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1877)大竹市大願寺公有地売却価格最高裁判決

 鑑定コラム1876)で、平成30年11月6日の最高裁の大竹市大願寺公有地売却価格判決について述べた。

 私が記述したのは、判決文の中のほんの一部である山崎敏充裁判官の補足意見の部分について述べたものである。

 不動産鑑定基準は、不動産鑑定で求める価格について次のごとく云う。

 「不動産鑑定評価とは、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格を、不動産鑑定士が的確に把握する作業」(平成26年改正鑑定基準国交省版P3)であると云う。

 鑑定評価で求める価格は市場価値の価格という。市場性を反映した価格でなければならないと云う。

 ではその市場性の反映はどこで行うかと云えば、鑑定基準は市場性の価格反映について次のごとく云う。

 「鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整等における各種判断において反映すべきである。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P20)

 鑑定評価の求める価格の市場性の反映は、手法の適用、価格の調整等の評価のあらゆるところで市場性を「反映すべき」と鑑定評価基準は云っている。

 市場性の要因は、価格に反映させなければならないのである。

 鑑定評価の価格に市場性を反映させると云うことは、逆に云えば、市場性から遊離した価格を求めてはいけないということになる。

 つまり市場性を反映させるということは、それは不動産市場で売れる価格を求めよということである。

 鑑定評価の求める価格は、市場で売れる価格でなければならない。勿論適正な価格であると云うことは論ずるまでも無い。


 判決本文は膨大な内容であり、読むのにかなりの時間と労力を必要とするが、熟読されて不動産鑑定の重要性とその社会的影響を今一度考えられることを願う。


 判決文の云う原審判決は、控訴審の判決である。

 その控訴審の内容については、不動産鑑定士の「不動産実務Tips」氏が、同氏のブログに「広島県大竹市の大願寺造成地売却問題で、市長に1億5千万円の返還請求命令」(2018年4月19日)の課題で詳しく述べられている。事件内容を知るのに参考になると思われる。

 アドレスは、下記である。

   
https://reatips.info/daiganji-henkanseikyu/


 以下に平成30年11月6日最高裁第三小法廷の判決文を記す。

       

****


 平成29年(行ヒ)第226号 違法公金支出損害賠償請求事件
 平成30年11月6日 第三小法廷判決

主 文

 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,被上告人らの控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

理 由

 上告代理人山本英雄ほか及び同緒方俊平ほかの各上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

1 本件は,大竹市(以下「市」という。)による市の土地の譲渡につき,市の住民である被上告人らが,当該譲渡は地方自治法237条2項にいう適正な対価なくしてされたにもかかわらず,同項の議会の議決によるものでないことなどから違法であるとして,同法242条の2第1項4号に基づき,上告人を相手に,当時市長の職にあった者に対して損害賠償請求をすること等を求める住民訴訟である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 市は,平成3年,市の財産である,市内の大願寺地区に所在する原判決別紙物件目録記載の土地(面積6万2000.43u。以下「本件土地」という。)
から大竹港埋立ての土砂を採取し,跡地を住宅団地とする計画を立てた。
 市は,平成10年12月,本件土地の宅地造成事業を開始したが,同15年,需要が少ないとの理由から上記事業を断念した。また,市は,平成17年,本件土地を工業用地に転換する事業計画を立てたが,その事業も実現しなかった。
 市は,平成20年2月,学校を統合して大願寺地区に移転し,本件土地を住宅地とする計画を表明した。

(2) 市は,本件土地を売り払うこととし,平成20年10月17日,本件土地につき,不動産鑑定士による同月1日時点の鑑定評価額と同額である10億5400万円を予定価格として公表し,一般競争入札に付したが,申込みをした者はいなかった。その後,市は,同年11月14日,本件土地につき,予定価格を非公表とし,再度一般競争入札に付したが,申込みをした者はいなかった。

(3)ア 大願寺地区には,平成25年4月までに小中学校を移転することとされていたところ,市議会においては,防犯や児童生徒の安全のため,同地区に小中学校を移転するまでに本件土地が住宅地とされている必要があるという意見があった。

 イ 市は,平成22年秋,本件土地について3回目の売却手続の開始を計画したが,その際,本件土地の一部についてでも買受けの応募があれば売払いが可能となるようにするため,応募者から土地利用計画等の事業実施に係る提案を受け,これらを審査して事業実施者を選定する手法であるプロポーザル方式を採用することとした。
 市は,同年9月17日,市が市議会の重要議題について全議員に対して議題の説明を行う会議である議員全員協議会において,大願寺地区に移転する小中学校の配置計画を説明したほか,本件土地の売払いについて,前回の入札時と異なり,一括ではなく4万u以上を購入するという条件で購入を希望する面積及び価格の提示を受けること,予定価格は非公表とすること,プロポーザル方式によって相手方を選定する方針であること等について説明した。

 ウ 市不動産評価審議会は,平成22年9月,本件土地の現在の価格として,その評価額を4万uにつき5億0566万円とした。
 市は,同月30日,本件土地について,予定価格を非公表として,プロポーザル方式により事業実施者を公募し,同年10月18日,本件土地が大規模であり近隣に類似する適切な取引事例が存在しないとして取引事例比較法による比準価格を採用せず,事業実施者が本件土地の造成及び販売に要する期間を考慮して5年後の価格を予測することとして,その予定価格を4億5657万1166円(4万uにつき2億9458万円)と定めた。

 エ 平成22年10月26日,上記ウの公募に対して1社から応募があったが,購入を希望する面積は4万u,価格は2億5800万円であり,予定価格を約12.4%下回っていた。その頃,本件土地から約200mの距離にある大手企業の社宅跡地が売却され,宅地化されるという報道があり,上記応募をした会社は,同年11月24日,上記応募を撤回した。

(4)ア 市は,本件土地について4回目の売却手続を行うこととし,不動産鑑定士に対して本件土地の鑑定評価を依頼し,平成23年10月1日時点の鑑定評価額を7億1300万円とする鑑定書の提出を受けた(以下,この鑑定評価額を「平成23年鑑定評価額」という。)。市不動産評価審議会は,同年11月4日,本件土地の評価額を同額とした。そして,市は,同月8日,議員全員協議会において,本件土地につき4回目の売却手続を行うことを説明した。

 イ 市は,平成23年11月9日,本件土地について,売払い最低面積を4万u,予定価格を非公表として,プロポーザル方式により事業実施者を公募し,同月18日,本件土地全体の予定価格を,前記(3)ウの公募の際とおおむね同様の理由により,市不動産評価審議会の評価額より低い3億3777万8342円(以下「本件予定価格」という。)と定めた(以下,この公募を「本件公募」という。)。

 ウ エポックワン有限会社及びアオイ不動産有限会社(以下「エポックワンら」という。)は,平成23年11月25日,共同で,本件土地全体を3億5000万円で買い受け,宅地及び施設用地とするという内容で本件公募に応募した。他に応募した者はいなかった。

 エ 市長であったA(以下「A市長」という。)は,平成23年12月5日,市を代表して,エポックワンらとの間で,大竹市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例(昭和39年大竹市条例第19号。以下「本件条例」という。)3条の規定による市議会の議決を得ることを停止条件として,本件土地全体を3億5000万円(以下「本件譲渡価格」という。)で譲渡する旨の土地売買仮契約(以下「本件仮契約」といい,これによる本件土地の譲渡を「本件譲渡」という。)を締結した。

(5)ア 市は,平成23年12月8日,議員全員協議会において,市大願寺地区造成土地売払い事業の事業実施者にエポックワンらを選定し,本件土地全体を3億5000万円で売却する予定であることを説明した。その際,市は,本件土地を売り渡す必要性と,本件予定価格が数年後の地価を想定して決定されたことについて説明した。

 イ 市は,本件譲渡価格が地方自治法96条1項6号にいう適正な対価の範囲内であるという認識の下に,平成23年12月12日,同項8号の委任を受けた本件条例3条に基づき,本件土地をエポックワンらに対し3億5000万円で売り払う旨の議案(以下「本件議案」という。)を市議会に提出し,市議会は,生活環境委員会に審議を付託した。
 市は,同日,生活環境委員会において,本件土地の鑑定評価額が7億円であること,本件予定価格が3億3777万8342円であることを説明し,同委員会は,本件議案を可決する議決をした。

 ウ 市議会は,平成23年12月15日の本会議において,生活環境委員会の審査報告を基に,質疑及び討論を行い,本件議案を可決する議決(以下「本件譲渡議決」という。)をした。
 上記本会議において,出席した議員からは,本件土地の鑑定評価額は1坪当たり約3万8000円であるところ,本件譲渡価格では1坪当たり約1万8000円で売却することになるなどの発言があった。

(6) 市議会は,平成24年10月4日,決算特別委員会を開催し,平成23年度土地造成特別会計決算(以下「本件決算」という。)の審議において,本件譲渡に関し,@本件土地の適正な対価は平成23年鑑定評価額であるか否か,A本件譲渡が適正な対価なくしてされるものである場合に議会の議決があったか否か等について質疑及び討論を行った。
 決算特別委員会は,本件決算を不認定とする議決をしたものの,市議会は,平成24年12月14日,本会議において,本件譲渡による収入3億5000万円を含め,本件決算を賛成多数により認定する議決(以下「本件決算議決」という。)をした。

3 原審は,上記事実関係等の下において,本件譲渡は適正な対価なくしてされたものであるとした上,地方自治法237条2項の議会の議決の有無について要旨次のとおり判断して,A市長に対する損害賠償請求をすることを求める被上告人らの請求のうち本件土地の適正な対価の下限であるという金額4億9910万円と本件譲渡価格との差額である1億4910万円に相当する部分を認容した。
 本件議案については,市議会において,本件譲渡価格が平成23年鑑定評価額よりも低額であることが示された上で審議がされ,これを可決する本件譲渡議決がされたものである。しかし,本件議案が,地方自治法96条1項6号ではなく,同項8号の委任を受けた本件条例3条に基づいて提出され,可決されたものであることに加え,本会議や生活環境委員会における審議の内容をみても,平成23年鑑定評価額が適正な対価であることや,本件譲渡価格が適正な対価を下回ることを前提として譲渡の必要性及び相当性に関する討議がされたとは認められず,せいぜい代金額を含めた本件譲渡の妥当性についての議論がされたにとどまる。したがって,本件譲渡議決につき,本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを行うことを認める趣旨の議決がされたと評価することはできず,同法237条2項の議会の議決があったということはできない。
 また,本件決算議決についても,本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを行うことを認める趣旨の議決が事後に行われたものということはできない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 地方自治法237条2項は,条例又は議会の議決による場合でなければ,普通地方公共団体の財産を適正な対価なくして譲渡し,又は貸し付けてはならない旨規定しているところ,同項の趣旨は,適正な対価によらずに普通地方公共団体の財産の譲渡又は貸付け(以下「譲渡等」という。)がされると,当該普通地方公共団体に多大の損失が生ずるおそれや特定の者の利益のために財政の運営がゆがめられるおそれがあるため,条例による場合のほかは,適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性と妥当性を議会において審議させ,当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断に委ねることとした点にあると解される。そうすると,同項の議会の議決があったというためには,財産の譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要するというべきである(最高裁平成15年(行ヒ)第231号同17年11月17日第一小法廷判決・裁判集民事218号459頁参照)。もっとも,当該譲渡等が適正な対価によるものであるか否かは評価に関わる事項であって見解が分かれることもあり得るところ,当該譲渡等が適正な対価によるものであるとして議案が提出された場合であっても,議会において,これが適正な対価によらないものであることを前提として審議した上これを認める趣旨で当該議案を可決することに制約が存するものではないから,そのように提出された議案を可決する議決であるからといって,直ちに同項の議会の議決でないということはできないし,また,当該譲渡等が適正な対価によらないものである旨の議会の認識を明らかにした上でされた議決でなければ,同項の議会の議決でないということもできない。
 そして,上記のような同項の趣旨に鑑みると,当該譲渡等が適正な対価によるものであるとして普通地方公共団体の議会に提出された議案を可決する議決がされた場合であっても,当該譲渡等の対価に加えてそれが適正であるか否かを判定するために参照すべき価格が提示され,両者の間に大きなかい離があることを踏まえつつ当該譲渡等を行う必要性と妥当性について審議がされた上でこれを認める議決がされるなど,審議の実態に即して,当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを認める趣旨の議決がされたと評価することができるときは,同項の議会の議決があったものというべきである。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,市議会は,本件譲渡が適正な対価によるものであるとして提出された本件議案について,生活環境委員会において,本件土地の鑑定評価額が7億円であることや,本件予定価格が3億3777万8342円であることの説明を受け,本会議において,議員から平成23年鑑定評価額と本件譲渡価格とでは坪単価が大きく異なることを指摘する趣旨の発言があった上で,本件譲渡議決をしたというのである。そうすると,市議会は,本件議案について,相応の根拠を有する平成23年鑑定評価額と本件譲渡価格との間に大きなかい離があることを踏まえて審議し,これを可決する議決をしたものということができる。
 さらに,市は,学校を統合して大願寺地区に移転し,同地区に所在する本件土地を住宅地とする計画を表明しており,市議会においては,防犯や児童生徒の安全のため,同地区に小中学校が移転する平成25年4月までに本件土地が住宅地とされている必要がある旨の意見があったところ,本件土地については,2回一般競争入札に付されたが申込みはなく,その後に実施された公募においては大幅に減額された予定価格を下回る応募しかなかった上,その応募も撤回されたのであり,更にその後,本件公募によりエポックワンらが事業実施者として選定されたという経緯を経て本件仮契約の締結に至ったものである。そうすると,市議会においては,本件土地を譲渡して住宅地とする必要があったにもかかわらず,容易に本件土地を売り払うことができなかったという経緯を踏まえて本件議案の審議がされたものというべきであり,本件譲渡が適正な対価によらずにされたものであったとしてもこれを行う必要性や妥当性に係る事情が審議に表れているということができる。
 本件譲渡議決に係る審議の実態がこのようなものであったことは,本件決算を認定する本件決算議決がされたことに照らしても明らかである。
 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件譲渡議決に関しては,市議会において,本件譲渡価格に加えて平成23年鑑定評価額を踏まえた上で,本件譲渡が適正な対価によらずにされたものであったとしてもこれを行う必要性と妥当性についても審議がされており,審議の実態に即して,本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを行うことを認める趣旨でされたものと評価することができるから,本件譲渡議決をもって,地方自治法237条2項の議会の議決があったということができる。

(3) そして,本件譲渡の方式等についてみても,前記事実関係等に照らせば,プロポーザル方式により本件公募をし,エポックワンらを選定した経緯等に関し,A市長が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことをうかがわせる事情は存しない。
 したがって,本件譲渡に財務会計法規上の義務に違反する違法はなく,A市長は,本件譲渡に関して,市に対する損害賠償責任を負わないというべきである。

5 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,上記部分に関する被上告人らの請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は相当であるから,上記部分につき,被上告人らの控訴を棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官山崎敏充,同宮崎裕子の各補足意見がある。

 裁判官山崎敏充の補足意見は,次のとおりである。

 私は,本件譲渡について地方自治法237条2項の議決があったということができるとする法廷意見に賛成するものであるが,本件の事実関係に照らし,そもそも本件譲渡が適正な対価なくしてされたといえるかという点についていささか疑問を感じるので,若干の意見を付加しておきたい。
 本件譲渡に至った経過をみると,市は,本件土地を対象とした宅地造成事業等の計画が頓挫した後,この地区に学校を統合移転し,本件土地を住宅地とする計画を表明して,その売却を試みたが,2度にわたって実施した一般競争入札による売却が不首尾に終わった結果を踏まえ,平成22年10月に行われた3回目の売却に際し,本件土地の住宅地造成と販売の事業実施者を公募するプロポーザル方式を採用することとし,最低売却面積を4万uとし,市の不動産評価審議会による評価額が4万uで5億0566万円であったにもかかわらず予定価格(非公表)を本件土地全体で4億5657万余円(4万uにつき2億9458万円)と定めて公募を実施したところ,1社が応募したものの,その応募価格は4万uで2億5800万円と上記予定価格を約12.4%下回るものであり,しかも,その応募はその後近隣の大手企業の社宅跡地の売出しの報道がされた後に撤回されたというのである。そして,その結果を受けて更に平成23年11月に至って4回目の売却が試みられ,その際,不動産鑑定士による平成23年鑑定評価額が7億1300万円であったものの,予定価格(非公表)を3億3777万8342円と定めて前回同様のプロポーザル方式による本件公募が行われ,応募価格3億5000万円をもって唯一公募に応じたエポックワンらに対し,同価格をもって本件譲渡が行われたというのである。
 実際に行われた以上のような売却の経過と状況に鑑みると,上記3回目の売却手続が実施されてから1年程度経過したにすぎず,その間に不動産市況が大きく変化したような事情も認められない本件譲渡の時点においては,平成23年鑑定評価額7億1300万円あるいはこれに近似する価格をもって本件土地の売却が可能であったというには大きな疑問があり,現に,本件公募に対しては応募価格3億5000万円をもってエポックワンらが唯一応募したにすぎないのである。上記鑑定評価額は,現実に4回にわたって実施された売却手続の状況からうかがえる本件土地をめぐる不動産市況の現況,特に具体的な立地条件を踏まえた本件のような大規模土地の需要の状況,宅地造成とその分譲販売という事業が抱えるリスクなどが的確に反映されたものか疑問を挟む余地があり,それが不動産鑑定評価基準に則って算出されたものであり,その過程に特段の不合理な点が指摘できないとしても,上記の諸点を十分に考慮に入れた別異の評価もあり得たのではないかと思われる。他方,本件公募に際して定められた予定価格は,市の担当部局において,鑑定評価額を参照しつつ,本件土地が大規模であることから取引事例比較法による比準価格を採用せず,また,事業実施者の本件土地の造成及び販売に要する期間を考慮して5年後の価格を予測することとして算出されたものであって,鑑定評価額を大きく下回るものの,それ相応の理由に基づくもので恣意的に定められたものとはいえないし,その価格水準においても,3回目の売却手続における唯一の応募でその後撤回された応募者の提示した応募価格と対比して,低廉にすぎるということはできない。 そして,本件譲渡がプロポーザル方式による公募で競争性のある手続によって行われたもので,その過程において競争が実質的に制限されていたとか手続の公正が人為的に歪められていたような事情はうかがえないことからは,その対価は市場価格を相当程度反映したものという見方ができるように思う。以上の点を勘案すると,本件譲渡に係る対価が平成23年鑑定評価額の約50%にとどまる価格であったとしても,それを適正なものではなかったということには疑問を禁じ得ない。
 以上述べたとおり,本件譲渡が適正な対価なくしてされたという点について疑問を感じるところであるが,その旨の原審判断を誤りと断ずるには,不動産鑑定評価の妥当性や鑑定評価額と時価との関係をどのように考えるべきか,また,財産の譲渡が競争性のある手続で行われたことをその対価が適正であったか否かという点についてどのように考慮するべきかなど,なお十分な議論と検討を必要とする事項があるように思われる。冒頭述べたとおり,本件譲渡について地方自治法237条2項の議決があったということができ,その理由によって本件譲渡に違法はないという結論が導けるので,本件においては上記の点を取り上げることは控え,若干の意見を述べて他日の議論を期することとしたい。

 裁判官宮崎裕子の補足意見は,次のとおりである。

 私も,法廷意見に賛同するものであるが,若干の意見を付加する。不動産の鑑定評価額は不動産鑑定評価基準に則り,一定の条件を満たすことを前提としてされる評価額として意味があることは認められるものの,そのことと公募で競争性のある手続によって行われる不動産売却における対価の適正性との関係については,考えるべき点が多々あると思われる。本件の事実関係の下においては,本件譲渡価格が平成23年鑑定評価額の約50%にとどまるとしても,それを適正なものでなかったということには,私も山崎裁判官と同様の疑問を持つところであり,本件においては上記の点を取り上げることは控えるという点も含め同裁判官の補足意見に同調する。
 (裁判長裁判官 山崎敏充  裁判官 岡部喜代子  裁判官 戸倉三郎  裁判官 林 景一  裁判官 宮崎裕子)


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