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1835)高い地代の一時使用の賃貸土地も長期間になると借地権価格が発生する

1.はじめに

 建物所有を目的として、高い地代で一時使用として土地賃貸借契約すると、その賃貸借契約が長く続くと、借地権価格が発生する。

 一時使用の土地賃貸借契約の地代は、普通借地権の地代に比して、一時使用であるからという理由でかなり高い地代の場合が多い。

 よく見受けられるケースとしては、高度経済成長の時に、東京の地下鉄建設工事、ビル建設、高速道路建設に伴い出稼ぎ労働者を住まわせるために、建設会社が、土地を一時使用として借りて、プレハブ住宅を建てる土地賃貸借契約である。

 一つの工事が終わっても、次々と工事受注があり、職人、土木作業者を住まわせ、契約更新を重ねて20、30年も経っているごとくの一時使用の土地賃貸借契約である。

 地代は、周辺の普通借地権の数倍の高さで授受されている場合が多い。

 そうした土地に相続が発生し、相続人が地代値上げを要求して紛争が生じる。

 土地所有者は、一時使用の土地賃貸契約であるから地代は高くてもよいと主張する。

 土地を借りている賃借人は、20年余も高い地代を払っているのであるから、それで充分な利益を得ているのであるからと主張し、地代の値上げを拒否する。逆に地代減額を要求する。

2.一時とは

 こうした場合、「一時使用」の期間をどう解釈 するかが、一つの問題点となる。

 「一時」とは、短い時間を言う。

 不動産の使用において短い時間と言うのはどれ程の時間を云うのであろうか。

 借家であれば、賃貸借期間2年と言うのが多くあるから、それ以下が短い期間と判断出来るが、土地の場合は1年なのか、2年なのか、3年なのか、5年なのか、10年なのか。

 私は、借地の一時は、2年程度が一時使用の期間では無かろうかと思う。

 期間5年の一時使用の土地賃貸借契約をして、軽量鉄骨造の工事労働者の宿舎を建て、20年余も賃貸借が続いている場合、それを一時使用の土地賃貸借契約であると言うことは困難であろう。

3.借地借家法の25条

 借地借家法の25条は、一時使用の借地権について規定している。

 「第25条  第3条から第8条まで、第13条、第17条、第18条及び第22条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。」

 各条文の内容は、次のごとくである。

  3条 借地権の存続期間
  4条 借地権の更新後の期間
  5条 借地契約の更新請求権
  6条 借地契約の更新拒絶の要件
  7条 建物の再築による借地権の期間の延長
  8条 借地契約の更新後の建物の滅失による解約

  13条 建物買取請求権   17条 借地条件の変更及び増改築の許可   18条 借地契約の更新後の建物の再築の許可   22条 定期借地権   23条 建物譲渡特約付借地権   24条 事業借地権

 上記借地借家法25条は、「臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には」第3条〜第8条等の条文を適用しないとある。

 即ち、一時使用が適用されるのは、「臨時設備の設置その他」である。

 ここで云う「その他」とは、その文言の前の「設備の設置」の類という意味と解される。

 軽量鉄骨建物を設備設置の類と見ることは、困難である。軽量鉄骨建物は建物であり、設備では無いと私には判断される。

4.具体例

@ 土地の所在・種別・面積

   所 在      都区内
   種 別      宅 地
   面 積          1,041u(315坪)

A 地上建物の状況

   寄宿舎  軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
        延床面積 350u  平成8年築

 未登記建物である。

 建物の固定資産税・都市計画税が課税されており、課税上の固定資産税評価額は、3,029,600円である。

B 土地賃貸借契約の概要

 イ、賃貸借人 省略

 ロ、借地契約の類型  一時使用賃貸借

 ハ、目 的 作業員宿舎の敷地

 ニ 期 間等

  ・始 期      平成8年6月11日
  ・期 間      平成24年9月1日より平成29年6月10日
  ・賃 料      平成8年6月11日  月額 500,000円

 ホ 一時金の授受 な し

5.一時使用の借地権と判断することの困難性

 上記具体例では、軽量鉄骨建物であるが、建設工事作業者の宿舎として利用されている。

 前記したごとく、軽量鉄骨2階建の建物を「臨時設備の設置その他」の「その他」と見ることは困難である。「臨時設備の設置その他」の主たるものは「臨時設備」であり、建物を臨時設備の類に属するその他のものと見ることは出来ないと私には思われる。

 一歩譲って、2階建の軽量鉄骨造建物を、臨時設備の設置であると仮に考えたとして、その建物で寝起きし、食事し、生活出来る建物が期間2年で使え無くなり、居住の目的を果たさなくなる建物となるであろうか。

 その建物を建てる側も、建設作業員の宿舎とは言え、その建物が2年の寿命の建物として資本投下して建てるであろうか。

 その建物が、期間更新されて賃借期間が21年も経過して利用されているとすれば、21年間を「一時」の期間と見ることは出来ないであろう。

 そうすると、具体例の建物土地には、同法25条の適用は出来ないことになる。

 上記事項の判断から、具体例の土地賃貸借契約を一時使用の土地賃貸借契約とは認めることは困難である。普通土地賃貸借と判断される。

5.当該建物の所在する区の平均支払地代

 不動産鑑定士で税理士の団体である日税不動産鑑定士会が、3年に一回、23区の地代を調べている。

 その調査結果を『継続地代の実態調べ』という書籍で発表している。

 それによれば、当該建物が所在する区の住宅地の地代は、下記である。単位坪当り円である。

                                                       
         平成 6年1月1日     593円
                       9年1月1日          631円
                      12年1月1日          694円
                      15年1月1日          590円
                      18年1月1日          695円
                      21年1月1日          735円
                      24年1月1日          561円
                      27年1月1日          462円

6.高い支払地代と適正地代の差額は権利価格を形成する

@ 対象地の地代は、月額500,000円である。

 土地面積は、315坪である。

 坪当り地代は、

                       500,000円
                     ─────  =1,587円/坪                      
                        315坪

1,587円である。

 平成9年の所在区の住宅地の地代は、坪当り631円である。

 具体例の地代は、

                       1,587円
                      ─────  ≒ 2.52                           
                         631円

所在区の平均地代より2.52倍の高い地代である。

 具体例の賃貸借契約では、一時金、即ち、権利金は授受されていない。

 1、2年の短期間で、この現象が終了しているならば、借地権利価格の発生とは考え難いが、この状態が平成8年〜平成29年まで20年以上も続いているということになると、平均地代を超過している支払地代は、借地権利価格を形成している金額と考えざるを得ない。

A 平成9年の支払地代と所在区平均住宅地代の1坪当りの差額は、

                       1,587円−631円=956円

956円である。

 1年間では、

                      956円×12ヶ月=11,472円

である。

 具体例の面積は315坪である。

 年間の支払超過額は、

                  11,472円×315坪=3,613,680円

である。

 平成8年と平成29年は、6ヶ月分の月数として数える。

 平成8年7月〜平成29年6月までの21年間の超過支払額は、下記計算一覧表より、76,195,350円である。


月額支払地代 a 日税所在区平均地代 b 差額 c=a-b 月数 d 年額 e=c×d 面積 f 年間総額 g=e×f
平成8 1587 593 994 6 5964 315 1878660
平成9 1587 631 956 12 11472 315 3613680
平成10 1587 631 956 12 11472 315 3613680
平成11 1587 631 956 12 11472 315 3613680
平成12 1587 694 893 12 10716 315 3375540
平成13 1587 694 893 12 10716 315 3375540
平成14 1587 694 893 12 10716 315 3375540
平成15 1587 590 997 12 11964 315 3768660
平成16 1587 590 997 12 11964 315 3768660
平成17 1587 590 997 12 11964 315 3768660
平成18 1587 695 892 12 10704 315 3371760
平成19 1587 695 892 12 10704 315 3371760
平成20 1587 695 892 12 10704 315 3371760
平成21 1587 735 852 12 10224 315 3220560
平成22 1587 735 852 12 10224 315 3220560
平成23 1587 735 852 12 10224 315 3220560
平成24 1587 561 1026 12 12312 315 3878280
平成25 1587 561 1026 12 12312 315 3878280
平成26 1587 561 1026 12 12312 315 3878280
平成27 1587 462 1125 12 13500 315 4252500
平成28 1587 462 1125 12 13500 315 4252500
平成29 1587 462 1125 6 6750 315 2126250
総計             76195350


B 借地期間を30年とすると、今後9年の期間がある。

 平成28年の年間4,252,500円の超過支払地代が9年間継続するとすると、

                 4,252,500円×9=38,272.500円

である。

 30年間に支払う超過支払額は、

                               76,195,350円
                          +   38,272,500円
                       ──────────                         
                          計  114,467,850円

となる。

C 平成8年の具体例の土地価格

 具体例の近くに、次の地価公示価格がある。

  ・公示地番号    ***
  ・所 在      ****
  ・価格時点          平成8年1月1日
  ・価 格            u当り354,000円

 上記地価公示地と具体例とは距離的にあまり離れていなく、地域性も類似していることから、この価格を具体例の土地価格とすれば、

                354,000円×1,041u≒368,514,000円

である。

D 借地権価格割合(借地権割合)

 平成8年より借地して、30年間に支払う超過支払地代は、114,467,850円である。

 これは権利価格の支払と考えられる。

 平成8年の更地価格に占める割合は、

                      114,467,850円
                     ──────── = 0.310                      
                      368,514,000円

31%である。

 具体例近傍の地価公示地の平成8年の価格は、u当り354,000円であったが、平成29年1月1日の価格は、u当り175,000円である。大巾に土地価格が下落している。

                                                           
         175,000円×1,041u≒182,175,000円

 平成29年の地価公示の価格から検討した具体例の土地価格は、182,175,000円である。

 この価格に占める超過支払地代の価格割合は、

                      114,467,850円
                     ──────── ≒ 0.63                       
                       182,175,000円

63%である。

 現行支払地代が今後9年間続くとすれば、その超過支払地代は、借地権利金相当の金額であると充分判断出来る。

 つまり、現行の高い支払地代には、借地権利金相当が分割払いで支払われていると判断せざるを得ない。

7.高い地代の場合の借地権価格の発生の鑑定論文

 高い地代の支払いは、借地権価格の発生となる。

 そのことを論じている書物がある。

 『賃料評価の理論と実務』(大野喜久之輔共著、住宅新報社、平成18年10月7日)P82の第3章差額配分法(担当執筆者不動産鑑定士小林昌三氏)に次のごとく記されている。

 地代が坪1万円と地代が余りにも高額であることから、著者の小林昌三氏は、

 「地代があまりに高額であることについては、現在地代として支払われている額の中に借地権設定の対価を長期分割払いしている額も含んでいるものと解釈することがむしろ自然である」

と述べる。

 そして、小林昌三氏は、借地権価格をどの様に判断したかについては、次の通り述べる。

 「契約締結時の実際支払賃料には、当該権利金の分割払いに相当する額が含まれていたと考えられると解釈して、契約締結時の基礎価格(更地価格)に借地権割合を乗じて、借地権価格としこれに、金利5%、30年の年賦償還率を乗じてこの額をもって毎年分割して支払う借地権設定の対価とした。」

 不動産鑑定士小林昌三氏は、高い地代を授受する場合、それは貸主の貸し得の発生となる。その場合、貸し得を与えた賃借人側に、貸し得に相当する権利価格が発生すると認めている。

8.結論

 上記検討分析より考えると、具体例の借地権は、仮に当初は一時使用賃貸借の借地権であったかもしれないが、

   イ、延床面積350uの寄宿舎建物の利用である。
   ロ、土地利用期間が21年間続いている。

ことから判断すると、一時使用賃貸借の借地権とは認めがたい。

 加えて、多額な地代名目の金銭の授受の長期継続により、借地権価格付着の一般の借地権の平均地代との差額は、期間30年間では、一般的な借地権の権利金相当の金額となろうとしている。この現象は、借地権利金の分割払いともみなしうる。

 つまり、仮に当初は一時使用賃貸借の借地権であったとしても、21年間の高い支払地代の授受の賃貸借の継続により、現在は借地権の権利金に相当する金額が授受されつつあることから、権利金を授受した一般的借地権に変化したと判断できる。

 高い地代の授受の場合、借地権者側に借地権価格が発生するという論文もある。

 これらより、具体例の案件は権利金授受のある借地権と同じと判断出来る。
 

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