、多くの雑多な事件を抱えている裁判官に、不動産鑑定評価について特別に勉強せよと言うことが間違っているかもしれないが。

 更地価格に借地権価格割合80%を乗じた価格を基礎価格にされては、それで無条件で約20%の家賃ダウンがされてしまう。加えて期待利回りを、今度は所有貸ビルの利回りを採用されてしまっては、純賃料はダブルの減額を受けることになる。賃貸人にとってはたまらない不動産鑑定評価である。

 私は、東京地裁の鑑定人不動産鑑定士の賃料鑑定は根本的に間違っていると、猛反発した。

 そうしたら相手側は、上記鑑定協会の実施している借地権付建物の基礎価格を規程する不動産鑑定士3次試験の実務研修テキストを証拠として提出してきた。

 借地権を基礎価格として求める手法が鑑定評価の主流の考え方で、大多数の不動産鑑定士の考え方である。田原鑑定士の考え方は独自の考え方であり、間違っていると鑑定協会の実務テキストを楯にして猛烈に反論して来た。そして、鑑定人の求め方が正しいと正当性を主張してきた。

 そのいきさつについては、鑑定コラム133)「借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか」に書いてあるから、そちらを読んで頂きたい。

 そして、2010年の実務修習テキストP315では、借地権付建物の基礎価格について、次の様に記述されている。

 「 借地権付建物の基礎価格については、現況どおりに借地権付建物としての価格を基礎価格とする考え方のほかに、当該不動産の自用の建物及びその敷地としての価格を基礎価格とする考え方も実務上存在する。

   自用の建物及びその敷地としての価格を基礎価格とする考え方は、借地権、所有権といった敷地の利用権限の違いは、家賃形成に影響を及ぼすものではなく、家賃はあくまで賃貸部分の需給関係において決まるものであることから、これらを区別する必要はないとすることや、借家人側としては、自用地上の建物を賃借する場合と何ら変わりない効用を享受できるのであるから、基礎価格を「自用の建物及びその敷地」価格として差し支えないとすること等が論拠となっている。

 いずれの考え方に基づいて基礎価格を査定する場合においても、査定根拠について十分な説明責任を果たすことが求められる点に留意しなければならない。」

と記す。

 私は、毎年実務修習のテキストを見ているわけでは無い。

 今回、積算賃料の必要諸経費の求め方で、間違った求め方をしている賃料鑑定書を3件続けて目にし、それも全く同じ間違いを犯していることから、何が原因であろうかと思い、2010年の実務修習のテキストを購入して見たのである。

 それならばついでにと、7年程前に私が借地権を基礎価格にするのは間違いと主張し、これに対して激しく田原の考え方は独自で間違いと非難され、批判された借地権の基礎価格は現在どういう取扱がなされているのかと思いテキストを見たのである。

 2010年のテキストの借地権付建物の基礎価格についての記述をみて驚いた。
 「これは何だ。」
である。

 7年前に私が主張したことを、いつの間にかそっくり認め、取り込まれているのでは無いのか。

 7年前、借地権付建物の基礎価格は借地権付建物の価格であると断定し、私の考えを頑強に拒んで否定して受講生に指導していた考え方は、一体何処へ行ったのだ。

 私の考えを取れ入れるのであれば、私の考え方の正当性を認めると一言ぐらい伝えても良いではなかろうか。
 私をさんざん悪く言っておいてと愚痴の一つも言いたくなる。

 2010年の実務修習テキストは、自用の建物及びその敷地の価格で求めよとまでは言っていない。

 未だ頑強に、私の主張・理論を認めたくない人がいるようである。

 その人々にとって、借地権付貸ビルの価格を基礎価格に採用した場合、次の問題が生じることが分かっていない。

 一つは、借地権付建物価格を基礎価格にした場合、基礎価格に乗じる期待利回りをどの様にして求めるのか。その期待利回りは借地権付建物価格に対応する期待利回りで無ければならない。

 所有ビルの期待利回りでは類型が異なるから、所有ビルの期待利回りを比較して持ってくることは出来ない。

 先にも述べたが、7年前の賃料裁判の時の東京地裁の鑑定人不動産鑑定士は、周辺の所有ビルの期待利回りを採用して賃料を求めていた。

 土地価格が借地権であることを理由にして2割引きの価格となり、なおかつ期待利回りが所有貸ビルの期待利回りを乗じて求められては、純賃料はダブルで減額数値となる。
 このように求められた純賃料を、とても適正な純賃料であると認めることは出来ないであろう。
 賃貸人にとって、その様な賃料評価をされてはたまったものでは無いであろう。

 「東京地裁の鑑定人不動産鑑定士・・・?
 裁判所の任命だと言って、何を威張っている・・・・。
 現実を全く知らずに、何が不動産の専門家か。
 ひどい人を裁判所は鑑定人として指定するものょ。
 鑑定人の考えが正しいとすれば、借地上の貸ビルの賃料は、所有ビルの賃料より2〜3割安いと言うことになるが、そんな賃貸借契約など無いし、見たことも聞いたことも無い。
 あきれるよ。全く・・・・・。」

と賃貸人は怒りを爆発させる。

 賃貸人は不動産業者である。賃貸ビルを多く持ち、貸ビル業を長くやっているのである。
 不動産業のプロである。

   もう一つは、新規賃料(正常賃料)は、積算法(積算賃料)と賃貸事例比較法(比準賃料)の2つの手法で求めよと不動産鑑定評価基準は言っている。

 積算法で、借地権付建物を基礎価格にして、期待利回りも借地権付建物に対応する期待利回りが、合理的根拠に基づいて求められて積算賃料が求められたとする。それはそれで良い。

 では、賃貸事例比較法の比準賃料の賃貸事例をどうする。

 7年前の案件では、東京地裁の鑑定人不動産鑑定士は、所有ビルの賃貸事例を採用して比較していた。

 これは間違いであろう。借地権付貸ビルの類型であるから、賃貸事例比較法で採用する賃貸事例は、借地権付貸ビルの類型の賃貸事例で無ければならないであろう。

 借地権付貸ビルの類型の賃貸事例で無ければ、事例としての類型の同一性がなくなり、事例の選択として間違っていることになろう。

 借地権付貸ビルの賃貸事例となると、そうそう存在しているものでは無い。
 近隣地域にはまず無い。遠い地域にあったとしても、地域格差が適正に行うことが出来るか疑問である。

 これらを考えると借地権付貸ビルの基礎価格を、借地権付貸ビルの価格にすることには甚だ困難がつきまとう。

 加えて言えば、更地価格に乗じる借地権価格割合の正当性を論証し、担保するものがあるのかという問題も出てくる。
 相続税の路線価の借地権価格割合を採用することなど、もってのほかである。
 借地権価格を求めるに、更地価格に相続税の借地権価格割合を乗じて求めるやり方なぞ、果たして正当な不動産鑑定評価と言える手法であるか否か甚だ疑問である。

 所有建物ビルを基礎価格にした場合、一つだけ注意することがある。

 それは必要諸経費で、土地の公租公課を計上した場合には問題は無いが、公租公課でなく地代を計上した場合に注意することがある。
 地代を必要諸経費に計上すると、積算賃料が少し高く求められることになる。
 それは、積算賃料は、

          純賃料+必要諸経費=積算賃料

の算式で求められる。

 この必要諸経費のうち

     地代 > 土地公租公課

であるため、必要諸経費は、

     地代−土地公租公課=A

Aだけ高く求められることになる。

 Aだけ必要諸経費が高いことから、地代を必要諸経費に使用した場合、求められる積算賃料は、自用の建物及びその敷地の価格から求められる積算賃料よりも、Aだけ高く求められることになる。

 このことはおかしなことであることから、このA部分は純賃料より控除しなければならない。

     純賃料−A=借地権付貸ビルの純賃料

と言うことになる。

 では、Aはどのくらいかということになる。

 地代は、一般的には土地の公租公課の3倍程度であるから、その要因を考えて、Aの値を求めて控除すれば良いのではなかろうかと思う。

    地代−1/3地代=A
    A=2/3地代

 2/3地代程度を純賃料より減額すれば良いであろう。

 今回、鑑定コラム633)「実務修習の継続賃料の求め方は間違っている」で、実務修習テキストの間違いを指摘した。
 7年前の借地権の基礎価格についての指摘と同じごとく、テキストがいつの間にか書き替えられることに果たしてなるのかどうか?


 鑑定コラム133)「借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか」

 鑑定コラム633)「実務修習の継続賃料の求め方は間違っている」

 鑑定コラム137)「平成15年不動産鑑定士3次試験問題」


 鑑定コラム640)「立体的に土地が最有効使用されていない場合の基礎価格」

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