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2273) 建築工期72〜108ヶ月のマンション建設の建築工期は妥当か

                                        不動産鑑定士
                                        桐蔭横浜大学法学部客員教授
                                              田原 拓治

1.はじめに

 東京のど真ん中の埋立地で、RC造マンション1棟〜7棟を建てる計画で、その建築工期が72ヶ月〜108ヶ月を想定した不動産鑑定書に出会った。

 鑑定手法は開発法のみによる鑑定評価である。

 マンションが5街区で、各街区1棟〜7棟と云うけれども、各街区に建設されるマンションの建築工期が72ヶ月〜108ヶ月という建築工期が必要であろうか。検討して見る。

2.国土交通省の建築着工統計調査

 国土交通省が年間建築した建物の統計を発表している。『建築着工統計調査』と呼ばれるものである。

 同調査の中に、「編」と云うのか「章」と云うのか報告文書区分名が分からないが、「20」番目に、『構造別、工事期間別/建築物数、床面積』という統計がある。

 同調査の2020年の発表統計によれば、鉄筋コンクリート造の建物の建築面積ゾーンごとの最も多い棟数の建築工期月数は下記である。

      建築延床面積u          建築工期

100〜149 6〜8ヶ月 (559棟/1131全棟数) 150〜299 6〜8ヶ月 (830棟/1466全棟数) 300〜699 6〜8ヶ月 (1014棟/2101全棟数) 700〜1299 6〜12ヶ月 (810棟/1990全棟数) 1300〜2999 13〜18ヶ月 (1023棟/2127全棟数) 3000〜4999 13〜18ヶ月 (414棟/827全棟数) 5000〜9999 13〜18ヶ月 (187棟/495全棟数) 10000以上 25ヶ月以上 (112棟/269全棟数)

 鉄筋コンクリート造の建物で最も多い建物は、1300u〜2999uの規模の建物である。

3.累乗近似式

 上記各面積区分の最高値を「未満」の数値で置き換え(10000以上はそのまま「以上」とする)、かつ最高工期(10000以上は最頻度)を記すと、下記である。

     建築延床面積u             建築工期ヶ月

150(未満) 8 300(未満) 8 700(未満) 8 1300(未満) 12 3000(未満) 18 5000(未満) 18 10000(以上) 25
Y: 建築工期ヶ月 X: 建築延床面積u

として、XYの関係をグラフにし、その近似式をエクセルで求めると、下記である。




建築工期と建物面積




 エクセルによる累乗近似式は、
             Y=1.5086Xの0.2959乗
                決定係数:0.902
である。(注)当ホームページの言語表示では指数表示が出来ない為、「Xの0.2959乗」とする。

 決定係数は0.902である事から、上記関係式の信頼度は高い。

4.累乗近似式の当てはまり具合

 上記累乗近似式の当てはまり具合を見ると下記である。

     建築延床面積u             建築工期ヶ月       理論ヶ月

150(未満) 8 6.64 300(未満) 8 8.15 700(未満) 8 10.48 1300(未満) 12 12.58 3000(未満) 18 16.12 5000(未満) 18 18.75 10000(以上) 25 23.02

 上記累乗近似式のグラフから、延床面積が増えれば、建築工期は増加するが、その割合は逓減し、建築工期は余り大きく増加しないことが推定され、累乗近似式のグラフは、そのことを示している。

5.延床面積10,000uを越える分譲マンションの建築工期

 『建築着工統計調査』では、延床面積10,000uを越える建築工期については、10,000u以上の最頻値は25ヶ月としか記されていない。区分面積ごとの工期の記述は無い。それ故、10,000uを越える場合は、別途関係式を作成して分析せざるを得ない。

6.10,000uを越える大規模の分譲マンションの実例工期と最高階数

 都内の大規模の分譲マンションの着工年月と竣工年月(一部建築中もあり、建築中は竣工予定月)より、実例工期を計算する。

 データは、ネットの「超高層マンション・超高層ビル」(https://bluestyle.livedoor.biz/)のホームページよりデータを選択する。データ一覧は下記である。


番号 建物名称 所在 土地面積 u 建物延床面積 u 階数 階 建築工期 ヶ月 竣工年月
1 シティタワー大井町 品川区大井1丁目 6253.02 60631.30 29 33 2019.10
2 パ−クシティ武蔵小山ザタワー 品川区小山3丁目 7418.67 75000.01 41 43 2019.05
3 シティタワーズ東京ベイ 江東区有明2丁目 32627.38 159366.91 33 33 2019.07
4 ザパークハウス高輪タワー 港区高輪1丁目 2000.79 17781.40 26 22 2021.10
5 千住ザタワー 足立区千住1丁目 3419.52 24300.00 30 42 2020.12
6 プラウドタワー亀戸クロス 江東区亀戸6丁目 22989.26 155221.25 25 42 2022.01
7 プランズタワー豊洲 江東区豊洲5丁目 18152.97 136271.01 48 37 2022.01
8 パークコート渋谷ザタワー 渋谷区宇田川町 4565.00 61491.62 39 51 2020.09
9 ブランズタワー芝浦 港区芝浦2丁目 4456.49 50842.82 32 37 2021.12
10 ミッドタワーグラント 中央区月島1丁目 5883.19 53678.25 32 45 2020.10
11 ローレルタワールネ浜松町 港区海岸2丁目 2142.34 20512.46 23 30 2019.12


7.重回帰式

 上記データより、
             Y: 建築工期 ヶ月
             X1:  延床面積 u
             X2: 階数
として、重回帰分析する。

 求められた重回帰式は、
             Y=2.50713 + 0.00000426X1 + 0.457965X2
         重相関係数 0.437
                  標準偏差 8.07(ヶ月)
である。

 11件の分譲マンション例の延床面積17,700u〜159,300uの建築工期は、22ヶ月〜51ヶ月である。平均は37.72ヶ月である。

8.東京オリンピック晴海選手村の延床面積、最高階数、開発期間(建築工期)

 東京オリンピック晴海選手村の各街区の延床面積、最高階数、開発期間は、下記である。

                    延床面積       最高階数     開発期間

  街区5-3    115,764.50u 17階   80ヶ月 街区5-4 107,599.73 18 96   街区5-5 227,870.11 50 108   街区5-6 211,199.98 50 108   街区5-7  29,500.00 14 72

9. 各街区の適正な開発期間(建築工期)

 上記8の各街区の延床面積、最高階数の数値を、求められた重回帰式のX1、X2に代入して、各街区の開発期間を求めると、下記である。( )内は過大の期間

            街区5-3            30.78ヶ月       (49.22ヶ月)
      街区5-4            31.20           (64.8ヶ月)
      街区5-5            46.37           (61.63ヶ月)
      街区5-6            46.30           (61.70ヶ月)
      街区5-7            28.93           (43.07ヶ月)

10.出現確率

 開発期間72ヶ月〜108ヶ月の出現確率を求めると、下記である。


街区 開発期間 ヶ月 適正ヶ月 標準偏差 Z値 修正Z値 確率 2倍 出現率
5-3街区 80 30.78 8.07 6.09913259 6.1 2.83E-10 5.66E-10 百億分の5.6
5-4街区 96 31.2 8.07 8.029739777 8 計算不能    
5-5街区 108 46.37 8.07 7.63692689 7.6 6.32E-15 1.264E-14 百兆分の1.2
5-6街区 108 46.3 8.07 7.645600991 7.6 6.32E-15 1.264E-14 百兆分の1.2
5-7街区 72 28.93 8.07 5.337050805 5.3 5.8E-08 1.16E-07 1千万分の1.1


 開発期間72ヶ月〜108ヶ月の発生する確率は、1千万分の1〜百兆分の1を越える確率であり、信頼性ゼロである。Z値1.96は発生率5%であり、この1.96のZ値が信頼性の限度である。

11.まとめ

 上記より、対象開発街区は、43ヶ月〜64ヶ月の過大な水増し開発期間の計上がなされている。

 計画されている72ヶ月〜108ヶ月によって求められるZ値は5.3〜8であり、これら開発期間の発生する確率は1千万分の1〜百兆分の1を越える確率であり、信頼性ゼロである。

 開発法は開発期間の間、一定の利益率で割り戻して価格時点の価格を求める手法であり、開発期間が長ければ長いほど、割引率は高くなる。このことは土地価格が甚だ安く求められると云う結果を招く。

 本来であれば、建築工期は28ヶ月〜46ヶ月であるのを、72ヶ月〜108ヶ月にしている事は、作為的に建築工期を長くして土地価格を安くしたと云わざるを得ない。

 作為的では無いと主張されるであろうが、同様な延床面積1万u〜16万uの11件の分譲マンション建設例の平均建築工期は、37.72ヶ月であり、これから見ても72〜108ヶ月の建築工期は異常の建築工期と云えよう。

 72ヶ月〜108ヶ月の出現率が1千万分の1〜百兆分の1を越える確率であり、その様な出現率の開発期間を、適正開発期間であるとして採用した不動産鑑定評価の質そのものが問われよう。

以 上


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