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88)味の素が動き出している

 味の素の企業構造改革と経営方針の方向性が、はっきりと内容を伴って、具体的に姿を現して来た。
 味の素が動き出している。

 岐阜県中津川市にある包装材料子会社で、年間売上高52億円のエースパッケージを大日本印刷に売却した。(味の素HPプレスリリース 2002.11.25)
 味の素は、包装材料の製造販売より撤退する方針を示した。

  一方、冷凍食品部門の強化の為に、日本酸素の食品子会社のフレックという冷凍食品会社を買収した。(同HP 2002.11.8)
 フレックは、日本酸素が食品事業部門を分社化して設立した会社である。

  最近の商法の矢継ぎ早の改正には愕くばかりである。
 この商法の改正により、企業の分割、分社、子会社化が非常にやりやすくなった。
 この商法の考えられない勢いの改正は、何を意味するのであろうか。それは、減損会計・時価会計をはっきりと意識していることの結果では無かろうか。
 企業の事業部門を分社して独立会社にし、その後、売却する事が出来る様になった。
 今後、この手法による企業の経営の合理化が、より一層行われるものと思われる。

 日本酸素は減損会計を意識してかどうか知らないが、新しい商法改正を利用して、事業の分社化という行動をとった。
 そして、その日本酸素の分社化された食品子会社を、味の素が企業買収した。

  当の日本酸素は冷凍食品の子会社を分社化して味の素に売却する一方で、日立製作所から深冷式空気分離プラント事業部門の企業買収を行った。(2002.12.25 日本酸素HPプレスリリース)

 深冷式空気分離プラントとは、プレスリリースによれば、空気をマイナス200度近くまで冷却すると、気体ごとに沸点が違うため酸素・窒素・アルゴンといった産業ガスが分離する。この気体の分離する性質を利用して産業ガスを採取する装置をいう。高純度の産業ガスを必要とする製鉄・化学・半導体事業には欠かせないものという。
 日立製作所は、特許を持つこの技術を、あえて手放したのである。日立製作所も自身の企業経営の合理化の為に、貴重な技術をも手放したのである。

  話が横道にそれた。味の素の話に戻る。
 味の素は冷凍食品部門の強化の為に、日本酸素の食品子会社を買収した。
 その味の素はもう一つの企業戦略の方向性を示す行動をとった。
 医薬品の輸液、臨床栄養医薬品メーカーの清水製薬とその関係会社であるシミズメディカルを260億円で買収した。(味の素HPプレスリリース 2003.1.18)

 輸液、臨床栄養医薬品とは、病院に入院すると点滴を24時間受ける生活をさせられることがあるが、その点滴液のことであろうか。
 味の素が買収した清水製薬と、その関係会社であるシミズメディカルの売上高は、次の通りである。

 
                             売上高         経常利益
  清水製薬             20,232百万円   1,721百万円(2002年3月期)
    シミズメディカル       1,490百万円     △440百万円(2001年12月期)
       計                 21,722百万円     1,281百万円
 買収価格の経常利益に対する割合、即ち投下資本利益率は、
      1,281百万円÷26,000百万円=0.0496≒0.05
5%である。
 投下資本を回収するには20年かかることになる。
 これが製薬会社の企業売買価格の相場であろうか?。
 味の素の2002年3月の決算書(連結)を見ると、次のごとくである。

       売上高         943,540百万円
             経常利益         56,217百万円
       有形固定資産           293,414百万円

 味の素の経常利益率は
       56,217百万円÷943,540百万円=0.0595≒0.06
6%である。

 味の素が買収した清水製薬とその関係会社の投下資本利益率は5%である。この割合より見れば、投下資本利益率5%が確保され、経常利益率6%と大差ないことから、買収価格の260億円は妥当ではないかという見方があろう。
 しかし、売上高と投下資本とは、別物で同じ物ではない。
 医薬品業は儲かる事業かもしれないが、売上高217億円の会社を売上高以上の260億円で購入しようとするのである。
 信じがたい行為ではなかろうか。

 味の素の売上高に対する有形固定資産の割合は、
       293,414百万円÷943,540百万円=0.310
である。
 即ち、有形固定資産の3.2倍(1/0.31=3.22)が売上高である。
 有形固定資産は簿価であり、工場土地・建物は昔の取得価格で低額であって時価を必ずしも反映していないという反論はあると思われる。しかし、もし味の素が時価会計を取り入れているとすれば、その反論は否定されることになる。

 買収する清水製薬は、製薬業界に属する企業である。
 製薬業界の雄である武田薬品工業の、売上高と有形固定資産を連結決算書(2002年3月期)でみると次のごとくである。
       売上高         1,005,060百万円
             有形固定資産        213,385百万円
  武田薬品は1兆円企業であるが、有形固定資産の売上高に占める割合は、
       213,385百万円÷1,005,060百万円=0.212
0.212である。

 これは田原共著 『民事再生法と資産評価』  P218(清文社)で私が述べている「工場の土地・建物の価額は、概観的には売上高に0.23を乗ずれば、おおよその価額を把握することが出来る」ということがほぼ立証される割合である。

 武田薬品の有形固定資産が、売上高の何倍かという売上高倍率で考えれば、
              1/0.212≒4.7倍
である。
 即ち、有形固定資産の4.7倍が売上高である。

 味の素は自社の有形固定資産が、売上高の1/3の割合関係にあるにもかかわらず、清水製薬及びその関係会社を、それら会社の売上高以上の価格で購入しようとする。
 この買収価格は確かにいささか高すぎる。
 しかし逆に、それだけ味の素は医薬品事業に参入したいための強い意志の表れと判断される。
 味の素は、清水製薬の買収を医薬品事業参入のチャンスとみて行動したのではなかろうか。ある意味では、企業生命を懸けた行動とも受け取れる。

 不動産鑑定でいえば「事情補正」の買い進み価格ということになるが、味の素のその買い進みの事情は、半端なものではないということである。

 味の素の所有するアミノ酸の特許期限が関係しているかどうか分からないが、味の素は、
    1.アミノ酸を中心としたファインケミカル事業
    2.冷凍食品事業
    3.医薬の輸液臨床栄養医薬品
の3事業に企業戦略の舵を切ろうとしているように見える。

 味の素の冷凍食品事業の強化という行動によって、冷凍食品業界の再編成が行われるのではなかろうか。
 そして又、万有製薬がアメリカメルクの子会社になったごとく、日本の製薬会社の合併、外資の買収がより活発化するのではなかろうか。
 スイスに本社を置く世界第7位の製薬会社のノバルティスファーマのトーマス・エベリングCEOは1年程前にはっきりと言った。「日本の企業や技術を買いに来たんだ」と(日経2001.12.29)。

 減損会計によるのか時価会計によるのか知らないが、今迄ののんびりしていた商法改正と異なり、最近の急激な凄まじい勢いの商法改正の動きに伴って、企業が事業所の工場土地建物をひっくるめて分社、事業譲渡、株式交換、企業買収しようとしている。
 この動きに不動産鑑定士はどの様に対応していくのか。

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