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273)百貨店の家賃割合は10.6%か

 百貨店を取り巻く環境は厳しい。売上高は減少の一途であった。
 高島屋を例にとって、売上高の推移を、各年の貸借対照表の発表数値で見ると次のごとくである。

    平成 9年2月    1,085,948百万円
  平成10年2月    1,087,734 
  平成11年2月    1,043,590 
  平成12年2月    1,011,519 
  平成13年2月      991,149 
  平成14年2月      984,853 
  平成15年2月      952,824 
  平成16年2月      922,899 
  平成17年2月      831,006 
  平成18年2月      832,917
 
 平成10年には売上高が1兆円を超え、いわゆる1兆円企業であったが、平成10年以降売上高が減少してきた。
 平成18年になってやっと前年比よりわずかに増えた。
 売上減が止まった。
 他の百貨店の売り上げも、同じくわずかであるが増額している。
 このことからやっと百貨店の業種も底を打ち景気回復が本物になってきたと言えるのでなかろうか。

 本鑑定コラムの151)「東京都心部の住宅地価の底は2002年4月だったか」と、168)「渋谷商業地価は2002年が底だったか」の2つのコラムで、不動産の価格の底は商業地・住宅地とも2002年が底という記事を書いた。

 土地価格の動きと百貨店の業績の間に4年間のタイムラグがあると短絡的には言えないかもしれないが、今回のこの経済現象は一つの経済経験測になるのでは無かろうか。
 これは経済学を論ずる経済学者の学問では絶対把握できないものであろう。

 もしこの経済現象が経済経験測の一つになれば、不動産鑑定評価に携わる者の一人として、不動産鑑定評価による土地価格分析結果が景気回復を把握する一つの指標として見られることになり、不動産鑑定評価が経済への社会貢献することが出来る存在になることになり、大変嬉しいこととなる。

 土地価格以外にも、業種によっては4年程前から業績回復の兆候が見られたが、それらと比較すると、百貨店に景気回復の動向が顕著に現れるのは随分と時間の差があるものであると思う。

 売上高の減少は、平成10年に対して平成17年は23.6%の減である。
 この間、人件費の抑制、仕入れ原価の引き下げ等あらゆる支出の削減の努力が行われたであろう。

 賃借している店舗の賃料の減額交渉もなされたと思われる。
 百貨店は自社所有の土地建物が多いが、賃貸借した場合、その家賃は売上高の何%程度であろうか。
 百貨店の売上高に対する家賃割合を分析してみる。

 高島屋、伊勢丹、三越、大丸、松坂屋の5つの百貨店の2005年2月期(伊勢丹のみ2005年3月期)の決算書の数値を使って、家賃を推定する。

 家賃を構成する公租公課、火災保険料、修繕費、管理費は、財務諸表では数値が現れてこない。やむを得ず次の条件でそれらの数値を推計するものとする。

 土地の固定資産税、都市計画税は、貸借対照表の土地価格を採用し、
        土地価格×0.3×0.017
の式で求める。0.3は価格修正率、0.017は税率である。

 建物の固定資産税、都市計画税は、貸借対照表の建物価格を採用し、
        建物価格×0.5×0.017
の式で求める。0.5は価格修正率、0.017は税率である。

 火災保険料、修繕費、管理費は貸借対照表の建物価格を採用し、次の式で求める。
   火災保険料   建物価格×0.0015
    修繕費          建物価格×0.02
    管理費          建物価格×0.05

 減価償却費は、損益計算書の減価償却費の数値を採用する。
 百貨店の土地建物の全てが自社所有というものでなく、一部借地借家というものがある。それらを除外することは出来ないことから、損益計算書に計上してある地代家賃の数値を採用する。その部分については、純賃料の部分で二重加算の現象が生じることになるが、それは軽微と判断して無視するものとする。

 上記の各数値の合計を必要諸経費とする。
 百貨店の賃料の純賃料と必要諸経費の割合を、
            純賃料      0.5
            必要諸経費    0.5
とする。即ち、純賃料は必要諸経費と同額とし、
      必要諸経費×1.0=純賃料
とする。

 百貨店の賃料を、
      純賃料+必要諸経費=百貨店の賃料
として求める。

 求められた百貨店の賃料を売上高で割って、百貨店の家賃割合を求める。
 次の公式である。
      百貨店の家賃割合=家賃÷売上高

 分析例の説明の一つとして、伊勢丹の財務諸表(2005年3月期)の数値で分析する。
 伊勢丹の売上高等の数値は下記の通りである。
      売上高      434,405百万円
      土地価格           36,270
      建物価格           64,692
である。
      減価償却費          5,640
      地代家賃            8,004
である。

 土地建物の固定資産税・都市計画税を次ぎのごとく求める。
   土地    36,270百万円×0.3×0.017=185百万円
   建物    64,692百万円×0.5×0.017=550百万円

火災保険料、修繕費、管理費は次のごとく求める。
      火災保険料    64,692百万円×0.0015= 97百万円
      修繕費      64,692百万円×0.02 =1294百万円
      管理費      64,692百万円×0.05 =3235百万円

 必要諸経費の合計は、
      減価償却費          5,640百万円
      地代家賃            8,004百万円
      土地税                185百万円
      建物税                550百万円
      火災保険料             97百万円
      修繕費              1,294百万円
      管理費              3,235百万円
       計               19,005百万円
である。

 純賃料は、
      19,005百万円×1.0=19,005百万円
である。

 伊勢丹の賃料は、
      19,005百万円+ 19,005百万円 =38,010百万円
である。

 売上高に占める家賃の割合は、

           38,010百万円
                   ────────  =0.0874≒0.087               
                     434,405百万円
8.7%である。

 同様にして、他の4つの百貨店の家賃割合を求め、伊勢丹の家賃割合を加算して平均値を求めると、
      高島屋      0.126
      三越       0.118
      大丸       0.110
      松坂屋      0.091
      伊勢丹      0.087
      平均       0.106 (標準偏差 0.0153)
である。

 百貨店の家賃割合は平均で10.6%と求められた。
 百貨店の家賃は売上の10%ということか。
 何だか飲食店の家賃割合に似た割合である。

 アメリカのリートの実際を紹介する『入門不動産投資信託』(R・L・ブロック著 翻訳松原幸生・河邑環)という本が、プログレスという会社(電話03-3341-6573)から発行されている。

 その本のあるページに、私は強く惹かれたと前に鑑定コラムに書いた。
 強く惹かれた内容を再記すると、その本のP82の次の文章である。

 「あるモール・リートの賃料は1平方フィート当り約40ドルと高額で、1平方フィート当りの売上高も400ドルに達する。」

 即ち、アメリカのモールの賃料は、売上高の10%と言っている部分である。
 日本の百貨店の賃料を分析したが、その結果は10.6%で、アメリカのモールの売上高に対する賃料割合とほぼ同じである。これを偶然の一致と考えるべきか。

 私が分析した前記百貨店の家賃割合が絶対というものでは無い。条件に想定のものがあり、実際値が分かれば、家賃割合は変わってくる。一つの目安と思っていただきたい。

 家賃が平成10年以降変更していないとしているならば、その間に売上高は23.6%の減少と云うのであるから、平成10年の家賃割合は、
      10.6%×0.764=8.098%≒8.1%
ということになる。

 現時点の伊勢丹、松坂屋の家賃割合は8.7%、9.1%である。この割合と上記の平成10年の割合から、百貨店の家賃の割合は、8%程度が経営的に好ましい割合では無かろうかと思われる。

 下記に上記家賃割合算出の一覧表を記す。

百貨店の売り上げに対する家賃割合             (百万円)
      高島屋 伊勢丹 三越 大丸 松坂屋
               
決算期     2005年2月28日 2005年3月31日 2005年2月28日 2005年2月28日 2005年2月28日
               
売上高     831006 434405 833870 461166 302413
土地価格     118539 36270 195879 42216 51234
建物価格     79451 64692 101246 59438 44690
               
減価償却     8910 5640 10610 6169 4047
地代家賃     36540 8004 29281 14299 5932
土地固定・都市税 土地価格×0.3*0.017   605 185 999 215 261
建物固定・都市税 建物価格×0.5*0.017   675 550 861 505 380
火災保険料 建物価格×0.0015   119 97 152 89 67
修繕費 建物価格×0.02   1589 1294 2025 1189 894
管理費 建物価格×0.05   3973 3235 5062 2972 2235
               
必要諸経費     52411 19005 48990 25438 13816
               
純賃料 必要諸経費×1.0   52411 19005 48990 25438 13816
               
家賃 必要諸経費+純賃料   104822 38010 97980 50876 27632
               
家賃割合 家賃/売上高   0.126 0.087 0.118 0.110 0.091
               
家賃割合平均 0.106            
標準偏差 0.0153            


 上記で引用した鑑定コラムは、下記をクリックすれば繋がります。

  鑑定コラム151)東京都心部の住宅地価の底は2002年4月だったか

  鑑定コラム168)渋谷商業地価は2002年が底だったか


 売上高に対する家賃割合について、下記の鑑定コラムがあります。

  鑑定コラム18)店舗売上高と家賃割合

  鑑定コラム25)牛どん吉野家の家賃6%

  鑑定コラム144)レンタルビデオ店の家賃は6%か

  鑑定コラム206)病院の家賃は売上の8%か

  鑑定コラム27)インターネットショップの家賃割合


 百貨店の家賃については、下記の鑑定コラムがあります。

  鑑定コラム541)「伊勢丹吉祥寺店の家賃割合は6.3%」

  鑑定コラム274)「新宿の百貨店の賃料」


 東京の2008年の百貨店の売上高については、下記の鑑定コラムがあります。

  鑑定コラム624)「東京の百貨店の売上高」

  鑑定コラム889)「イオン一社の売上高は、全百貨店の売上高をしのぐ。5年後に」

  鑑定コラム1100)「銀座松坂屋は4年後新装再開店出来るのか」
 

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