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61)地代と公租公課倍率法

 面識の無い弁護士から突然次のごとくの電話が入った。

 「最高裁判所に上告するについて、田原さんの書いた地代と公租公課倍率についての論文を証拠として提出したい。弁護士会の図書館を探しても見あたらない。ついてはその論文の掲載されている雑誌の名前と発行日、発行所を教えて頂きたい。手許にあれば、掲載雑誌の表紙と奥付のコピーをいただけないか」と。

 論文そのものは既に手に入れているようであった。
 最高裁判所に訴えるのに私の論文を証拠として提出することを聞いて、私の方がびっくりしてしまった。

 平成6年に『東京鑑定会報』第44号p73(社団法人日本不動産鑑定協会東京会、現社団法人東京都不動産鑑定士協会)の会報誌に、「地代と公租公課の関係について」という論文を発表した。

 地代と公租公課の間には密接な関係が有るのではないかと考え、平成2年〜4年のデータを使い分析してみた。

 地代と公租公課の間には、
      XY=a
   (Xは公租公課、Yは公租公課倍率、aは定数)
の関係式が成立すると見いだした。

 具体的な公租公課倍率として、

        公租公課  坪円                公租公課地代倍率
      90円〜120円                   5倍
     120円〜180円                   4倍
     180円〜240円                 3.5倍
     240円〜380円                 3.0倍
     380円〜880円                 2.5倍
     880円〜1,800円               2.3倍
     1,800円〜4,000円             2.2倍
     4,000円以上                  2.1倍
と分析した。

 公租公課倍率法とは、その土地の固定資産税、都市計画税の月額の金額にある倍率を乗じて、地代を求める手法である。
 例えば対象地の公租公課が月額坪当り500円であったとすれば、
    500円×2.5=1,250円
坪当り1,250円が地代ということである。

 8年前の発表論文であり、使用したデータも平成2〜4年の物である。約10年前のデータであり、その後の公租公課の上昇もあり公租公課倍率は低下しているかもしれない。
 しかし、最高裁判所に上告する地代の事件は、昨日、今日の時点の地代では無く相当以前の時点のものと思われる。データ分析頃の時点とすれば、論文は充分使えると思われる。

 貸地業も企業経営の一つである。  企業経営であるからには売上(地代)と経費(公租公課)の間には、経済合理性が必ず存在しているハズである。そう考えれば地代の公租公課倍率法は、合理的な経験則としてそれなりの説得力ある分析手法では無いかと思う。
 
 しかし、公租公課倍率法は学問的要素が無いと批判し、加えて簡単過ぎるためか鑑定評価の手法とは認め難いと主張する不動産鑑定士はいる。
 私は、もの事簡単なものほど優れた物は無いと思っているが。

 公租公課倍率法にデータの蓄積と分析、土地貸付経営と経費からの企業会計からのデータ分析を加えて、学術レベルまで分析手法を引き上げれば、説得力ある優れた評価手法になるのではないかと思う。

 公租公課倍率法という手法については苦い思い出がある。

 「公租公課倍率法は『鑑定評価基準』に明記されていない評価手法であるから認めることの出来ない手法である。認められない手法を使用している田原鑑定は不当鑑定だ」と法廷の鑑定人尋問で非難されたことには参った。

 公租公課倍率法は、差額配分法を私的自治の原則を無視して賃料を求める(この恐るべき『鑑定評価基準』違反の求め方については後日述べたい)という様な、常識はずれの明らかな『鑑定評価基準』違反の求め方では無い。
 地代を決めるときに当事者が日常的に使用している決め方である。裁判所の調停事件においても使われている手法である。
 しかし、法廷の証人台で、

「『不動産鑑定評価基準』違反で不当鑑定だ」

と一方の代理人弁護士から非難、罵倒されることは身にこたえる。

 今迄にも年に一・二回ぐらい面識のない弁護士から、同じ論文のコピーを欲しいという要望はあった。その都度送付していた。

 最高裁判所に私の論文が証拠として提出されても、名の通った学者の論文ではない。無視される可能性が大である。
 それでは面白くない。
 裁判は喧嘩である。
 喧嘩であるからには勝たなければならない。
 私の論文を証拠として提出してくれるのである。こちらも手助けしたくなる。わずかでも勝つ可能性を見いだせないかと、我田引水もいい処であるが、ホームページに 「ある裁判官の訃報」 として安岡満彦元最高裁判事と私の鑑定の関係を述べたコラムを載せている。
 「この「ある裁判官の訃報」というコラムを論文に付けて最高裁に提出したら」とかすかな希望を持って弁護士に伝えた。

 今年(2002年)7月に亡くなった安岡判事の葬儀には、現最高裁の判事達は全員必ず参列しているハズである。先輩裁判官の名前が出てくる文章を目にすれば、少し心証をよくして、論文を取り扱って頂けるのではないかという甚だ手前勝手な淡い目論見である。果たして旨く行くかどうか。

 地代裁判についての貢献度から云えば私の論文など微々たるものである。
 日本不動産鑑定協会の副会長及び東京会の会長を務められた横須賀博先生が主宰する日税不動産鑑定士会の『継続地代の実態調べ』の貢献度は特筆すべきものである。地代評価をやってみれば、その有用性、影響力、存在感をすぐ実感する。
 横須賀博先生がその調査報告書を継続的に出されたことによって、不動産鑑定士が得た信用と地位の向上の利益は多大なものである。


 公租公課倍率法に関して、本ホームページの『鑑定コラム』に次の記事があります。

 鑑定コラム   239) 「公租公課倍率法・平成17年」

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