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1556)帰属家賃を控除した不動産業の国内総生産はどれ程か

 内閣府発表の平成26年の確定した国内総生産(GDP)は、486兆9388億円である。

 その内、不動産業の総生産は、56兆3068億円である。

 56兆3068億円の内訳は、

     
      住宅賃貸業    49兆2554億円
      その他不動産業   7兆0514億円

である。

 不動産業の国内総生産に占める割合は、

                   56兆3068億円
               ─────────  = 0.1156≒0.116                
                  486兆9388億円

11.6%である。

 この不動産業の中の住宅賃貸業49兆2554億円の中には、帰属家賃が含まれており、実質的な不動産業の総生産はもっと小さいと、鑑定コラム1533)「11.7兆円 不動産業新規貸出額(平成28年6月)」で述べた。

 では、含まれている帰属家賃を控除したあとの実質の不動産業の総生産はどれ程なのか。

 それを検討する前に、帰属家賃とはどういうものか知っておく必要がある。

 帰属家賃について、簡単に述べる。

 帰属家賃とは、自分所有の住宅に住んでいる人は、その家を借りて住んでいると仮に考え、家賃が発生しているとみなす。そのみなし家賃を帰属家賃と云う。

 つまり、自宅所有者は、住宅賃貸という不動産業を営んでいるとみなすのである。

 では何故、帰属家賃という考えが必要なのかということになる。

 住居には、貸家住宅と所有自宅とがある。

 貸家は、資産として存在する一方、住宅賃貸サービスを生産している。

 一方、所有自宅(以後「持家」と呼ぶ)は、それを建設・購入することは資産の取得であり、消費支出ではない。しかし、持家から居住というサービスを受けている。

 同じ居住サービスを受けている貸家、持家の両者を、同等に扱うためには、持家を貸家とみなして、賃貸サービスを受けていると考える。

 これが帰属家賃の必要性である。

 持家の居住サービスを帰属家賃と考えることにより、住居が貸家から持家にかわったとしても、家賃の支払いがなくなるが、帰属家賃の支払いが生じるため、国内総生産の金額には変更が生じない。

 不動産業の国内総生産の金額の中に潜り込んでいる帰属家賃の国内総生産は、どの様にして求めるのか。

 その求め方の前に、帰属家賃(帰属家賃生産額)の求め方について述べる。

 帰属家賃生産額は、政府が5年毎に調査している住宅・土地統計調査の全国平均の貸家・貸間の床面積u当り賃料の数値を基本とし、これに空室を除く住宅の延べ床面積を乗じて求める。

 基本年以降は、家賃は消費者物価指数の民営家賃を使用し、建物面積は建築着工統計、建物滅失統計から得られる総建築面積を使用して、帰属家賃を求めていると聞く。

 帰属家賃(帰属家賃生産額)は、平成26年確定国内総生産において、46兆6279億円と求められている。

 繰り返すが、上記金額は帰属家賃であるが、それは帰属家賃生産額であり、つまり賃料の売上高の性格のものであり、帰属家賃の国内総生産の金額ではない。

 では、帰属家賃の国内総生産(純帰属家賃)は、どの様にして求めるのか。

 求め方は2つある。

 1つは、

 
   帰属家賃の国内総生産=帰属家賃−中間投入

の算式による求め方である。

 しかし、中間投入の金額が非公表であるため、上記算式から帰属家賃の国内総生産を求めることは出来ない。

 もう1つは、次の算式である。

     帰属家賃の国内総生産=持家の営業余剰+(生産・輸入品に課される税−補助金)

 持家の営業余剰は発表されているが、(生産・輸入品に課される税−補助金)の金額が非公表であり、この算式からも帰属家賃の国内総生産を求めることは出来ない。

 非公表の数値は、内閣府の国内総生産の計算に携わる人しか知ることが出来ない。

 それ故、それ以外の人は、帰属家賃の国内総生産の金額を計算することが出来なく、計算出来ないことから知ることが出来ない。

 何ともおかしな国内総生産の金額の公表である。

 帰属家賃の国内総生産の金額が一般に分かると、具合が悪いことでもあるのであろうか。

 帰属家賃が潜り込んで水増しされた不動産業の国内総生産の金額をありがたがって使用して、不動産業の業績、国内総生産の貢献度を論じても、その説明、論理には説得力がない。

 帰属家賃が潜り込んで水増しされた不動産業の国内総生産の金額では、不動産業の国内総生産を把握する場合には、甚だ不便である。

 内閣府が公表しないのであれば、自分で違う方法で求めて見る事にする。

 未公表のデータを持っている内閣府から見れば、結果は間違っていると云われるかもしれないが、それも仕方ない。そうした結果であることを了承しておいて欲しい。

 ものの書き物によれば、帰属家賃の国内総生産は、次の算式で求められると云う。

    帰属家賃の国内総生産=帰属家賃生産額−(中間投入(修繕費)+固定資本減耗+純間接税+住宅ローン支払い利子+支払地代)

 上記算式を見ると、それは不動産鑑定評価で通常行っている不動産価格を求めるのに使用する収益還元法の純収益の求め方に良く似ている算式である。

 帰属家賃生産額は、賃料収入である。

 中間投入等は、その賃料を得るために必要とする経費である。

 上記算式の用語は、収益還元法の次の必要諸経費の用語に置き換えることが出来る。

 帰属家賃生産額は、上記でも述べた賃料収入であり、売上高である。

 中間投入(修繕費)は、()で修繕費とあるから、賃貸不動産の修繕費である。

 固定資本減耗は、減価償却費である。

 純間接費は、固定資産税・都市計画税である。

 住宅ローン支払い利子は、借入金利子である。

 支払地代は、地代・家賃であるが、その場合は家賃のウエイトが多いことから採用するには不都合であり、採用しないこととする。
 
 上記項目を検討すれば、賃貸不動産の必要諸経費の項目数値が利用出来そうである。

 帰属家賃は、持家を賃貸して得られるみなし家賃である。そして持家所有者を不動産賃貸業者とみなしている。つまり自宅所有者が不動産賃貸業を営業していることを考えている。

 それならば、信頼出来るデータとして、中小企業庁が発表している平成26年度『中小企業実態基本調査』の中の不動産賃貸業・管理業の統計データが使用出来る。

 それは、母集団企業数105,538社、従業員460,931人の調査データである。

 発表されているのは105,538業者の全体の金額であるため使いにくい。母集団数で除して、一社当りの金額にする。下記である。


平成26年度 不動産賃貸業・管理業 百万円 一社当り 円
母集団企業数(社) 105538  
従業者数(人) 460931  
     
売上高 8512085 80653947
     
売上原価 2487777 23572253
     
商品仕入原価 542682 5142037
材料費 38243 362360
労務費 79454 752846
外注費 361190 3422353
減価償却費 216621 2052531
その他の売上原価 1249587 11840125
     
売上総利益 6024308 57081694
     
販売費及び一般管理費 4780888 45299999
     
人件費 1352337 12813699
地代家賃 815511 7727155
水道光熱費 172771 1637047
運賃荷造費 6702 63505
販売手数料 37169 352181
広告宣伝費 46697 442469
交際費 44120 418050
減価償却費 647983 6139788
従業員教育費 2719 25764
租税公課 385908 3656565
その他経費 1268969 12023774
     
営業利益 1243421 11781695
     
営業外損益 51121 484383
     
営業外収益 632480 5992892
営業外費用 581359 5508509
     
支払利息・割引料 448438 4249053
その他費用 132921 1259456
     
経常利益(経常損失) 1294542 12266078


 上記統計データより、必要諸経費を次のごとく求める。

イ、中間投入(修繕費)

 上記データには、修繕費の項目は無い。
 その他経費で12,023,774円計上されている。この中に修繕費は含まれていると判断する。

 アパートの修繕費は、「賃料収入の5.6%」と、2005年発行の拙著初版『賃料<地代・家賃>評価の実際』P79(プログレス)で分析されて入る。

 この割合を採用する。

 売上高は、80,653,947円であるから、

    80,653,947円×0.056=4,516,621円

である。

ロ、固定資本減耗

 固定資本減耗は、建物の減価償却の要因であり、減価償却費の金額を採用する。6,139,788円である。

ハ、純間接税

 純間接税とは、生産・輸入品に課税される税より、補助金を差し引いたものである。

 賃貸不動産に課される税金は、固定資産税と都市計画税である。補助金は無い。

 このことから、純間接税は、固定資産税と都市計画税と解釈する。

 中小企業庁の上記データには、固定資産税・都市計画税の項目は無い。租税公課の項目があるからこの項目の金額を固定資産税・都市計画税相当と判断して採用する。

 3,656,565円である。

 売上高に対する価格割合は、

       3.656,565円
            ───────  = 0.045                               
             80,653,947円

4.5%である。

 前記した『賃料<地代・家賃>評価の実際』P79では、アパートの必要諸経費の総収入に占める割合は、0.38である。

 そして同書P81で、アパートの必要諸経費の中の公租公課の占める割合は、0.155である。

 これより、アパートの総収入に占める公租公課の割合は、

               0.38×0.155≒0.059

5.9%である。

 前記4.5%は、5.9%の割合には及ばないが、採用するに概ね妥当と判断する。

ニ、住宅ローン支払利子

 中小企業庁の上記データには、住宅ローン支払利子の項目は無い。営業外費用に支払利息・割引料の項目があることから、この金額相当とする。4,249,053円。
 
ホ、支払地代

 中小企業庁の上記データには、支払地代の項目は無い。

 地代家賃の項目があるが、地代と家賃の金額の区分が無い。この項目はどちらかと云えば、家賃の金額のウエイトが圧倒的に多い項目である。それ故、支払地代金額不明として、不採用とする。

ヘ、合計

 上記イ〜ホの合計は、18,562,027円である。

 売上高に占める割合は、

        18,562,027円
              ───────  = 0.230                             
                80,653,947円

23.0%である。

 平成26年度の持家帰属家賃(帰属家賃生産額である)は、46兆6279億円である。

 この帰属家賃はみなし賃料売上高である。

 不動産賃貸業・管理業の控除費用の割合は、上記より売上高の23.0%と求められた。

    46兆6279億円×(1-0.230)≒35兆9035億円

 純帰属家賃は、35兆9035億円と求められた。

 不動産業の総生産の帰属家賃込みの住宅賃貸業は、49兆2554億円である。

 帰属家賃を控除した住宅賃貸業は、

         49兆2554億円−35兆9035億円=13兆3519億円

である。

 不動産業の総生産のその他不動産業の金額は、7兆0514億円であった。

 帰属家賃を含まない不動産業の国内総生産は、

       住宅賃貸業       13兆3519億円
       その他不動産業   7兆0514億円 
                 計             20兆4033億円

20兆4033億円と求められる。

 国内総生産に占める割合は、

                   20兆4033億円
               ─────────  = 0.04190≒0.042               
                  486兆9388億円

4.2%である。

 4.2%が実質不動産業の国内総生産に占める割合である。11.6%という大きな割合では無い。

 まとめると、帰属家賃を含まない不動産業の総生産と国内総生産に占める割合は、

      金額     20兆4千億円
      占める割合  4.2%

である。

 帰属家賃を含まない不動産業の総生産は、上記により20.4兆円と求められたが、これは私の個人的分析によるものであり、算出分析に必要な未公表のデータ数値が内閣府から発表されれば、異なった数値になることを了承して欲しい。


  鑑定コラム1533)
「11.7兆円 不動産業新規貸出額(平成28年6月)」

  鑑定コラム1538)「国内総生産と土地価格の関係」

  鑑定コラム1557)「各県の県内総生産」

  鑑定コラム1563)「国内総生産の60%は賃金の金額である」

  鑑定コラム1564)「一人当り県内総生産と月額平均給与」

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